第74話「エルフ村分裂」
夏休みが終わり、寿の里へ帰ってきた。新学期が始まり憂鬱な学校生活が戻ってきた。始業式を終え、放課後になった清志たちはクレイジー・ノイジー・シティへ向かった。
「結局一か月くらい休んじゃったね。もしかしてバトルロワイアルも終わってるかな。」
「俺は第二回で優勝できたから満足。つーか魔導王の言う盗人って一体いつになったら出てくんだ?モチベーションが持たねえよ。」
「また人狼の銀みたいな相手がやってきたらと私は嫌だな。このまま平和に過ごしてもいいくらいだ。」
「まあなるようになるのです。とりあえずククリたちの村に行きましょうか。一か月も顔を合わせてないからきっと寂しがっているのです。」
そんなわけで四人はククリたちの住む森人族の村まで歩いて向かった。その途中クレイジー・ノイジー・シティの郊外には未だちらほらプレイヤーの姿が見える。前よりだいぶ減ったがすべて終わったというわけではなさそうだ。
「…なんか変だな。」
「どうしたのですか?」
「ここら辺アンノウンもあんまりいないし、ダンジョンはもっと先だろ?なのにあいつら何かを探しているみたいにうろうろしてなんか気持ち悪い。」
アンノウンを狩るわけでもプレイヤー同士で争うわけでもない。ただうろうろと歩き回るプレイヤーたちにに話しかける気も起らない。あまり近づかないようにしながら歩みを進めた。
「!?…
扉を開くと村の門番の一人である。森人の男ノノがいた。何度かここに通っているうちに話をするようになって今では仲が良い方だ。森人の多くの言葉は清志たちには方言のように聞こえるが、彼はこちらに合わせた言葉を勉強してくれたようで今では違和感なく標準語を話している。
「よ。なんか驚いてるみたいだけど、どうした?」
「いえ、大したことでは。ククリ様にご用でしょうか?申し訳ありませんが、いまは立て込んでおりまして。クルル様から皆様が来られた際はお通しするように言われております。こちらへどうぞ。」
「ククリさんが、珍しいね。」
ノノに案内され、清志たちはククリらの家へ向かった。ククリの家は変わっていて巨大な大樹をくりぬいて作ったかのような造形をしている。ほかの村人の家は小さな木々が絡まり合って家になっているのでこれもまた不思議だ。テーブルも椅子も木や石でできている。火事が怖いと思うけれど、この村において火事というものはめったに起きないらしい。
「おお
クルルが出迎えてくれた。すでに話が伝わっていたらしい。もちろんこの村に電話など存在しないのだが、彼らにはある連絡手段がある。それが村で共存する木霊による連絡だ。木霊とは村にある木々に住み着く精霊の一種で彼らを介して森人族は遠くにいるものたちとも簡単に話をすることができるのだ。清志たちにはぼんやりとしかその姿は確認できないが、ククリたちが言うにはとてもかわいらしい姿をしているらしい。
「そ、それで魔導王様は…来てないだか?」
そしてこれである。うつむきながら顔を真っ赤にしてもじもじと聞いてくる。夏に入ってからここに来るたびこれだ。
「一緒ではないな。いつも監視されてるみたいだけどさ。」
「そっか。まあ仕方ないだ。」
話によると清志たちが期末試験前で奮闘している中、森人族が大量に拉致された事件があったらしい。犯人は清志が環に連れ去られたときに現れた
「鮮やかに人質を救出する冷静さ、劣勢にもかかわらず焦りの一つも見せない豪胆さ、人知を超えた魔法を操る叡知、あれでほれない方がおかしいだよ~。」
とのことである。まあ好みは人それぞれだろう。清志としては蜘蛛女を倒したときに使用したという、清志と同じ変身するエピックウェポンが気になる。しかし魔導王には粗悪品だわざわざ見せないといわれてしまった。
「それでククリはどうしたのですか?忙しいという話でしたが。」
「それは…。」
クルルが答えようとしたとき、バンと乱暴に扉があけられる音がした。驚いてその方向を見るとしわがれた森人の老人が険悪な表情でこちらをにらんでいた。
「外が騒がしいと思えば、また汚らしいサルどもを連れてきおってどういうつもりじゃクルル!」
「キキト老、彼らは魔導王様に仕える戦士だ。無礼なことを言うな。」
老人の名はキキトというらしい。
「まど…ちっ似たような顔をしておるからじゃ。民の動揺を誘うのも理解できぬのか。浅はかな。」
「選別の儀はまだ先だ。用がないなら帰るがいい。」
「神樹の加護もない出来損ないが…。」
老人は悪態をつきながら出ていった。それを見てクルルはため息をついた。一方瞳たちは怒り心頭である。
「なんだあのおじいさんは!いやな奴だな!」
「本当ですよ!勝手に入ってきたと思ったらなんか嫌味言ってくると形悪すぎなのです!」
「本当に申し訳ないだ。」
「謝らないで、クルルさんのせいじゃないでしょ。もしかして、ククリさんが忙しい理由ってあの人がかかわってたり?」
クルルとキキトは興味深いことを言っていた。同じような顔、民の動揺、選別の儀、神樹の加護。清志はそれらの単語から今の状況を推測した。
「俺たち以外の人間、プレイヤーがエルフたちを襲ってるってことか?」
「よくわかっただね。」
クルルは驚いた顔をした。清志は内心ガッツポーズをとる。
「まあそっちはあんまり問題じゃないだ。」
「あれ?」
問題じゃなかったらしい。ということは重要なのはクルルの言っていた選別の儀のほうだろうか。また間違えたら嫌なのでもう何も言わないことにした清志だった。
「選別の儀って言ってたよね。関係あるのはそれかな?」
「…そうだよ。正直かなり困っているだ。」
あってるんかい!清志はテーブルに頭を打ち付けた。よくわからないがものすごい敗北感があった。
「何やってるんですか清志。」
「君ってたまに変なことになるよな。」
「…それで具体的にどう困ってるんだ?」
クルルは言いにくそうにした唇をかむと、息を吐いていった。
「簡潔に言うと…村が分裂するかもしれないだ。」
「村が分裂!?」
「最悪村で紛争になるかも…。はあ。」
清志たちがバカンスを楽しんでいる間に、どうやらエルフ村はとんでもないことになっていたようだった。
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