第48話「神隠しの考察」
「先輩。センパーイ!」
「アー?」
「昼休みボッチっすか?寂しそうっすね。」
「寂しくねえよ。皆夫も瞳も用事があるんだと。」
「ならかわいい後輩が一緒にいてあげるっす。感謝してくださいね?」
「はあ?邪魔すんなよ。」
「はいはーい。」
昼休み、特にやることもなかったので清志はいつもの場所で竹刀の素振りをしていた。ただ無心に剣を振る毎朝の日課である。しかし暇な時もこうして鍛錬するというのはなかなか少年心としてはかっこいいので、今日は昼もやることにしたのだ。そして何も考えなくていいことが清志にとってとてもよかった。しかしそんな清志をただにこにこと観察する環のせいで今日は無心になれそうになかった。
「498、499,500…ふう。」
「お疲れさまっす。コーラはないですけど、お茶、どうぞ。」
「なんでそのこと知ってんだよ。…サンキュ。」
環に渡された水筒に入っている麦茶を一口飲む。コーラほどではないが水分が体に染み渡る感覚がとても心地よかった。
「知ってる人には有名っすよ?ほとんど毎朝蜜月の日々を過ごす二人の男子中学生、その手の女子たちが喜んでますからね。」
「なんだその手って…いやなんか聞きたくねえ。」
「そんなことよりわかってますか先輩?」
「なんだよ?」
環はいたずらな笑みを浮かべてずいっと清志に顔を近づける。
「間接キスっすね。」
「なっ!?」
そう言って環は清志の飲んだ水筒を見せびらした。驚き赤面する清志を見て彼女はさらにおかしそうに笑った。
「冗談っすよ冗談!本当にからかいがいがあるっすね。」
「あのなあ…。」
「怒らないでくださいよ。私だって泣き女の事件が終わってから部室にも全く訪ねてこないから寂しかったんすよ。本当に白状っすよねー。ことの顛末とかまったく興味ないんすか?」
「あーそういや武ともあれっきりだな。結局あの泣き女どうなったんだ?」
泣き女の件が片付いた後いろいろな事件があったせいか、清志にとってそのことはとっくに昔のことになっていた。あきれ顔の環はしかたないとその件の顛末を離してくれた。泣き女であったみどりはしばらくの間昏睡状態に陥っていたが、現在は回復し真由美とも和解ができたらしい。泣き女に襲われたバレー部員たちも命に別状はないが今後も事件の真相は隠されることになるだろう。
「武さんがうまいこと被害者の部員たちのガード役をしているそうっす。部活は続けられないでしょうけど、結果的にはみのりさんも友達ができてよかったんじゃないっすかね。」
「まあみんな無事なら何よりだろ。あとは知ったこっちゃねエ。」
「先輩の場合その前から知ったこっちゃねエしてましたけどね。」
けが人こそ出たが死傷者もなく、一件落着問題の根底は解決されていないのかもしれないが清志たちにできることはもうないだろう。
「さて、次に話題に行きましょうか。先輩が部室も訪ねてこない理由は知っているっすよ?神隠しとバトルロワイヤルっすよね?」
「その情報本当にどこから知れてくるんだよ。その通りだが?」
「オカルト研究部をなめないでほしいっす。といっても神隠しのほうは半ば推測っすけどね。」
どうやら環もこの学校で起こっている以上を認知していたようだ。彼女によると少なくとも10人以上の生徒がその消息を絶っているという。
「学校のデータベースや名簿からも名前が消えているみたいっすけど、私が調べたオカルトノートの中にはしっかり名前が残っていたっす。違和感を持って読み直さなければ気づくこともできなかったと思います。」
「よく調べたな。なら誘拐犯はやっぱ学校の関係者か。」
「安直っすけど、それが一番可能性が高いと思います。しかし誘拐犯ではないんじゃないっすかね?」
「どういうことだ?」
「誘拐って結構面倒なんすよ?誰もいない場所で痕跡も残さず、エピックウェポンで異世界に連れ去るにしてもあんな目立つもの何度も使えませんよ。」
「だがおそらく犯人は記憶操作系の能力者だ。学校中の人間の記憶が無くなるくらいならその程度の記憶消せるんじゃないか?」
「ただの人間相手ならそうかもしれないっすね。ただ行方不明になった生徒の多くがプレイヤーだったとしたらどうっすか?」
「本当なのか?」
「はいっす。」
ただ人間を誘拐することとプレイヤーを狙って融解することを比べればそこには大きな違いが存在する。プレイヤーは異世界では容姿が違うため特定は少々困難であり、場合によっては返り討ちにされる可能性もある。
「つまり、最初から異世界でいなくなった奴らの後始末をしている可能性があるってことか?」
「さすが先輩。私的にはそっちの方がありそうなんすよね。」
異世界で何らかのトラブルがありこちらの世界に帰ってこれなくなった場合、それが複数件同じような事件があれば、町は混乱状態になるだろう。その対処策としていなくなった人間の記憶と存在した痕跡を抹消しているということだ。誘拐のプロセスがない分より明快だ。
「案ならありますよ?でもそのためにはまずバトルロワイヤルの予選を突破してもらわないと困るっす。」
「は?予選?」
「え、先輩…もしや知らなかったんすか?」
全く知らなかったという清志に環はあきれ顔でため息をついた。最近よく呆れた顔を向けられている気がして少々いたたまれない気持ちになった清志だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます