第57話「シューティングゲーム」

 清志たちの弱点は遠距離攻撃能力に乏しいということだ。最も射程の長い皆夫でも約20メートル、必殺技であるアズール・ライヨならばその限りではないが、連発はできない。清志は足場による高速接近によりカバーできなくもないが、移動中は無防備でやはり近づけなければ意味をなさない。故に清志たちは瞳をかなめとした集団行動をするほかなかった。


「敵チーム発見した。戦闘に入ります!」


 公園広場にて18人チームの近接舞台と思われる5人組に補足される。これは予想通りだ。清志たちは武器を構えた。


「アサルトトルネード!」


 皆夫が刀から発生した竜巻を鞭のように振るい、五人組を攻撃する。


「ディープスチール!」


 しかし相手も鉄の壁を出現させ、防御した。


「ローズプリズン!」


「ガトリングラッシュ!」


「ホーリーウォール!」


 大量の茨で周りを囲まれ、同時にガントレットを身に着けた男の攻撃を受け、瞳がホーリーウォールを展開した。そして一度静寂が訪れる。


「だよなやっぱり。全員瞳にできるだけ集まれ。しばらく我慢比べになるぞ。」


 そこからは一斉射撃だった。マンションやビルこの公園は多くの高い建築物に囲まれている。そこに配置された遠距離攻撃手たちが、清志たちを一斉に攻撃したのだ。瞳は必死に障壁を維持する。その間皆夫は今回立てた作戦について思い出していた。


『最初に問題なるのはこの18人パーティーだ。おそらく近距離遠距離どちらの人員も十分いるはず。バラバラに隠密しながら行動するっていうのは愚策だ。だから俺たちは逆に見晴らしのいい場所に行く。』


『それって完全にいい的になるってわけだよね。遠距離持ちが高い建物に潜伏するってわかるなら、同じように僕たちも入って個々撃破する方が勝率高いんじゃない?』


『俺が一番懸念しているのは、人狼だ。前に話した通りあいつは東よりもはるかに強いそれに性格から、戦いを楽しむ性格と見た。一斉攻撃で騒がしくなればあいつは絶対に現れる。あとは人狼にヘイトを向かせて一度離脱、状況を見て両方の戦力をそぐんだ。』


『そんなにうまくいくかな。私たちのほうに向かってくる可能性もあるぞ。』


『人狼が攻撃するにしても一度弾幕を止める必要が有るだろ、それまで持たせれば、最初にぶつかるのはあっちだ。』


『新装備もあるし頑張ってみるけど…洋子はどう思う?』


『清志が言うのですから大丈夫なのですよ。』


『…。』


 こんな弾幕の雨は以前のリクとの戦いを思い出す。瞳の防御力が高いとはいえぎりぎりの戦いだったと思う。今回はその5倍以上の攻撃だ。熟練度が上がっているとはいえ、以前ならばもう障壁は破壊されていただろう。しかし未だ耐えていた。それには理由がある。


「マナブースト!…あ、やばそう。マナブースト!補充頼む!」


「わかったのです!一個二個…。」


 新装備マナブースター3.1、3.1というのは魔導王が実用化するために2度の大規模改良と最終調整を行ったためである。杖の持ち手のように取り付けられた瞳のブースターはマナを投入することで、瞳の消費魔力を大幅に軽減したり技を強化したりすることができる。これがなければ今回の作戦など危なくて使いようがなかった。


「瞳大丈夫そうか?」


「すごいぞマナブースト!これだけ攻撃されてるのに全然疲れない。」


「持てるだけ持ってきたからじゃんじゃん使ってくれ!」


 リクが使ったような大規模な技は使えないが、一方武器の損傷も少なく新装備としてこれほど心強いものはない。


「本当にすごいよ。僕たち一人の使える魔力量が最大10マナっていうのも本当かもね。」


「認めたくねえけどな。」


 魔導王によると、清志たちが一度の戦闘で使える魔力量をマナであらわすとおおよそ10マナ程度であるという。これは戦闘中おける自然回復量も考慮しているらしく、アズール・ライヨですら2マナもあれば再現できるらしい。つまりマナを10個持っておけば、2倍の魔力量を保有しているといえるわけである。そして今持っているマナは500以上だ。一方普通のプレイヤーはマナブーストを使えばエピックウェポンが損傷し、戦闘継続が難しくなるから、よっぽどのことがなければ使えないことがわかっている。


「弾幕がぶれた。来たぞ!」


 5分ほどが経過しただろうか。急に弾幕が途切れ始め、完全に消失した。砂埃が消え、あたりが見え始める。清志はにやりと笑った。計画通り、人狼が来たのだ。これで敵にも隙が生まれるはずだと思った。しかしこちらへの攻撃がまったくなくなるとは思っていなかったため、どうしてかと疑問に感じたのだが、それもすぐにわかった。最悪の形で。


「嘘だろ?」


 公園の前に高くそびえたっていた高層マンション、ビル、それらがまるで大震災があったかのように倒れ崩れていた。がれきの下を見ると、血でまみれていた。がれきにつぶされて死んだのだ。清志たちをけん制していたプレイヤーたちも声も出ずに立ちすくんでいた。


「がはははは姑息に隠れる臆病者はこれで全部かあ!?」


 清志の作戦はおおむね成功したといえるだろう。多少の無謀さがある作戦ながらこれほど予想通りになったのは嬉しい誤算だったといえる。一方最悪の誤算は、呼び寄せた怪物が予想を超える化け物であったということだった。

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