第73話「水族館」
波乱の江の島旅行もとうとう最終日となった。最後に向かったのは水族館、巨大なショーウィンドウの奥に多種多様な海の生き物たちが展示されている。ライトアップも合わさって幻想的な世界を形作っていた。
「すごいぞ!イワシ!いっぱいイワシがいる!」
「リズ走らない。小学生じゃないんだからイワシ位で…。」
『いい塩焼きにできそうだな。』
「…何言ってるの?」
魔導王たちは清志たちを気にする様子もなく好き勝手に回るようだ。あまり集まって動いても窮屈だろうと黙認し、残りのメンバーでどこをめぐるか話し合った。
「見てみてイルカショーがあるんだって。僕見たことないんだよね。」
「十一時からですか。一時間ぐらいはまだ余裕がありますね。」
「私はペンギンが見たいな。ぺんぺんぺんぺん。かわいい。」
「清志はどこに行きたいですか?」
「カニ。」
「ん?」
「カニ。」
そうして四人はいろいろなコーナーを回った。深海魚、小魚、サメ、など個々の興味は違っていたがみんなで回るとどこも楽しかった。途中魔導王たちが大男と少女の二人組と話していた気がしたが気にしないことにした。清志はどうもカニが本当に好きなようで、瞳たちが引きずらなければ数時間タカアシガニを観察し続けていたかもしれない。その後イルカショーを見終えたタイミングで、清志と洋子は白夜に呼ばれた。瞳たちはシドとともにしばらく回ることになり、清志と洋子は白夜とともに屋台でアイスクリームを購入しそれをなめながら街道を歩いた。
「んで、わざわざ呼び出して何の用だ?もう一回タカアシガニ見に行きたいんだけど。」
「どんだけかに好きなんですか?いや、まあいいですけど。」
「あーそれだがなあ…。」
いうべきかいささか悩むといった様子で白夜は口ごもる。強い日差しにアイスクリームがこぼれそうになるので何とか口で受け止めながら二人は話が始まるのを待った。
「麻里佳と再婚するつもりだ。」
「…。」
「まあ…すぐというわけじゃあないがな。」
うすうすわかっていたことであるが、どうやら本当に再婚するらしい。清志がちらりと洋子を見る。やはり喜ぶという様子ではないが、驚きもない。やっぱりといった表情をしていた。
「ま、その方がいいですね。お父さんが独り身だと、私も結婚しにくいのです。」
洋子はやれやれやっとかと、大げさなジェスチャーをして笑った。父の気持ちを尊重する、それが当然といわんばかりだ。自分ならそう簡単に受け入れられるだろうかと、洋子の心の強さに感心した。白夜はわしわしと洋子の頭をなでるといった。
「いいかお前らあ。人生浮き沈みがある。いいことが有ればそれ以上に悪いこともある。その繰り返しだ。だが、何があってもあきらめるもんじゃねえ。沈みきったら浮くだけだ。沈んだままじゃもったいねえからなー。長生きはするもんだ。」
洋子の母、美鈴が亡くなってからもう7年は経つだろうか。あの日が白夜にとって沈みであったというのなら、今回の再婚が浮きなのだろうか。大切な人を失っても次の出会いがある。だから大丈夫だとそう言いたいのだろうか。それを理解するには清志自身も洋子もまだ幼すぎると思った。それとも別の意味があるのかもしれない。そんな考えを巡らせながらも、清志はやはりこういうべきだと思った。
「とりあえず再婚おめでとう。白夜にはもったいないかもしんねえけど。」
「生意気一点じゃねえぞこのクソガキがあ。」
「頭わしゃわしゃすんな。はげるはげるって!」
「はげたら坊主にすればよいのです。そのまま解脱しましょう。」
「ほぼそれ死ねって言ってない!?」
「じゃあお前ら二人出家できるようにするかあ。」
「私までわしゃわしゃしないでほしいのです!」
白夜は二人の頭をかき混ぜるがごとく撫でた。文句を言いつつ二人も笑顔だ。とりあえず白夜が再婚してもこの日常は変わらない。そんな確信が生まれたのだった。その確信があっけなく崩れたのはそれから一か月も立たなかったのだが…。
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