第70話「機神ヨロイムシャ」
千歳が謎の二人組にさらわれてすぐ、シドは砂浜から這い出てきた。体中砂だらけであるが、傷は既に治りきっているらしい。清志たちの元へ行き気まずそうに言った。
「すまん。まさかあんな怪物が現れるとは。」
「体は大丈夫なのですか!?」
「大丈夫だ。それより千歳は…連れ去られたか。」
「一瞬の出来事で全く反応できなかった。…畜生。」
「心配すんな。さっき怪人…マッチョには発振器をつけることができたからな。すぐに終える。」
「マツルスだけどな。私もすぐに行きたい。…だが勝てるのか?」
ヴァンパイアであるシドが押されるほどの相手だ。次に戦って勝てる保証はどこにもない。自分たちも戦力になるかどうかと瞳は言った。清志たちも同じ気持ちだった。しかしシドははっきり言った。
「勝てる勝てないじゃあねえ。男には戦わないといけないときってのがある。千歳をあのままにしていられるのか?」
「…俺たちもいく。当然だ。」
するとリズも手洗い場から帰ってきた。事情を聴くと、清志と同じように自分もいくと言い出した。洋子は止めるが、
「よし、どちらにしても手が足りねえ。魔導王がいない今、お前たちに頼るしかない。怪人マジムチは俺が何とかするから、お前たちは千歳の救出を頼むぞ。」
「「「「おう!」」」」
言い争う時間もなく、すぐに人さらいの居場所へと向かうことになったのだった。シドの車に乗り込み、向かったのは江の島のとある雑木林だった。本来大した面積もなさそうなただの林、しかしひとたびそこに入ればまるで異界に入ったかのように全く異なる景色が広がっていた。そこには古びた西洋風の屋敷があった。かつて真っ白であっただろう壁は土埃で汚れ、窓のガラスもところどころ割れまさに廃墟といった場所だ。クレイジー・ノイジー・シティにも廃墟はあったが、こちらはまさにホラー映画の舞台にもなりそうな風貌だ。
「ここに千歳が、…やはり誘拐犯は魔道王の言っていた盗人と関係があるのでしょうか?」
「ちょっとふざけた感じの女の子だったけど…あの怪人はものすごくやばい感じがした。もしかしたらあの銀さんっていう人狼よりも…。」
「心配すんな怪人は俺が何とかしてやる。って言ってもほかにどんな敵がいるかわからねえ。気を抜くなよ。」
「千歳…大丈夫かな…。」
「必ず助ける。清志君。魔道王と連絡とれたかい?」
「いいや。こういう時に限って…。行こう。時間が惜しい。」
今この瞬間、千歳がどんな目にあっているかと考えれば清志たちに一刻の猶予もなかった。シドが先頭を切って洋館のドアをけり破る。エピックウェポンを起動した清志たちはそれに続いて中へ足を踏み入れた。玄関は広間になっており、真ん中には二階へと昇る階段があった。敵はそこで堂々と待ち構えていた。
「なーはっはっはっは!臆さずここまでやってくるとは真勇か蛮勇か、歓迎するぞ人間ども!…多くない?一二―三、四ー、ご~…六人もいる。」
「千歳はどこだ!?早く返せ!」
リズが叫ぶ。しかし水着姿で仁王立ちしていた少女は頭を左右に揺らして、ぶつぶつと何か言っていた。
「もしかしてこれやばい?私殺されちゃう?わたしちぬの?…逃げよ。行け怪人マツルス!私が逃げる時間を稼ぐのだ!」
「シュコ―…シュコ―…!」
少女が叫んだかと思うと彼女の背後からガスマスクの大男が現れた。千歳を誘拐した怪人マツルスだ。不気味な呼吸音を立てながら清志たちの元へ突進する。それをシドが受け止めた。
「さっきは良くもやってくれたな。お礼参りに来たぜ!」
「そうだったあいつ吸血鬼じゃん!これじゃあ他のがこっちに来ちゃう!仕方がない来い機神ヨロイムシャ!残りの子供を倒すのだ!」
そういうと現れたのはまるで現実とは思えない存在だった。蜘蛛のような六本の足と弓、槍、刀をもつ六本の腕、輝く金色の目を持つ機会の怪物が現れたのだ。近未来系RPGに出てきそうなその姿はまるでこの場所に似合わなかった。少女はすたこらさっさとにげていく。清志たちはそれを追跡するにもヨロイムシャが邪魔をした。
「清志、皆夫、瞳!そいつをひきつけろ!リズたちはあの子供を追え絶対に逃がすな!」
シドはそう叫ぶ。あの少女が呼び出したということはこのヨロイムシャもシドと対等以上に戦うあの怪人マツルスと同等の力を誇るのだろう。洋子はためらいを見せるが、清志が叫ぶ。
「こっちは任せろ!洋子、リズを頼むぞ!」
「…わかったのです。清志たちも気を付けて!」
リズと洋子は少女を追って走り出した。それを攻撃しようとするヨロイムシャの攻撃を瞳がバリアで防いだ。
「行かせないぞ!チャーム!」
その技が機械であるヨロイムシャに聞いたのか定かではないが、攻撃の対象が瞳へと移る。リズたちが見えなくなり、清志たちも動き出す。
「サイクロンスラッシュ!」
皆夫の攻撃がヨロイムシャに直撃する。しかし少し動きが鈍るだけで傷一つつかなかった。
「やああああ!」
清志が切り込むがヨロイムシャにすべて刀で防がれる。そのままヨロイムシャの別の腕から矢が放たれた。
「危ない!ホーリーギフト!」
「ぐ、ぐあああ!」
瞳が咄嗟に防壁を張るが、矢の余りの威力に破壊され清志は吹き飛ばされた。
「清ちゃん!」
清志は立ち上がるが膝をつき、見上げるように敵を見据えた。泣き女の一件でも痛いほどわかった現世での大幅弱体。その上、相手は攻撃防御どちらも強力この上ない。たった数秒の攻防でそれがわかってしまう。たまらず清志は唇をかんだ。この敵に自分たちは勝つことができるのか、勝利のビジョンが全くわいてこなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます