第47話「デート」
あれからしばらく魔導王から音沙汰もなく、この異界での生活もとくに変わりなく清志たちはアンノウン討伐に精を出していた。
「ダンジョンもだいぶ慣れてきたね。中級ダンジョンなら30分かからないかも。」
「基本的にデビファンのモンスターそのままだしな。ほら見ろよ。マナがこんなにたくさん!」
「ぱっと見2000マナはあるな。やっぱりダンジョンのほうが効率いいかも。」
『終わったか?』
唐突に頭の中に響く低い声、そんな減少に最早慣れきってしまった清志たちは特に驚く様子もなく話を続けた。
「ああ。で何の用?」
『新装備の開発が終了した。試用してデータを取りたい。』
「前から言ってたやつだな。」
『とりあえず今日は皆夫だけでいい。ほかは自由にしていろ。』
「えー僕だけ?」
『そうだ。』
「しょうがないなー。」
クリアしたダンジョンの入り口にある大きな岩に腰かけ皆夫は大きく背伸びする。言葉の割には嫌がっている雰囲気ではなく少し楽しそうだ。しかしその様子に異議を唱える者がいた。
「なんでまた皆夫なんだよ!これ以上こいつを強化してどうする!?」
「どうしたんだよ清志君!?急に叫んで。」
「あれだよアイちゃん。今まで地味でコンプレックスだったけどやっと新装備でカッコよくなれると思ったら僕にオファーが来たから。」
「あー、さらに皆夫だけかっこよくなったらさらにみじめってことか。」
「翻訳すんな!」
清志の心情は二人が言い当てた通りであった。やっと新装備でかっこいい必殺技の一つも手に入るかと思えば、それすら皆夫にとられるということは清志の少年心には耐えがたい事だった。
『出力の観察が容易だから決めただけだ。調整が終わればお前にもやる。それで問題あるまい。』
「だ…いや…そうなんだけど…。」
言いよどむ清志に皆夫は口を押さえながらもう片方の手で清志の肩をポンとたたいていった。
「本当は独り占めしたかったんだよね新装備。まあでもパーティーの戦力増強はできるんだしいいじゃない。」
「べべべべつに独り占めしようなんて思ってないが!」
『さっさと始めるぞ。他のは邪魔だからどこぞへ行ってろ。』
「こんにゃろう…いい方ってやつが…。」
「まあまあ。」
仕方なく納得することにした清志は、瞳とともにその場から離れることになった。
「何で皆夫ばっかり…。」
歩きながらごにょごにょと小さな声で文句を言う清志、その子供らしい様子に瞳は一度頬を掻いてよしと意気込んだ。
「さあ今日はどうしようか?」
「そうだな。ダンジョン行ってあんまり体力も残ってないだろうし…やることなくないか?」
「ならさ、今までやってなかったことしようぜ。」
「なんだよそれ?」
まったくわからないといったふうな清志に瞳は笑いかける。そして彼の手を引いた。
「せっかく町も
セントラルシティオブクレイジー・ノイジー、この異界における中心街で、プレイヤーとエルフたちが営む商店街でにぎわっている。ダンジョンなどの依頼はわざわざ出向かなくても受けることができたため長い間訪れることはなかったが、久しぶりにそこに行くことにしたのだった。
「ほら清志君あっち見ろ!甘味だって!」
「食べんだろ?ヘイヘイ。」
以前ククリに聞いた話によればエルフたちの言葉は支給されたネックレス型の魔道具によって翻訳されているらしい。しかし文字はエルフたちの使っているもののままなのだが、割と読める。漢字やひらがなのような文字が使われその意味もほとんど同じだという。これは遠い昔エルフたちと日本人が交流があった証明なのかもしれない。
「んー!」
瞳は森餅という名前のお菓子をほおばり歓喜の声をあげる。木のでんぷんを練り上げた餅の中にはちみつのような蜜と餡などを混ぜた甘い具が入った団子状の甘味だ。
「おいしい!」
「本当にうまそうに食べるな。」
「おいしいからおいしい顔をするのさ。ほらどうぞ。」
「え、あむ…。」
食べかけの団子を口元に出され唇に触れる。これはいつかにきいた間接キスではないかとも思う清志だったが、好意を無碍にもできずそのまま食べることにした。
「甘っ。」
「いいだろ?健全な精神には甘いものが必要なのだ。」
「どんな理論だよそれ。」
「英気を養ったら次はアイテム屋さん行こう!なんかすごいのあるかもだぞ?」
「アイテム…そうかそういえば!」
「ふたりで皆夫を出し抜こうぜ?」
「だな!」
不機嫌が直った清志を見て瞳は嬉しそうに微笑んだのだった。
清志と瞳は商店街を巡った。エルフたちの作った不思議な民芸品や薬、服などおおよそ戦闘に使えるものはほとんどなかったが、まるで海外旅行でもしているかのような興奮があった。めぼしいものをいくつか購入し満足すると、二人はセントラルシティにある公園のベンチに腰かけた。
「こんな都会的な建物なのに売っているものや文化はまさに森の民って変な感じだな。」
「確かに。でもこの木人形とかかわいいもの買えたし、おいしいものも食べれたし楽しかったよな。」
「そうだな。」
二人は自分のエピックウェポンにそれぞれ小さなお守りを付けた。瞳の提案で互いにデザインを選んで送ったこれからの幸福をもたらすというお守りだ。
「鞘に着ければ落ちねえかな。」
「危ないことしなければ大丈夫さ。落とさないように堅実に立ち回ってくれたまえ。」
「ヘイヘイ。」
「なあ清志君。私さ、実は少女漫画とか大好きでああいうシチュエーションとか大好きなんだよね。」
「ああいうシチュエーションって俺全然読んだことねえんだけど。」
突然のカミングアウトに清志は頭に?マークを付けた。すると瞳は恥ずかしそうにうつむき自分の合わせた両手を見ながら言った。
「えっとつまり…ですね。これってデートってことでいいんですよな?」
「は?」
そう言って瞳は顔を赤らめる。その言葉を聞いて清志は少し考え込んだ。
「さっきデートって言ってなかったか?え?どゆこと?」
そして瞳は真顔になる。うつむいていた顔をあげるとはあっと心底呆れた表情をする。
「な、なんだよその顔!?」
「君ってあれよな。すっごくガキだよな。やってらんねえんだよな。」
「誰がガキだ!ってなんかリズっぽいから言わせんなよ。なんだいきなり怒ってんのか?」
「ほんとやれやれだぜ。もう帰るか。帰ろ。こういうのは君にはまだ早かった。」
「本当にどうした瞳?おいなあって!」
その日瞳が機嫌を直すことはなかった。清志は洋子もそうだが女子ってよくわからねえと改めて異性との付き合いの難しさを実感するのだった。そしてとりあえず甘いもので吊ればいいのではと考えつくのはその日の夜のことだ。
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