第59話「合体技」

 人狼の猛攻を受け続ける洋子、一切後ずさることもなく耐え抜くさまはまるで重戦士のようだ。その間清志は瞳のホーリーヒールを受けながら回復に努める。


「守るだけでは勝てんぞおお!」


「なら軽い奴くれてやるのですよ!スパイラルブレード!」


 人狼の攻撃を回転しながら受け流し、溜めた力を開放する。今までの攻防で少しずつ溜めたパワーだ。その威力に人狼もさすがに後退する。


「がははなかなかやるのう!」


 ブースターにはマナをあらかじめ13個ストックすることができる。体積上の問題でこれ以上は入らないのだが、わざわざ13にしたのは自分の力より30%大きな力をストックできるというのは安心感が大きいだろうと魔導王が配慮したらしい。洋子の場合は能力を使うたびマナが減っていく。しかしこれのおかげで洋子の身体的負担は大幅に軽減されるのだ。


「まだまだなのですよ。」


 ストックも体力もまだ十分ある。大切なのは清志をできる限り休ませることと、この怪物の体力を最大限削ることだ。まだいけると打ち合いは続いた。


「がはは固いな!ならば少し本気を出すぞ!」


 そして攻撃のギアが一つ上がった。パンチの一発一発が重くなり、剣がはじかれる。ただの打撃だというのにその威力は砲弾のようだった。故に洋子は一歩踏み出した。一歩また一歩と押し負けないように踏みしめながら前に進んだ。


「はあああああ!たあっ!」


 そして力を振り絞り、大剣で人狼のこぶしを弾き飛ばした。人狼もこれは予想外だったようで、驚き一度静止した。今だ洋子は無傷だ。しかし腕は鉛のように重く体験を地面に突き刺し、息切れしながら倒れないように必死に耐えた。その姿に人狼はにやりと笑う。


「なんとも強情な娘っ子よ。その根性気に入ったぞ!ならばわしのこれは受けきれるか!?」


 人狼が構えをとると、巨大な爪のヴィジョンが現れる。瞳のホーリーウォールを破った必殺技だ。洋子も防御力は高いとはいえ、瞳には及ばない。これを防ぎきれるはずもなかった。しかし洋子はにやりと笑う。


「受けて立つのです。それが貴方の最後の技になるかもしれませんけどね。」


「がははならば見せてもらおう!岩斬爪!」


 強大な破壊のエネルギーが洋子へと放たれた。洋子は地面に突き刺した体験を握り締め、叫ぶ。


「ソードシールド!」


 大剣から障壁が展開され、激突する。爆発音のような巨大な衝突音とともに人狼の攻撃がさく裂した。


「それでは防ぎきれんぞおお!」


「…っ!」


『大丈夫だ!ホーリーギフト!』


 エネルギー吸収効果とシールド効果それらを合わせても人狼の攻撃は防ぎきれない。障壁にひびが入りそこからあふれたエネルギーのかけらが洋子の頬をかすめて血が流れた。そこで瞳が呪文を唱える。ホーリーギフトは洋子のシールドへと染み渡りより強力な障壁を創り出す。障壁の割れ欠けていた部分も修復され、ソードシールドでもホーリーギフトでもない新たな技が完成した。


「「セイクリッドキャッスル!」」


 それはまるで天災をも跳ね返す聖なる古城。人狼は技の出力を上げる、それでも堅牢な城を崩すには至らなかった。


「やるのうやるのう!まさかわしの岩斬爪をものともしないとはな!」


「それだけじゃあないのですよ。」


「!?」


 これだけの攻防を繰り広げた洋子の大剣には十分な量のエネルギーがたまっていた。輝く大剣の光がそれを証明していた。


「これが乙女の一撃なのです!リフレクタルインパクト!」


「ぐおおおおおおおおおおお!」


 ため込まれたエネルギーは巨大な光とともに解き放たれる。たまらず人狼は防御の姿勢をとるが、光に呑み込まれ防御は崩され直撃した。


「が、がはは。これは聞いたぞ娘っ子。しかしわしを倒すにはまだ威力が足りないのう。」


 体中の毛皮が焦げ煙を出し、特に両腕は大きなダメージを受けていた。しかし人狼はいまだ膝をつくことはなく、顔を洗いながら笑っていた。一方大技を撃った洋子は息も絶えたえで立っていることもやっとなほどだった。


「ちぇっなのです。之でも倒せないとは…頑丈過ぎませんか?」


「だよな。正直俺もビビッてる。化け物過ぎるなあいつ。」


 洋子の隣には清志が立っていた。倒れそうな洋子の肩を支え笑いかける。


「見くびってたよ。あんな化け物をあそこまで追い込むんだからな。リーダー名乗るだけあるぜ。」


「当然なのですよ。最強は私なのです。…清志、あれなら倒せそうですか?」


「わかんねえ。でもここ迄いい所見せられたんだ、みっともないところは見せられねえよな。」


 清志と洋子はこぶしを合わせる。それは兄と妹でも友人でもない、戦友としての誓いだ。


「勝つよ。」


「はい!」


 洋子を瞳に任せ、清志は再度前へ出る。先ほどまでの希望の見えない困り顔はもはやない。そこにあるのは勝利に飢える闘争者の顔だ。


「魔導王がよこすだけあるのう。ただの子供がここまでの輝きを見せるとはな。」


「俺より強いよあいつらは。本当にそれを見せつけられた。」


「がははは!ならばおぬしはわしには勝てんのう!」


「…なああんた、どうして魔導王に敵対するんだ?なんつーか、あんたには俺たちへの敵意がないように見える。ただ戦いたいみたいだ。」


「わかっとるではないか!わしの願いは一つだけよ。強きものと戦いたい!ここに来たのならば、先ほどのような手加減はせんぞ!おぬしが負ければみんな死ぬ!全力でかかって来い!」


 人狼は脅すような言葉を吐きながら、目を輝かせている。そこに嘘偽りは感じなかった。清志は鞘に収まった刀の柄に手を添え問う。


「俺の名前は桑田清志。あんたは?」


「流浪の人狼、銀だ!問答は以上手合わせ願おう!」


「ああ分かった。」


 清志はゆっくりと刀を引き抜き、構えた。ブースターが起動し、刀に光が宿る。これが合図だ。清志の新しい能力であり、切り札。


「レグルス、変身!」


 その言葉とともに宿った光は燃え上がるように清志を包む。こうして、人狼銀との最後の戦いが始まった。


 

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