第46話「火縄の男」

 クレイジー・ノイジー・シティ中央都市の公園でセカンドステージと新イベントの告知がされた後、清志たちに声をかけてくる男がいた。それは以前清志たちを襲った火縄銃の男だった。


「そう警戒しないでよ。僕これでもガラスのハートなんだから。」


 清志は腰に付けた刀に手を当て男をにらんだ。


「暁とアイは後ろに下がって防御準備。フォランはすぐに戦えるようにしろ。…それで話って?」


「あれ余計警戒された?あちゃー。やっぱおっさんは子供には好かれないか。」


「…セイ。ここまで警戒しなくてもよくないか?ここでは戦いが禁止されてるはずだろ?」


「気を抜くなよアイ。こいつのエピックウェポンは危険すぎる。」


 男の腰には以前清志に使ったであろう銃のエピックウェポンが装備されているが、それをとる様子もない。中央都市においてプレイヤー同士の私闘は禁止だが、一撃で致命傷になりえるこの男に対しては警戒しないわけにはいかなかった。


「撃たない撃たないって。前回だって任務だから仕方なく撃ったけどね?ちゃんと危なくないように調節したんだぜ?僕はたとえ任務でも子供は殺さないって決めてるわけよ。」


「うるせえ。さっさと本題を言えよ。場合によってはここでその腕切り落とすぞ。」


「怖いなあ。確かに話が速くてありがたいんだけど。」


 男は先ほどまで清志たちが座っていたベンチの一つに腰を掛けると、胸ポケットから煙草らしきものを取り出すとそれを加えた。火をつける様子もなく男は話を続ける。


「以前も言った通り僕は雇われの傭兵でね。ここの子供たちと違って、この銃もある魔術師に作ってもらったオーダーメイドなのさ。大丈夫大丈夫撃たないって言っただろ?僕は言ったことは守るおじさんなんだから。」


 銃をもてあそぶ男に今にも切りかかりそうな清志にほかのメンバーは気が気でない様子だ。


「肝心なのは傭兵としての依頼内容でさ、まあ前みたいな雑事の命令もあるんだけどメインの目的ってやつよ。それが「魔導王を抹殺しろ」ってやつなのさ。」


 その言葉を聞いて一同はハッとする。まさかほかの人間からピンポイントにその言葉が出てくるとは思わなかったからだ。清志はできるだけ平静を保とうとしながら考える。ここでこの男は倒すべきだろうかと頭に思い浮かべた。そんな様子を気にも留めないようにへらへらと笑いながら男は続けた。


「以前あったときから妙に君たちが気になっててね。頑張って調べたのよ。そしたら今日本当に魔導王と連絡とってるんだもの。僕が言うのもなんだけどもうちょっと慎重にならないとだめよ。壁に耳あり障子に目ありってね。特に君たちは敵地のど真ん中にいるようなもんなんだからさ。」


「駄目だ清ちゃん!こいつは!」


 そこで動いたのは皆夫だった。雷鳴印を付与した刀を抜き男に切りかかる。ここで仕留めなければやばいと頭で理解したのだろう。


「えっ!?」


 そこで男は刀をよけるそぶりもなく腕で刀をガードした、防具こそついているがそれを貫通し血が流れる。それにひるんだ瞬間男は体勢を変え皆夫の背後に回りその首を拘束して頭に銃を突きつけた。


「皆夫!」


「いてっててててて。腕がしびれちゃってるよ。やっぱこうなっちゃうかあ。」


「清ちゃん構わないで!」


 皆夫が叫ぶが、清志は動けない。動けば皆夫の頭が撃ち抜かれおそらく致命傷は逃れられないだろう。その選択をすることは清志にはできなかった。


「さて、話を戻そうか。僕はね依頼を内容通り達成できればいいわけよ。君たちを傷つけることなんてしたくないし、まして殺そうなんて思ってない。ただ情報が欲しいだけなんだ。」


「情報だと?」


「魔導王の情報さ。彼がどんな姿をしていてどんな能力があるのか、どこに潜んでいるかわかれば万々歳かな。」


 ここで皆夫を見捨てる選択肢はない、しかしもし魔導王の情報を彼に伝えれば、すぐに魔導王にもばれてしまうだろう。もし彼の逆鱗に触れればどうなるか最悪はいくらでも考えられた。


「…可哀想にそんなに脅されてたんだね。」


「どの口が言うんだ。皆夫を人質に取っておいて。」


「僕だってやりたくないさ。でもね、それでも僕の方が良心的だ。僕はこうして君たちの前に姿を見せて誠意を見せているけれど、魔導王は君たちのような子供をこんなわけのわからない危険地帯に向かわせて姿すら見せようとしないじゃないか。」


「それなら貴方の雇い主も顔と名前くらい教えてくれるんですか?」


「皆夫刺激しちゃダメなのです!」


「皆夫君っていうのか駄目だよお嬢ちゃん、焦って偽名忘れると僕みたいなおじさんでも名前を覚えられちゃうんだから。」


 洋子がはっとする。清志も洋子も余裕がないあまり、情報をつかませないための偽名をすっかり忘れて本名で呼び合ってしまっていた。


「魔導王の容姿は黒い古フェイスのヘルメットに戦闘服みたいなプロテクターを身に着けた…どっかのヒーローみたいな姿をしていた。」


「き…じゃなくてセイ!何を…!?」


「能力は指輪みたいな無機物に変身してるたことと、俺たちのエピックウェポンをつくったことぐらいしかわからない。いつもは姿を消しているからどこにいるかわからない。俺たちが知っているのはこれくらいだ。」


「おお、ありがとう十分十分!じゃあ離すね。」


 そう言って男は皆夫を離す。少しせき込む皆夫であったが大事はないようで、すぐに男から距離をとった。


「お前の雇い主は何が目的なんだ?」


「さあね。僕みたいな下っ端には教えてくれないよ。どうしてここにいるプレイヤーは子供ばかりなのか、アンノウンとは何なのか、どうしてプレイヤー同士殺し合わせているのかむしろ知りたいくらいさ。」


「殺しあう?」


「情報提供ありがとうね。お礼にひとつ助言してあげよう。狼男に気をつけろ。特に闇夜にまぎれた狼男にはね。」


「このまま返すと思ってんのかよ。」


「ここに僕一人しかいないなんて言ってないんだぜ?気づいていないなら僥倖僕たちを捕まえても君たちの一人や二人…さてどうなるか?」


「ぐ…。」


 男をこのまま帰すのは危険だとわかっている。しかしこういわれてしまえば、清志にはどうすることもできないのだ。こちらに察知できない敵の死角からの攻撃ほど恐ろしいものはない。


「あ、私闘のペナルティは僕から言って免除しとくから心配しないで。これでも子供には寛容おじさんだから僕。」


「おじさん。あなたの名前は?そのくらい教えてくれてもいいでしょ?」


 皆夫がそういうと男はポリポリと頭を掻いてまた笑った。


「団さんだよ。坊ちゃんたち、バトルロワイヤル頑張ってね。でも殺しちゃだめだよ。人を殺すと因果が巡るから。」


 そう言い残して団は町の人ごみに紛れて消えた。清志たちの心には団のいったこどばの疑問と何かもやもやしたものが鉛のようにずんと沈んだ気持がしていた。

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