第63話「シドの実力」

 7月も終わりに近づいてきたある日、清志たちはシドに呼び出された。場所は文化会館に付属する体育館で今日はシドが貸し切りにしたらしい。


「お、来たな。全員そろっているみたいだし、よしよしだ。」


「いきなりなんだよ。こっちは瞳の追加課題でてんやわんやなんだが。」


  実のところ瞳は期末試験で赤点レベルの成績であった。そんなわけで担任の白夜から追加課題を言い渡され、清志たちに泣きついてきた。仕方がないのでみんなで手伝っていたのだ。


「今日はシドさんが瞳のためにもなるサプライズをしに来たんだぜ!じゃじゃーんシドさんチャレンジ!」


 そうしてシドは4人にポスターのような用紙を見せた。そこには「シドさんチャレンジ」の概要が描かれている。シドはそれについて説明を始めた。


「ルールはとっても簡単、自分の得意な技でシドさんを上回ろう!シドさん難易度は人間、スーパーマン、鬼、ヴァンパイアの四段階あるぞ!クリアした難易度に比例して合宿でのご飯もパワーアップ!人間にも勝てないならごはんなしだぞ!期間は合宿が終わるまでだ。」


 以上がシドの提示したチャレンジの概要だった。実をいうと清志たちの旅費はシドが完全に負担してくれることとなったのだ。瞳は特に喜んでいたが、たしかに食費の負担までするとはいっていなかった。今回のチャレンジはそのためのものらしい。


「ち、ちなみにどんな感じにご飯は変わるのですか!?」


 洋子は既にワクワクしている様子だ。清志はどうせ大したことないものだろうと勝手に思っていたのだが、見通しが甘かった。


「よくぞ聞いてくれた。難易度人間をクリア場合コンビニ飯、スーパーマンをクリアすればファミリーレストラン、鬼をクリアできれば江の島のおいしい魚介やお肉を堪能できるバーベキューがつく。」


「コンビニ飯!?なあ清志君コンビニ飯だって!」


「なんでそこでうれしそうなんだよ!?」


「ちなみにヴァンパイアをクリアできたら?」


 シドは親指を立ててにっこり笑う。


「なんと一食三万円以上の高級ディナー付きだ!」


「「「「!?」」」」


 三万円、それは清志たちにはあまりにも巨大な額だった。洋子の月の小遣いは2000円、つまり一年分以上の小遣いだ。瞳に至ってはスケールが大きすぎるのか目を回している。


「もちろんヴァンパイアは超ゲキムズだから、とりあえず最終目標は鬼だな。大体理解できたか少年少女?」


「上回るって具体的に何をすればいいんでしょうか?」


「例えば、剣術勝負なら一撃でも入れられればオッケーだ。瞳の得意なシールド勝負なら攻撃を受け止めれればよし。極論腕相撲でも水泳勝負でもいいけどな。あ。ブースターはなし、修行にならねえからさ。」


「簡単すぎないか?」


「いうねえ、よしまずはシドさんの実力を見てもらおうじゃないの。清志ブースター使っていいから変身してみ?」


「は、ここで!?」


「しっかり人よけ対策はしてるから大丈夫だぜ。難易度はスーパーマンだ。俺は武器を持たないから好きに攻撃してみろ。一発入れたらクリア扱いにしてもいいぜ。」


「それはさすがになめすぎじゃねえの?」


 清志はブースターを起動させ刀を構えた。難易度はスーパーマン四段階の中の2番目、人間より少し優れているということだろう。変身した清志の身体能力はあの人狼をも上回ったほどだ。それを武器も持たずに退治するというのは馬鹿にされているとしか思えなかった。


「大けがしても知らねえぞ。変身!」


 刀から発せられた光が燃え上がり形を成して金色の鎧となる。清志はシドに刀の峰を向け、小手調べに面を放った。


「!?」


「分かりやすすぎるぜ。それじゃあ簡単によけられる。」


 清志の刀はシドには当たらなかった。シドは左右どちらにも避けていない。刃が当たらないギリギリの位置に後退し、回避したのだ。清志にはそれがまるで残像を切ったように感じた。


「っ!」


「刀はちゃんと持てよ。心配すんな。おまえじゃ一撃も当たんねえからさ。」


 次に清志は突きを放つ。喉元は警戒心が弱い弱点だ。そこを狙ったのだが、直撃する寸前、まるで刃が逃げるかのように見えるほど鮮やかな動きで首の側面ぎりぎりよけてしまった。


「ふふっ。」


 そのまま刀をはらい胴体を狙った。


「前のめってるぜ。ほらヨット。」


 その時シドは、清志の足を払い転ばせてしまった。完全に見切られ弄ばれていることは明白だ。うめき声をあげた清志にシドは言う。


「もう降参か?」


「まだまだ!」


 能力を使えばまだやりようはあるかもしれない。しかしここでそれを使ってしまえば精神的な敗北だった。清志はその後なんどもシドに挑むがどの技も見切られ最後には転ばされてしまった。ブースターと清志の魔力が切れるまでそれは続いたのだった。変身が解け膝をつく清志に対し、シドは息の一つも乱れていない。其れはそうだシドの動きは決して清志より早いわけではなかった。洋子たちでもわかるゆっくりな動きだけで清志のすべての技をさばいていたのだ。


「よくわかっただろ?今のお前じゃあ少し強い人間でも負ける。時に技術は力を超越するわけよ。」


「まだ、まだだ!」


 清志は変身が解けながらも刀を構えた。今日は終わりとシドは彼をなだめると、四人に言った。


「さてさてさて少年少女。人間の俺をクリアできなきゃあせっかくの旅行が飯抜きだ。まずは旅行まで死ぬ気で頑張ってくれたまえ。」


 そこで四人は理解した。このチャレンジはヴァンパイアどころではない、難易度人間から超高難易度であったことに。

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