第51話「不敵な笑み」

 バトルロワイヤル予選は順調に進んでいった。毎日リーダーを一人仕留め即時撤退するという消極的作戦だが、それが功を奏し残り2チーム迄持ち込むも疲労の蓄積は少なかった。二日目以降は特出した出来事はなかったが、一日目と一つ違うことといえば清志と皆夫が前線にでてそのほかは後方支援という形をとりたがったことだ。洋子が抗議するも清志はかたくなとしてその陣形を改めようとはしなかった。


「あいつ…。」


「リクさんだな。まだ戦ってる。」


「何企んでやがる?大量に倒してもボーナスはないってのに。」


 リクたちのパーティーはリーダーを仕留めても撤退はしなかった。毎日毎日清志たちが撤退した後も戦闘を続けていた。環とも確認したがこのバトルロワイヤル予選において撃破数は全く利点がないのだ。勝利条件はあくまで生き残ること、継続条件は一日1チーム撃破すること、それ以外ないはずなのだが。


「リクさんのパーティーは私たちより一人多い六人編成ですね。確認できた能力は、杖から水の鞭を生み出す、かぎ爪の斬撃を飛ばしたりその場にとどめる、強力な光を発する球体を生み出す、グローブから大量の氷を生成する。あとはリクさんの地面操作、あと一人はよくわからないって感じです。」


「あっちに僕たちの能力はばれているわけだし、今までのようにはいかないだろうね。」


「特にこの光のエピックウェポンは脅威だ。視界が一瞬で奪われる。固まった陣形は不利か?」


「いいえ、むしろ散らばった方がリカバーが難しいっす。面倒っすけど、攻撃も防御もできないみたいですから最初に倒せばいいんじゃないっすか?」


「それは相手も想定ないでしょう。サングラスなどでカバーすれば無視してもよいのではないですか?」


「…そうだな。光らされれば片目をサングラスで防御して光のないときはもう片方を使えば対応はできる。光る直後に瞳がバリアを張れば比較的安全なはずだ。」


「んーそんな器用なことできる自信ないなあ。」


「今までのように正面衝突は避ける方法のほうがリスクは低いかもしれないっすよ?」


「あっちの能力はいずれも中遠距離のほうが強い。近距離戦闘をさせないことがあいつらの勝利条件になるんじゃねえかな。」


「結構隙がないね。リクさんからすれば洋子ちゃんに苦い思い出があるし、遠くから考えなしに攻撃し続けるっていうのはない気もするけど。」


 作戦を練るも平行線をたどった。それからしばらく議論をした結果、まずは遠距離で牽制し、機動力のある清志が光のエピックウェポンのプレイヤーを倒すことを第一目標に定めた。


「…また清志の単独行動ですか?」


「…それが一番確実だろ。」


「わかった。」


 洋子は苦い顔をしているが、瞳は彼女を手でなだめ言った。


「私が君を守る。だからほかは気にせずやって来い。君はそれがあってる。」


「頼もしいな。」


「仲間なんだぜ?当然だよ。」


「…。」



 そして予選最終日が来た。この日ばかりは時刻が設定され、清志たちはそれよりもできる限り早くダンジョンへ入り、準備する。


「ククリさんに色々助けてもらっちゃったね。まさか物資だけじゃなくて特製サングラスまで作ってくれるなんて。」


「光の強さに応じて適切な光量に調節する鉱石があるらしい。さすが異世界ってことなのか。」


「人脈強しっすね。先輩。入ってきたっす。」


 ダンジョンの入口の方を見るとリクたちのパーティーが確かに入ってきた。建物に入っているため気づかれないだろうが、警戒を怠らずじっと息を殺す。


「やっぱりお前たちが残ったな。」


「!?」


 リクは持ってきたカバンの中からこの場所には到底似合わないであろう手持ちスピーカーを取り出すとそれを用いて清志たちに呼びかけた。距離こそ離れているが、雑音の少ないこの場所でははっきりとその言葉が聞こえる。


「騙しあいは前ので飽き飽きだろ?今回は正々堂々と、タイマンと行こうぜ。」


 以前の彼と同じとは思えない堂々とした態度だった。いつ攻撃されるかもわからない状況において、その身をさらしながら不敵の笑みを浮かべる。


「出てこないならあぶりだしてやるよ。」


 


 

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