第49話「第二回バトルロワイヤル予選」
その夜清志は洋子に呼ばれ彼女の住む家を訪ねた。ここ2年ほどこういう機会は珍しくない。洋子が夕飯を作ってくれるのだ。それを父親の白夜と三人で食べる。二人は清志に配慮してそういう日はあまりからくない料理を出してくれるのだが、それも情人にとってはだいぶ激辛であることを清志以外は知らない。今回も同じように夕飯をごちそうになるのかと思えば、どうやら用事はそれだけではないらしい。
「洋子、その人は?」
「…えっと…。」
夕食を準備している洋子の隣に見知らぬ女性が立っていた。やや長身でスレンダーな大人びた女性だ。洋子が言いよどんでいると、女性が話し出した。
「貴方が清志君ね。白夜から話は来てるわ。」
そう言って女性は握手をしようと清志に手を差し出した。
「
「よ、よろしく。」
握手をした清志は照れながらそう返した。ちなみに清志の好みの女性は少しクールで大人びた女性、まさに清志のタイプの女性だった。
「悪いなー飯の準備まで。」
「このくらいいいわよ。洋子ちゃんの手際が良くてむしろ…ね。」
「清志。お父さんと一緒に座って待っていてください。」
「ん?ああ分かった。」
清志たちがしばらく待っていると料理が運ばれてきた。地中海料理というのだろうか、そこには清志が見たこともない色鮮やかな料理の数々が並んでいた。
「…な、なんだと!?」
「ギリシャに住んでいた時に倣った料理なんだけど、口に合わなかったらごめんね。」
四人全員が席に着くと、両手を合わせいただきますと料理を食べ始めた。
「おいしい。」
「ああ…うまいな。」
「すげえうまい。うぐっ…。」
「あの清志君?大丈夫?胡椒入れすぎたかしら?」
日本の鯛を使ったアクアパッツァを口にした清志は急に小さくすすり泣き始めた。麻里佳はそれに動揺するが、別にまずかったわけではない。ただ、この家でこんなにも辛くないおいしい料理が食べられる日が来るとは思いもしなかったのだ。それを口にすることはできないが、清志は鼻をかんで一度落ち着いてからまた料理を堪能した。
「…なら麻里佳さんは白夜の幼馴染なんですか。」
「ええまあそうなるかな。小学生のころ位からの付き合いだから。」
麻里佳は白夜とは長い付き合いで以前は同じ警察署で働いていたという。転職により海外で働くようになってからは疎遠となっていたようだが、最近日本に帰ってきたという。幼馴染ということは麻里佳の年齢は30代後半から40を超えていると推測されるがとてもそうは見えない。白夜もそうなのだが、何か特別な薬でも使っているのではないかと清志が邪推しても仕方ない事だろう。
「しばらくこっちに滞在するっていうからなー、部屋を貸す代わりに雑事を任せることにした。まあ仲良くやれー。」
「ってことは…。」
「わかったのです。ごちそうさまでした。清志、久しぶりにカートゲームやりませんか?」
「わかった。食器片づけてからな。」
なんとなく洋子の表情が暗い気がしていたがその理由が少しわかった気がした。しかしこれは当人たちの問題で自分が口を出すことではないと、今日のゲームは少し手加減してやろうと思った清志だった。
次の日、環からバトルロワイヤル予選のことを聞いた清志は瞳、皆夫、洋子、環の四人を集めクレイジー・ノイジー・シティへ向かった。
「まさかバトルロワイヤルに予選があるなんて全然知らなかったよ。」
「さすがに情弱すぎますよ。参加人数を絞るためにってセントラルにたくさん張り紙してたじゃないっすか。」
「私たちはあんまりセントラルにはいかないので、あの謎のDJの放送もなかったですし。」
「DJトルティーヤは最近風邪ひいてしばらくお休みらしいっすよ?…しかし確かにセントラルに行ってないなら仕方ないっすね。」
本当は言っていたが気づかなかったので何も言わないことにした清志と瞳だった。
クレイジー・ノイジー・シティ郊外にはダンジョンやアンノウンの発生するフィールドが乱雑に存在する。その一角にエジプトにあるピラミッドのような建造物が設置されていた。大きさは実物よりも小さいがおそらく中はダンジョンのように広く広大なものになっているのだろう。
「よかったっすね。まだここのブロックは終わってないみたいっす。」
入口の前に受付用テントがあり、エルフの男が控えていた。環はそこで話をする。
「5人チーム登録っす。」
「登録いたします。その前にリーダーを決定してください。」
「なら私ですね。」
「即決!?」
「まあいいじゃないか。」
「では魔力反応を登録いたします。…完了いたしました。それでは健闘を祈ります。」
ククリと違いクールなエルフだ。しかし仕事が速くとてもありがたい。
「入場する前にまずはルール確認っす。バトルロワイヤル予選は基本的にやることは本線と変わらないっす。チームで出場し、広いフィールドの中でのPVP。勝利条件はチームリーダーのエピックウェポンの破壊っす。最後の1チームになるまで予選は続き、1日1チーム撃破しなければ退場できない。重要なのはこの位っすね。」
「つまり負ければ私の武器はなくなっちゃうってことですか!?」
「そういうことみたいだね。」
「…清志、リーダー変わりませんか?」
「絶対嫌だ。」
洋子は清志の服をつかんで前後に揺らして抗議するが、結果は変わらなかった。皆夫と瞳がなだめる中環は話を続ける。
「洋子ちゃんのエピックウェポンは防御力が高いですから、チーム的には万々歳っすよ。リーダーはわかるようになってますから狙われやすくなりますけど。」
「洋子の場合ヘイトが向く方が有利だしな。かちゃいいんだろ?」
「そういうことっす。」
洋子を納得させ、全員が入場の決意を固めた。その時、別のチームらしきプレイヤー集団が歩いてきた。そのメンバーの一人を見て皆夫は目を細めた。
「あの人って…。」
するとあちらも清志たちに気づいたらしい。その中の一人が近づいてきた。大きな斧を背に乗せた背の高い男だ。
「リク?」
「あの時の…セイだったか?」
その男は以前清志たちが初めてセントラルへ行ったとき彼らに近づき、不意打ちのPK戦を仕掛けてきたずる賢い男リクだった。しかし彼の表情には以前のような優男の笑みはなく、無残な事故現場でも見てきたかのように険しいものだった。
「また生きていたのか。」
「てめーもな。」
前の仲間は清志たちが倒したため、一人どこかでやられていたかと思っていたがどうやら予想は外れたらしかった。清志たちは警戒して武器に手をかけるがリクは気にする様子もなく言った。
「ガキは帰んな。地獄を見るぜ。」
「安い挑発だな。それで引き下がってもらえるとでも?」
「…。」
リクは鬱陶しそうに舌打ちすると、頭を掻いた。彼の仲間はただただ暗い顔でこちらを見ている。それが一層不気味だった。
「ならお前らは俺たちが倒す。よく覚えておけよ。」
「…。」
リクはそのままダンジョンへと入っていった。仲間たちもそれに続く。
「…どうしたんだろうなリクさん。以前とは様子が全然…。」
「知らねえよ。ただ、厄介な相手なのは確かだろうな。」
「大丈夫っすよ先輩!先輩なら勝てます。」
そう言って環は清志と腕を組む、女性陣はそれに過剰に反応するが今の清志はリクの発言の違和感について考えることが精いっぱいだった。
「腕汲みなんて破廉恥だ!ほら離れろ!」
「そうですよ不純異性交遊なのです!」
「なーに言ってんすか同意の上っす。ね?先輩。」
「…まあいいか。行くぞ。離れんなよ。」
「はい!」
「「ちょっ!?」」
清志はそう言ってダンジョンへ入っていった。それを追いかけほか3人も急いでついていった。皆夫は会話が変に食い違っていることに気づきながらも、面白そうなので黙っていたのだった。
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