第72話「バーベキュー」

 清志が目覚めると、車の中だった。車の後部座席に眠っている皆夫、瞳、洋子とともに敷き詰められ、少々狭い。ひとつ前の座席には楽しそうに会話をしているリズと、千歳がいた。


「千歳…よかった無事だったか。」


「あ、うん。大丈夫。」


「清志は大丈夫なのか?戻ってきた時倒れていてびっくりしたぞ。」


「魔力切れになったみたいでな。今は大丈夫っちゃ大丈夫だ。」


『魔力切れも何も、お前たちただの人間に魔力なぞないがな。』


 するとどこかニヒルな横やりが入る。一番前の座席を見ると、助手席には魔導王が座っていた。運転しているのは清志からは見えないが、おそらくシドであろうと推測した。


「いたのかよ。連絡したときまったく返事しなかったくせに。」


『なに誘拐されたことは知っていたからな、連れ戻そうとしたのだが返り討ちにあっただけだ。救出への貢献誉めてやろう。』


「上から目線でなんかすげーむかつく。」


「前からずっとこうなのですよ。」


 横を振り向くと目を開けた洋子がいた。。眠る瞳によりかかられて少し窮屈そうだ。


「起きてたのか?」


「はい。ちょっと目を閉じていただけですよ。清志も大変だったみたいですね。」


「まあな。やっぱこっちの世界だときつかった。洋子たちは銅だったんだ?」


「結局あの女の子には逃げられてしまったのですよ。謎解きゲームみたいな障害がたくさん出てきて、千歳がいる部屋につくまで何度も試練があったのです。」


「謎解きゲーム…。」


 ヨロイムシャのような近未来的ロボットが出てくるからには、きっとその謎解きも本当にゲームのような壮大なものであったのかと清志は疑問に思った。わざわざ聞くようなことはしなかったが、もしそうであるならそっちに行きたかったと内心公開したのだった。


「急いで急いでやっと千歳がつかまっていた部屋についたのですが、そしたら千歳が…。」


「洋子。」


 何やら愚痴らしき言葉を言おうとしていた洋子に対して千歳の声がかかる。瞬き一つなくじっと洋子を見つめた千歳は一言言った。


「黙って。」


「…はいなのです。」


 そうして洋子は黙り込んでしまった。なにがあったのかものすごく気になる、しかしおそらくそれを聞けば自分の命がないと思った清志はおびえる洋子の背中をさすってお茶を濁した。



 それからしばらくすると、夜の街灯りが強くなってきた。宿泊しているホテルから少し離れた場所であるが、なにやらレストランのような場所の駐車場に止まったようだ。シドに瞳たちを起こすように言われ、少しかわいそうな気がするも彼女たちの体をさすって起こした。その後車を降りて、ある場所に向かう。


「これってもしかして…。」


「来たかあ遅いぞお前ら。」


 そこは端的に言えば海岸に面した広大なデッキだった。夜の証明に照らされて波打つ江の島の海が一望できるその場所には、じりじりと肌を焼いてしまいそうなほど熱されている炭コンロがいくつも置かれていた。準備していたのは白夜と麻里佳、テーブルに置かれているたくさんの食材を見て清志たちはこれが何なのか完全に理解した。


「「「バーベキューだ!」」」


 瞳たちはそう叫んで炭コンロに群がっていく。白夜に走るなと注意されながら、体全体で喜びを表現していた。


「おいシド、どうしたんだよこれ。バーベキューはチャレンジ難易度の…。」


「いやーはっはっは。今回は俺も悪いことしちゃったからなー。強い敵も倒してもらっちまったし、せめてもの罪滅ぼしだぜ。本当に助かっちまったからなー。」


「…。」


 清志は何か引っかかる心地がした。シドもそうだが、魔導王もどこかわざとらしい気がした。まず清志が変身してなお手も足も出なかった実力者であるシドが本当に怪人マツルスに後れを取ったのだろうか。ほとんど戦闘は見ていないが、シドがヨロイムシャに後れを取るとは思えない。マツルスはそれと同格程度のはずだ。マツルスだけが以上に強かったのかそれともと、清志は思考を巡らせ一つの答えに行きついた。


「…もしかしてあの戦闘シドたちが仕組んだとかねえよな。」


「さて、じゃんじゃん焼いてくぞ!たくさん遊んで俺もう腹ペコだぜ!」


「おいシド!」


 そういってシドは食材を取りに行ってしまった。一度疑問に思ってしまえばほぼそれが答えとしか考えられなくなってしまった。黒幕がきれいに逃亡したことも、だれ一人大した傷を負わなかったことも、自作自演といわれれば納得できてしまうからだ。今すぐにでも問い詰めたかった清志だったが、


「清志!見てくださいでっかいエビ!これ焼くんですよ!ほらこっち来てください。」


「こんな大きなエビ初めて見たぞ!こんなエビがこの世界にいたなんて…!」


「…いやそれ伊勢海老だろ。どうやって焼くんだよ。火通らねえだろ。」


「あ、清ちゃん魔導王がなんかやってるよ。」


「ぎゃああ!真っ二つに割ってる!」


「瞳が聞いたことない悲鳴上げているのです!」


「……グロイ。」


「魔導王―千歳がなんか変だぞ。」


『この程度でビビるな。まあ慣れか。皆夫、これはお前たちで焼いてみろ。何事も経験だ。』


「はーい。…瞳ちゃん大丈夫?」


「あぶぶぶぶ…。」


「なんかあわ吹いてませんか!?」


 その光景に清志はふっと笑みがこぼれた。大人はきっと嘘つきだ。いつもそれで自分たちを振り回す。それでも最後にこうして笑い合えるのならきっとそれはそれでいいのだろうと納得し、清志は困った彼らを手伝いに行くのだった。

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