第61話「始まりの終わりと新たな出会い」
バトルロワイヤル本戦において清志が人狼の銀と激戦を繰り広げる中、別の場所では何気に激闘が繰り広げられていた。一つは皆夫と八人のプレイヤーの戦いである。瞳の支援を拒否しながらも皆夫が戦えたのは彼のエピックウェポン「テンペスタス」の新たな能力「テンペスト」が追加されたことが一因である。どういうことかというと、今までの皆夫は「風」と「雷」のどちらか一方しか使用できなかったが、能力開放によって同時発動が可能になったのだ。
『なんなんだよこいつは!?風のバリアで攻撃は通らないわ、落雷が落ちてくるはくそげー過ぎるだろ!』
敵プレイヤーの心情はおそらくこんな感じだっただろう。それでも八対一という数の差は大きく、一人も逃さないようにするのは難しかった。しかしそこに思わぬ援軍が現れたのだ。
『おおやってんなああ俺も混ぜてくれよ!もうずっと探してたんだぜもう!』
そこに現れたのは以前の泣き女戦において乱入してきた戦闘狂の狂人だった。名前は
「ある程度広いスペースなかったら戦えなかったもんな。うまく誘導してくれたから本当に助かった。」
「そうでしょ?あの銀さんだっけ?に魔力攻撃は効果薄そうだったからさ僕も清ちゃんたちに丸投げできてよかったよ。」
「たしかに、威力的に言えば変身してても洋子のリフレクタルインパクトのほうが強いもんな。やっぱ耐性あったのかもしれねえ。」
「ぼくも物理攻撃力高める能力つけてもらってた方がよかったのかな?ああいう敵が増えたらやだなーって。」
「初期キャラは能力変えらんねえよー。」
「清ちゃんケチだなー。」
今日は皆夫が清志の家に来てくつろいでいる。洋子や瞳はそれぞれ別々の用事で来てはいない。コーラとポテチを肴に雑談を交えながら、今回の顛末をまとめていた。
「あと武先輩が見つけた囚われたプレイヤーたちの件はあれだったよ。わかる範囲で行方不明者の七割程度は見つかったんだよね。」
「催眠術師らしいプレイヤーも見つけたみたいだな。中学校の教員らしいけどよく知らねえ奴だった。学校のデータを消していたこととかいろいろ白状したらしい。高校のほうは自分じゃないって言い張ってるって話だけどそこはもうあっちに任せた方がいいよな。」
武たちはネットワークからのデータ復旧やあらゆる人脈を使い、異界での行方不明者を洗い出し清志たちがバトルロワイヤルに参加している間に彼らが囚われていた施設を襲撃した。拉致に協力したプレイヤーがそこを守護していたが、すべて制圧したという。保護したプレイヤーたちは衰弱していたが命に別状はなく、いまは病院がにぎわっているらしい。
「この催眠術師っていうのが結構厄介だったよな。催眠が解けても忘れた人間は剛ショックがないと思い出せねえんだもん。」
「結局瞳ちゃんで行方不明者を見つける作戦は失敗しちゃったもんね。」
こちらの事件は完全に武たちに丸投げしてしまった。何でも一人でできないというのはもどかしいが、それが現実というものだろう。いまだ見つかっていない行方不明者についても武たちが捜索しているようだが、あまり良い結果は得られないだろうと清志たちは思った。
「これで二回バトルロワイヤルがあったわけだけど、あと何回やるんだろうね。プレイヤーももうほとんどいないみたいだし。」
「つーかこんなことして何のメリットが有んだろうな?」
エピックウェポンを失ったプレイヤーは異界での出来事を全く忘れてしまっているという。再度あちらに入ってくる可能性は低いだろう。またプレイヤーの重点があるのか、それを行ったとして魔導王が言う盗人にどのようなメリットがあるのか清志たちには見当もつかなかった。
「ヒントは洋子や武が持っている蛇の指輪くらいかな。」
「あ、それ御手洗さんも持ってたよ。」
「もう一人見たよ。魔導王を仕留めに来た鬼の面をつけたプレイヤー。顔は見えなかったけど前にもあったような気がする。」
「へー誰だろう?」
「これから戦うことになんのかな?」
「今はわからないなー。」
わからないことだらけだ。そろそろ話しが行き詰ってきたので、清志たちは久しぶりにゲームのデビファンについて話し始めたのだった。
そのころ魔導王、千歳、リズ、洋子は公園に来ていた。中学の課題の夏の七草を調べるために自然豊かな町立公園にやってきたのだ。
「いきなり雨降ってきてびっくりしたけど、止んでよかったな!」
「そうね。早く終わらせよ。」
「私としては魔導王の手から一瞬で四本の傘が生えてきた光景で頭がいっぱい過ぎて、なんか作業がおぼつかないのです。」
「まあ、魔法使いらしいから。」
「なんでもありすぎませんか!?」
「今更だろー?」
少女三人が戯れながら草木を観察している中、魔導王は退屈そうに公園にある掲示板や石碑を眺めていた。そこに見知らぬ影が現れる。背の高い男で傘を右手に持っていた。
「ほわったあああああ!」
「「「!?」」」
その男は傘を竹刀のように持ち、振り上げ魔導王に攻撃を仕掛けてきた。魔導王も応戦して傘を使って打ち合う。どちらも素早い攻防が続くが、ある一瞬魔導王の傘がからめとられるように弾き飛ばされ傘の先端をのどに突き付けられた。
「おいおい鍛錬不足じゃねえの魔導王?ってっわあああ!?」
勝ち誇った男の襟をつかみ、魔導王が鮮やかな一本背負いを決めた。それは反則と文句を言いながら、泥にまみれた男は頭を掻く。何事かと千歳たちが集まると、リズが驚いたように言った。
「シド兄さま!?」
「おうリズ久しぶりだな!元気してたか!」
「…あー。」
リズに対して男は親しげに笑った。千歳も彼のことを知っているようで、納得している。洋子はわかっていないらしく、とりあえず魔導王に聞いてみた。
「あの人は一体?」
『あれの名前はシド・ブラッドリー。リズの従妹…義理の兄といったところか。つまりあれもヴァンパイアだ。』
さわやかな好青年の口元には鋭い犬歯がのぞいていた。彼もまた怪物の頂点に君臨するヴァンパイアなのだ。高い高いとリズを軽々持ち上げる彼を見て、魔導王は深いため息をつく。
『あれが来ていいのか悪いのか…面倒ごとが増えるのは確定か。』
出会いとはターニングポイントだ。生活を変え人生をも変えうる影響力がある。清志たちの運命は魔導王によって大きく変わり、少なくない戦いを経てここまでやってきた。シドとの出会い、そしてこれから相対するまだ見ぬプレイヤーとの出会いによって清志たちはどのように変わっていくのだろうか。ここはその分岐点としてちょうどいいだろう。ここまでが第一章だ。そして第二章が始まる。
とりあえず魔導王は嫌がる千歳を無理やり抱き上げようとするシドに、落とした傘を投擲し頭部にクリーンヒットさせた。できる出来ないは別として、あまり節度のない行動をすれば一度首をはねてやろうと内心思っていたことを、ほかの誰も知る由はないだろう。
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