第71話「万能の弱点」

 遠・中・近距離攻撃、防御、スピード、ヨロイムシャはその全てを兼ね備えていた。魔力攻撃は全く効かず、物理攻撃しようにも刀と槍に防がれる。その上攻撃は強力で自分を守ることも危うい。退避しようと距離を取ろうものなら、弓矢で正確な射撃をしてくる。まさに万能の戦士だ。シドと怪人マツルスは壁を突き破り遠くで戦っているようだ。激しい戦闘音が聞こえてくる。助力は期待できない。この敵は、清志、皆夫、瞳の三人で対処しなければならないのだ。


「皆夫合わせるぞ!」


「わかった!」


 ヨロイムシャの両脇から二人同時に攻撃を仕掛ける。しかしヨロイムシャは一つ目であるというのにそのすべてをさばききった。やはり只の機械ではない、その武術は清志たちの技量以上だ。


「くうっ!」


 特につらいのは槍との攻防だ。リーチの長い槍と刀の相性は悪い。遠い昔近接の主力武器とは刀ではなく、より長い薙刀だったという。その歴史が証明するように槍は圧倒的に有利だ。皆夫はたまらず後ろに下がってしまう。その瞬間、ヨロイムシャは弓矢で射撃する。


「ホーリーギフト!」


 瞳が皆夫にバリアを張るも、防ぎきれず吹き飛ばされてしまう。そこに追撃が入る。再度弓を構えたヨロイムシャは皆夫を射殺さんと矢を放った。


「レグルス!」


 清志は足場を使って跳躍し、皆夫を抱えて退避した。ぎりぎりで矢の攻撃を避けると瞳の後ろに回る。


「ホーリーウォール!」


 瞳がホーリーギフトよりも強力なホーリーウォールを展開し、すべての攻撃を防ぐ。しかしそれも長くは持たない。それもそのはず、清志たちは現世という魔力濃度の低い場所により弱体化し、その上補助のためのブースターを使おうにも肝心のマナを持っていなかったからだ。まさかクレイジー・ノイジー・シティを遠く離れた土地でこうして戦闘になるなど考えもしなかったからだ。


「どうする!?これじゃあじり貧だ。」


「逃げるって言っても、この怪物が洋子ちゃんとリズちゃんに追いついたら…。選択肢にないよね。」


「ごめん二人とも…もう持たない…!」


 瞳の障壁にひびが入る。その後すぐに破壊され瞳に向かって刃が襲った。清志はそれを受け止めるが、膂力がすさまじくたまらず吹き飛ばされてしまった。三人重なるように壁に打ち付けられる。


「ぐはっ!」


 清志は変身できない、皆夫の必殺技も効果が保証できずリスクが大きすぎる。瞳の防御では守り切れない。ヨロイムシャの万能は清志たちの総合力を上回っていた。ヨロイムシャは不用意に近づかず、弓を構えた。先ほどより溜が長い。矢に光が集まっていく。確実に仕留めるための必殺技なのだと理解した。勝てない。清志たち全員がそう思った。


「…そうだ清ちゃん、逆に考えよう。勝てないなら勝たなくていいんだ。」


「は?」


「僕たちは弓と刀と槍に勝てない。三つ合わさったあれは強すぎる。絶対に勝てないんだ。」


「何言ってんだよ皆夫!?」


 清志は退避のために二人を抱えて跳躍した。それにヨロイムシャは攻撃を切り替えて矢を連射する。何とかよけきるが、長くは持たないだろう。そんな中わけのわからない皆夫の言葉に困惑した。


「全部相手にするから負けるんだよ清ちゃん!最初から無視してよかったんだ!」


「!」


 その時清志の頭は皆夫の真意を理解した。清志一人では刀に勝てない、皆夫一人では槍に勝てない、瞳一人では弓に勝てない。ならば一つに絞ればいい。たった一つしか使えなければ、三対一だ。勝機が見えてくる。三対三はあきらめて三対一にすれば勝てるかもしれないということだ。


「瞳ちゃん!ヨロイムシャに目いっぱい近づきたい。行けそう!?」


「一呼吸置けたからないつでもいけるぞ!」


「わかった。行くぞ!」


 瞳が再度ホーリーウォールを発動する。そのまま清志たちはヨロイムシャに接近し、即座に障壁を解いた。皆夫が繰り出された刀を防御し、三人は一か所に固まり武器を構えた。


「つまり一点突破だな?」


「さっすが清ちゃん話が速ーい!」


「サポートは任せろ!ぶちかまして来い二人とも!」


「「はああああ!」」


 清志と皆夫は叫び声をあげて、ヨロイムシャに切りかかった。ヨロイムシャの攻撃は清志が防げば皆夫が攻撃し、皆夫が防げばその合間を潜り抜けて清志が攻撃した。目配せもない直感で互いの行動がわかる。ゲーム時代からはぐくまれた共感覚が今存分に発揮されていた。


「しゅごおおおおお!」


 ヨロイムシャは歯車がかみ合わなかのようなうなりをあげた。それもそのはず、たった一か所に固まられてしまえば、たとえ六本の腕を持とうにもそのすべてを最大限活用できない。せいぜい槍と刀をかろうじて使えるかどうか、弓は完全に封じられた。ただ一点、相手が固まっているというだけでだ。万能型の弱点、それは一点特化に対応しきる術を持たないことだ。それでも固いしかし確実にダメージを与えていった。


「ごおおおおお!」


「!?」


 体中が傷だらけになり、満身創痍となったヨロイムシャはそれでも止まることがなかった。先ほどより巨大で耳をふさぎたくなるような異音を発し、槍も刀も捨てて体をひねり腕を振り回して清志たちを吹き飛ばした。


「「ぐはっ!」」


 後退した清志たちがヨロイムシャを見据えるころにはヨロイムシャが煌々と輝く矢をつがえこちらに構えていた。


「くっ!」


 防御を捨てたヨロイムシャの最後の一撃だ。すぐによけようにもすでに清志たちも満身創痍であった。そこで瞳が一人前へ出た。


「一点特化、そういうやり方もあるよな。大丈夫、私が防いでみせる!セイクリッド・ランパート!」


 ホーリーウォールは全方位を守る障壁だ。今までほとんどの場合それで事足りていたし、安心感もあった。だが相手が一ベクトルからのみの強力な攻撃をしてくるのなら守る場所は一点でいい。その他のリソースをすべて守るべき一点に集中させる。厚く、硬く、壊れない聖なる城壁を創り出す。それはヨロイムシャ渾身の一撃を正面から受け止めた。


「雷鳴印テンペスタス!清ちゃんお願い!」


「おう!レグルス、変身!」


 ブースターがなくとも魔力を集中すれば一瞬だけなら変身できる。清志の体が炎に包まれ金色の騎士へと変身した。雷鳴印を付与され渡された皆夫のテンペスタスと、自らの刀レグルスを両手に持ち、跳躍した。


「これで終わりだ!鳴神!」


 金色の体が青い光とともに加速され落雷のごとくヨロイムシャを切り飛ばした。体を二つに切断されたヨロイムシャは爆発し跡形もなく破壊された。


「ふう。時間かかったー。」


「そこ?強敵だったじゃないんだ?」


「いやまあそうなんだけど、なんつーか体感時間長くてつい。」


「なんか聞いたことあるやり取りだなあ。何はともあれ、お疲れ二人とも!」


「お疲れ!瞳ちゃんいなかったらやばかったよ。」


「だな。だけど皆夫の作戦もなかったら負けてただろ。」


「確かに!本当もうくたくた…あ。」


「大丈夫?瞳ちゃ…あれ?」


「ちょどうした?うわっ!」


 三人で互いの健闘をたたえ合うが、突然皆夫と瞳がよろけたかと思うとそのまま清志の方へ倒れ込む。二人の体重を支え切れずそのまま清志も倒れてしまった。


「ご、ごめん。今日だけで二回も…どうしちゃったんだろ?」


「思った以上に体が疲れちゃってたのかな?ごめん清ちゃん。ちょっと動けないかも。」


「魔力切れってところか。…やべえ俺も動けない。あとは任せるしかねえな。」


 こうしてヨロイムシャとの戦いは終わった。不測の事態、準備もろくにできない状況下での強敵との戦い。その恐ろしさと乗り越える心構えを清志たちは学んだ気がした。そしてシドが戻ってくる頃には三人仲良く寝息を立てていたのだった。


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