EX6「漆黒の戦士」

 そこはこの異界において最も神々しく豪華絢爛で自然とは全く離れた場所だった。キリスト教的な教会で白磁製の椅子が並び、その奥に十字架のような紋章が掲げられていた。その下でうずくまり祈りをささげる男がいる。古代ギリシャのキトンのような衣服に身を包み、その背中からは一対の純白の羽が生えている。ウェーブのかかった薄茶色の髪を持ち、その顔は西洋的な美しさを内包している。


「みんなご苦労でしたね。大魔との戦い大層お疲れでしょう。」


 男は祈りを終えると、後ろを振り向く。そこには傷を負った団や狼男たちがいた。団はいつものように軽い調子で話し出す。


「いやー死ぬかと思ったよ。戦っても勝てないから全力逃亡さ。魔導王よりやばかったんだけどなんなのあれ。」


「神々がうち滅ぼした魔獣の残党でしょう。極東は弱き神ばかりでしたから、そのようなこともあるのです。心配せずともここには入ってこれませんよ。」


「殺してやる殺してやるわ魔導王!」


 一方蜘蛛女はいまだ感情の高ぶりを抑えられないようだった。ぶつぶつと呪いの言葉を漏らし続ける。


「ローザ、お怒りになるもはもっともですがどうか落ち着いて。あなたの真価は子蜘蛛の軍隊ではないでしょう?想定より少し、あちらが強かっただけのことです。」


「わかってるわん。でも魔導王は弱かった。力もなく脆かった。なんなのよあの札は!?弱いくせに意気揚々と馬鹿にして馬鹿にしてえええ!」


 しばらく叫んでいたローザは突然ピタッと止まり、いやらしい笑みを浮かべ始めた。


「だけど次は仕留めるわん♡私を侮辱したこと、何千男万倍の苦痛で返してもらおう。くふふふふふ♡」


「ローザ落ち着いて。魔導王にはまだ未知の能力が…。」


「あーはっはっはっはっは!」


 男の言葉はもはや聞こえていないようだった。ローザは笑いながら、教会を出る。


「どうすんだ?ありゃマジでいっちまってるぜ?」


「神の御言葉も届かなければ意味を成しません。…あれはもうだめですね。あの男の力を少しでもそげれば良し、私の計画の一助になればより良しです。」


「おっかないねえ。」


 男は両手を広げ笑った。天使のような風貌だというのに、そこには一種の邪悪さを感じる。団は知っているのだ、この男は自分たちを仲間とは思っていない使えるかもしれないからそばに置いているだけだと。


「銀も準備を始めてください。黄金の林檎に至るため、まずはバトルロワイヤルを遂行しなければ…。林檎に至るものが現れれば、弱り切った悪魔なんて敵ではありませんよ。」



『異界に行くぞ。』


 ある日突然魔導王がそんなことを言い出した。今まで全く興味がなさげ出会ったというのにどうしたのかと千歳は困惑する。


「何いきなり?」


『お前たちにも武器を作るといっただろう?まだ作っていないが、少しは使い方を知っておくべきだ。よって予備の武器で練習を行う。』


「おお!」


「期末試験の勉強があるんだけど?」


『中学の勉強なぞ一日くらいやらなくて問題あるまい。今まで一日一時間、コツコツとやった貯金もあることだしな。』


「なー!」


 七月に入れば夏休み前の期末試験がある。その対策のために清志たちはしばらく異界でのマナ集めは休みとなっていた。千歳も同じように勉強に励むつもりであったが、今日はどうにもできそうになかった。


「わかった。今日だけだからね。」


 千歳とリズが異界に入るのはこれで二度目だった。清志たちと異なりすぐにエピックウェポンは支給されず、長らくはいる機会もなかった。千歳はこの理由をリズを無用な危険にさらさないための予防策だと思っていたが、急にこれだ。以前と全く変わってしまった異界に驚きながら、魔導王に連れられある場所に向かった。


「なんだここ?なんか東京のホテルみたい。」


『すぐわかる。』


 三人はエレベーターに乗り込むと魔導王が番号を決まった順番で押し、動き出した。そして開かれると、まったく違う世界が広がっていた。幻想的な森の集落、ククリたちエルフが暮らす村だ。


「何者だお前は!?」


 エルフの一人が木製の槍を構え威嚇する。村の様子はどこか緊迫していて、厳戒態勢という言葉がふさわしかった。


『クルルはいるか?ククリの姉だ。話をしに来た。』


「クルル様と話だと?名を名乗れ!」


『魔導王だ。それで通じるだろう?』


 エルフの衛兵と思われる人々が魔導王を取り囲む。千歳たちはおびえた様子だったが、魔導王がなだめた。しばらくすると少々疲れた様子のクルルがやってきた。


「あんたが魔導王様だか?」


『そうだ。こっちのガキどもは千歳とリズ。』


 よろしくと挨拶を行い、クルルは三人を客間に通した。


「それで何の用だ?もしや…知って?」


『さてな。俺は俺の要求を通しに来ただけだ。しかし何やら問題があるらしいな。先にそちらを聞いてやってもいい。』


 その言葉にクルルは魔導王をにらんだ。状況がわからないリズはとりあえずクルルを猫のように威嚇し、千歳に止められた。


「性格悪い。」


『知らんな。』


 千歳は魔導王が自らの要求をのませるためにわざとこのタイミングで来たのだろうと思った。エルフの中で用いのある様子のクルルが助け欲しさに手を取るように仕向けているのだろう。クルルは苦虫を噛み潰したような表情で事情を話し始めた。


「話はすこし前にさか戻るだ。おらたちが店を出してるせんとれるから人が急に減りだした。店の売り上げもがっくり落ちただ。店をたたむところも出始めたんだが…一向に戻ってこねえ。おらたちも探したが、たくさんの村人が行方知れずになっただよ。」


 セントラルシティにはエルフたちがプレイヤーを補助するアイテムや道具を販売する店が数多く並んでいた。エルフたちにとって、プレイヤーが生産するマナは貴重なエネルギー源でこれを集めるために様々な事業を行っていたのだ。しかしプレイヤーの減少によって元を取れなくなってきたエルフたちは店をたたみ始めた。しかし戻ってくるはずのエルフたちの多くが現在行方知れずになっているという。今も営業しているエルフたちは無事なようだが、クルルたちが捜索してもそれ以外のエルフたちは見つかっていないという話だ。


「ククリも捜索隊に加わってたんだ。魔導王様からもらった魔道具で少しでも助けになればって…でもククリも…いなくなってしまっただ。」


『捜索隊全員が消えたということか?』


「…いんやククリだけだ。手掛かりを見つけたとか言って一人突っ走ったらしいだよ。おらはもうどうしたらいいか。」


 涙をためるクルルに魔導王はどこからかハンカチを取り出し渡した。鼻をかまれたうえで返されそうになったので、捨てておけといい話を戻す。


『事情は把握した。よかろう、こちらの条件を飲むならククリの居場所を教えてやってもいい。』


「ほんとうにわかるだか!?」


『奴には俺の武器を渡した。粗悪品だが、居場所を特定することは可能だ。』


 やっぱりと千歳はため息をついた。なんともいやらしい手口でクルルに同情するほどだが、あくまで沈黙を貫く。


『あくまで俺の条件を飲むならばだ。さてどうする?』


「…要求は?」


『演習場の提供だ。ガキどもの武器の性能を解放するにあたって、敵に特定されにくい場所が欲しい。お前たちの村にかかった魔法は人よけに特化しているからな。広さも十分ある、ちょうどいい土地だ。』


「はえ?そんなことでいいだか?」


『そんなこととは何だ?俺は俺が必要だと思った要求をしているだけだ。』


 クルルはあっけにとられた顔になる。千歳も同じような顔をしていただろう。自分の予想をあまりに下回る要求だった。


「いいの?前に言ってたでしょ?あの…人一人なら生娘の貞操とか人生とかじゃないと釣り合いが取れないって。」


『別に場所を教えるだけだ。大した労力ではない。行方不明のエルフをすべて救助するというならば別だがね。』


「…ならおら一人で釣り合いが取れるだか?」


『何の話だ?』


「生娘一人で村を救ってくれるのか聞いているだ!」



 無数の切り傷から出血し、意識がもうろうとする。神経毒の類か、手足はしびれ呼吸が難しい。立っていることがやっとだ。


「ぐっ!」


ぼう!」


 ナイフを腕に刺し、痛みで意識を持たせる。ここで意識を失うくらいならば、失血死するまで持たせた方がましだった。


「大丈夫だよ。あんまり声を出さないで、ここから出ることが先決だ。」


 ククリは心配する村人たちに笑いかけた。行方不明になっていた村人たちのほんの一部だ。蜘蛛の巣のような場所に生きたままとらえられていたところをククリが助け出したのだ。


「済まねえ坊…俺たちがばかやったばっかりに。」


「おらだって姉ちゃんに迷惑たくさんかけてるだ。お互い様だよ。」


 バイザーが敵の反応を感知し、暗い森の岩陰に隠れた。かさかさと不快な足音が響く。

 

「あらあら可哀想に。痛いわねえ苦しいわねえ。誰にやられたのかしら?ねえだあれ?」


 ねっとりと甘ったるい女の声だ。見つかってはいけない。見つかれば最後殺されると思った。遠くから見える女は知っている種族だ。土蜘蛛と呼ばれる異界に住む怪物の一種、人型に近いものと蜘蛛に近いもの二つの部族が存在するが、彼女はその中間のような存在だろう。エルフも捕食対象になりうる危険な生物だ。蜘蛛女は傷ついた子蜘蛛を抱き赤子をめでるようなしぐさをして歩いている。そしてそのまま遠ざかっていく、どうやらこちらには気づいていなかったようだ。姿が見えなくなってククリたちはほっと胸をなでおろした。


「お前かあああああ!?」


 突然目の前に怪物の顔が現れた。先ほどの女の顔じゃない。それが裂けて蜘蛛のような八つの目を持つ怪物が裂けた口に鋭い牙を携えて至近距離から威嚇してきたのだ。ビビりなククリでなくても悲鳴を上げるのは仕方ないだろう。


「は…。」


「はあ?」


「速く走って逃げるだ!早く!」


「は、はい!」


「にいいがあすううとでもおおお!?」


「大樹よ我が声にこたえ厄災をかき消せ!呪縛樹じゅばくじゅ!」


 ククリが呪文を叫ぶと、森の木々から根が飛び出し、蜘蛛女を拘束した。


「ああん!?」


「大樹に宿りし聖火よ悪しきものを浄化せよ!爆炎樹ばくえんじゅ!」


「きゃああああ!」


 そしてその根が燃え上がり同時に蜘蛛女を焼く。バイザーでの情報で蜘蛛女の弱点の一つが火であることはわかっていた。しかし蜘蛛女は両手で拘束していた根を引きちぎり、火も消えてしまう。


「…聞いたことあるわん。エルフの長は代々神樹のかごを受ける魔法使い。ずいぶんと弱っちい魔法だけど♡あなたがその長なのねん♡」


「長はおらの父親だよ。少し前に亡くなっただ。」


「あらそう。どうでもいいわん。まずはあなたを殺してつぎは逃げたやつらを殺す。もう立っているのも限界みたいだしねエ。」


「く…。」


「内臓から溶かして飲み干してやる。あちしの顔を焼きやがった報いだ全身の穴という穴から消化液をぶち込んでやるうううう!」


 蜘蛛女はさらに変形し、大量の触手のようなものが飛び出す。おそらくあれがすべて蜘蛛女の口なのだろう。あらがう力はもう残っていなかった。しかしどうしたことか、死にそうだというのに体の震えは起きていない。仲間たちはきっと一人でもここから逃げ出せる。そうすれば清志たちをきっと呼んでくれると確信していたからだ。


「あとは頼んだだよ。みんなをどうか助けて…。」


『承知した。』


 すぐに返事が来るとは思っておらず、ククリは目が点になった。目の前に現れた全身黒の男、その声はただそれだけで自分を恐れさせた魔導王のものだった。


『ずいぶんといい格好だな貧弱男。だが以前の間抜け面よりは幾分ましか。』


「やっぱりきたわねん魔導王!」


『お前は…あああの時の蜘蛛か。しばらくぶりだな。』


「あーはっはっはっはっは!やっと殺せる!あの時の屈辱を晴らしてくれる!」


 蜘蛛女は腕輪を自らの胸にかざす、腕輪が発光しその光が彼女を包み姿を変えた。先ほどよりもさらに巨大でまがまがしいアラクネへと変貌する。


『さっさとククリを連れて行け。戦いの邪魔だからな。』


「「はっ!」」


 魔導王とともにやってきたエルフの民がククリを回収し撤退する。アラクネは無数の糸を吐き、森を自らのフィールドへ変えていった。


「あんたは獲物!絶望しながら溶けて死ぬがいい!」


『獲物はどちらかすぐわかるさ。』


 魔導王は戦槌を取り出し、構えた。アラクネは糸を伝って高速で移動する。逆に魔導王はその場から簡単に動くことはできなかった。うかつに動けば強靭な意図に絡み取られ身動きができなくなるだろう。アラクネが糸を吐いた。魔導王に向けてではない、どこか別の方向だ。するとそこからいくつかの物体が魔導王の元へ発射される。それをよけるが物体が衝突した木や地面は大きくえぐれた。


「私の巣には無数の糸の弾丸が仕込まれている。魔力で強化された威力はこの通り、あんたの貧弱な体は簡単に破壊できるわん♡」


『それは困ったな。まあ当たればの話だが。』


 アラクネは糸を吐く。それに伴って弾丸が発射される。だんだんと糸を吐くスピードが上がり、弾丸の量も増えていった。


「ほらほらほらほら何にもできないじゃない!あんたなんてその程度のごみくずなんだよ!」


 対応が難しくなり距離を取ろうと行動するも、魔導王は糸の網に絡まれてしまう。


『む…。』


「わざわざ巣に飛び込んでくるなんてあんたバカあああ!?」


 動けなくなったところに接近しアラクネはカマキリの鎌のように変形した腕で魔導王を攻撃した。ガードした左腕を切断され肩まで鎌が食い込む。


『っ…。』


「痛い?ねえ痛い!?前みたいにあの蛇が助けてくれるかしらん!?ないないないないいいいいいいい!」


『ああ。今回はドラゴンにしてみた。』


「は?」


 どごおっ!と轟音が響く、森の木々がなぎ倒され、それは顔を出した。まったく別のパーツを組み合わせたかのような不格好な体、少し間抜けで愛嬌のある機械のような頭を持つドラゴン型の何かだ。それは魔導王を見つけると手を振った。


『魔導王!捕まってた人は全員救助したぞ!まだ蜘蛛がたくさんいるけどな。』


『その腕大丈夫なの!?そっち行った方がいい!?』


 スピーカーを通して聞こえるリズと千歳の声。あのドラゴンに二人は乗っているのだ。あっけにとられるアラクネに魔導王は言った。


『試作した武器の使い道がないかと思っていたのだが、どうせなら巨大なものを作りたくなった。まさにジャンクドラゴンだな。真祖の魔力がなければまともに使いようがない。』


「まさかお前!?」


『用がなくなったエルフを拉致し、お前の魔道具の養分としていたようだが所詮二番煎じ、吸収効率は悪かったようだな。まさかの全員無事らしい。』


「あちしの餌を全部奪いやがったのか!?」


『さて、こちらも片をつけるとするか。』


 魔導王は戦槌を振るい、アラクネを退けた。いつの間にか絡みついていたいとも完全に切り落とされている。


『体が貧弱ならば、強い外殻をまとえばいいと思わんかね?変身。』


 戦槌がひかり魔導王を包んだ。その体をエネルギーが形を成しながらつつむ。漆黒のフルプレートで身を包んだ戦士へと変身したのだ。


『さあクライマックスだ。』


 魔導王は大きく振りかぶり戦槌でアラクネを攻撃する。動きのスピードも上がってはいるが、糸の結界をはったアラクネのスピードには及ばない。簡単によけられ、戦槌は地面へと激突した。


「あーはっはっはっはっは!どこ狙って…!ぐあっ!」


 その滑稽さをあざ笑うアラクネだったが急に激痛が走る。完全によけたというのに激突したかのような衝撃だった。


「何をした!?」


『これは俺の作った失敗作の一つでな。能力は衝撃を伝えるというシンプルなものだ。地面に当たった衝撃は地面を、糸を伝ってお前へと伝達される。伝達のための制御が面倒で、俺でないと使えないというのが難点だな。その制御にストレージを使いすぎて身体能力強化のほうはお粗末になってしまった。まあおまえにはちょうどいい武器だ。』


「まさか…。」


『お前と同じだよ。一つ一つ威力は弱くとも数撃てば問題ない。ただしお前と違うのはそのすべてが命中するということだ。』


「魔導王うううう!」


『ではな土蜘蛛。地獄で悔い改めるがいい。』


 気づけばアラクネの全身は歪み完全に破壊されていた。



 その後魔導王たちはエルフの里へ帰還した。子蜘蛛との戦闘で多くのエルフたちが負傷するも、死傷者はいなかった。最も重体であったククリもしばらく休養は必要であるが、命に別状はないらしい。


「みんなを救ってくれて、本当にありがとうございました。」


 クルルとエルフの民は魔導王たちに頭を下げ感謝の意を表した。それに対し用意された布団に不躾に寝転がる魔導王は面倒そうに答えた。


『契約を履行しただけだ。感謝したいのなら言葉でなく行動であらわすんだな。』


「…ムー。」


 その言葉に千歳はむくれる。クルルは申し訳ないと頭を下げた。


「すぐに伽の用意をいたします!」


「く、クルル様それは…!」


「止めてくれるな。魔導王様は命を懸けて我々を救ってくれただ。私が恩を返さずどうする!?」


『あー、それだが…これは作り物の体でな。元の体に戻るにも時間がかかる。ゆえにやめだ。』


「え?」


『以前変な約束をしただろう?ククリが使えるか使えないか見極め、使えれば無礼を謝罪すると。今回の件で少しは見直したからな。しかし助けたというのに謝罪するというのもおさまりが悪い。それの取り消すということでどうだ?』


「ぷっ。」


 魔導王の提案に千歳は思わず噴き出す。最初からこうするつもりだったのだろう。あくまで条件は相手の覚悟を図るためのものだったのだと理解した。その言葉にクルルは一歩後ずさると急に土下座した。糸を理解したのかほかのエルフたちも続いて土下座する。


「どこまでもお慈悲をありがとうございます。しかしそれでは私たちの気が済みません。どうか私たちの忠義、貴方様に捧げさせていただけませんか?」


『何を言っている?』


「未来永劫、貴方様のお力になりたく存じます。」


『ふっなるほどな。お前たちの部族はぜい弱だ。たしかに俺を後ろ盾にすればより生存率は上がるか。食えん小娘だ。』


「何卒。」


『よかろう。ならせいぜい俺の役に立つことだ。』


「ありがとうございます!」


「「ありがとうございます!」」


『俺は寝る。しばらく静かにしていろ。』


「「「はっ!」」」


 クルルたちが部屋を出ていった。あたりが静かになったタイミングで千歳は魔導王に話しかける。


「これも全部計画通り?」


『いいや。…また面倒な仕事が増えそうだ。』


「そう。頑張ったね。」


『お前たちもよくやった。ほれ寝ろ。魔力回復にはこれが一番だ。』


「ん。」


 千歳は魔導王の頭を撫でた。ニヒルで口が悪いけど、優しくて不器用。いつもは人を寄せ付けないような態度をとるくせに、こうして眠るときは抱き寄せてくる。本当に変で愛おしい悪魔だと思った。


「おやすみ。」

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