第45話「セカンドステージ」
清志たちはクレイジー・ノイジー・シティーに入り、その近未来的な都市の中にある公園のベンチのようなところに腰を下ろした。
「なんだかんだこの四人がそろうの久しぶりだね。」
「確かにな。なんやかんやで用事があったもんな。」
「そうですね。なんやかんや。」
「なんだかんだなんやかんや…って今はそれは問題じゃない!」
いまいちことの深刻さを理解していない、三人に清志は叫ぶ。しかし事件がひと段落したこともあってかほかのメンバーは気の抜けた表情だ。
「皆夫と瞳はわかってんだろ?気づかないうちにクラスメイトがいなくなっていた。なんでそんなのんきなんだよ。」
「そうは言うけどさ、僕からすればなぜか教室に座席が増えていた事件とも感じるっていうか、誰がいなくなったかもわからないから実感がなくて。」
「私のクラスは別に椅子が増えたとかそんなこともなかったはずです。まあだいぶ前にはあった気もしますが、記憶が不確かなのです。」
「とりあえず魔導王に話を聞いてみないか?清志君の話が本当だとしたら私たちは何らかの力でクラスメイトの存在事忘れていることになるわけだし、詳しいんじゃないか?」
瞳の提案により、清志は魔導王に連絡してみることにした。清志の左腕にはめられている腕輪の電話ボタンを押しすとしばらくして応答があった。
『どうかしたか?』
「ちょっと聞きたいことがあるんだが、今いいか?」
『料理中だが構わん。』
「魔導王料理するんだ…。」
「この人私たちそっちのけで優雅に主夫生活してるんですよ。」
困惑する皆夫に洋子が毒々しく言った。そちらはとりあえず置いておいて、清志は本題について聞いてみる。清志は今までの事情を説明した。
「記憶の一部を消すエピックウェポンって存在するのか?」
『可能であるが困難だというのが見解だな。記憶は脳の海馬体などと密接な関係があるとされているが、少なくとも人間にどの記憶がどこに記録されているか知る術はない。特定の記憶を消去するとするとまず脳の記録プロセスの理解とそれを読み取る能力が必要となる。それができそうな怪物は知っているが、ここにいるわけもない。』
「なら記憶を操ることは不可能ってこと?」
『そうでもない。間接的な手法であればお前たちの言う状況は再現可能だ。プラシーボ効果のようにというと少し強引かもしれないが、その人物が存在しなかったと強く思いこませること、催眠術系統の能力ならば奴らの武器でも可能だろう。』
「データは消えていないが読み取れなくなってるって感じか。」
『そうとらえて構わん。…そういえば以前清志と洋子がこちらに来た際奇妙な魔力反応があったから、除去と予防を行ったが…ああそれの話か。お前たちの話からすると、どうやらお前たちの中学にそれを扱えるものがいるらしい。』
「…そうだとして目的は何だと思う?」
『曖昧なことは言えん。しかしちょうどいい機会だ。夏休みまでにその催眠術師を捕まえてみろ。場合によっては、有益な情報があるやもしれんからな。とりあえずお前たちには催眠術対策の保護を行っておく。』
「え、ああありがとう。」
『以上だ。しっかりとアンノウン討伐も並行してやれ。そろそろ実装予定の新装備にもマナが必要だからな。』
「新装備?」
そうして魔導王との通信は切れてしまった。
「だとさ。」
「とりあえず僕たちの記憶が操作されているってことでいいみたいだね。」
「魔導王気づいていたならどうしてこんな重要なことを黙ってるんですか。本当に…。」
魔導王の話を聞いて清志は今回の件の犯人について考えてみることにした。一つ、自分たちが把握しているいなくなった人間はクラスメイト二人、しかしほかのクラスの人間もいなくなっている可能性がある。一つ、エピックウェポンによる記憶操作は可能であり、自分たちもそれにかかっていた。一つ、人がいなくなった次の日には学習机は残るも、荷物らしきものは見当たらなかった。一つ、清志は催眠にかかる前からクラスのことをほとんど把握していなかったためもともとクラスメイトが何人いたかわからない。
「洋子、魔導王の話からするとお前は既に催眠は解けていることになるが、本当に違和感があるような出来事はなかったんだな?」
「はい。クラスメイトは30人ではみ出した机はなかったはずなのですよ。ただ、催眠によって完全に記憶が無くなってしまった可能性もあるのでしょうか?」
「それを確かめるには一つしかないよ清ちゃん。」
「どうするんだ?」
妙案があると、皆夫は胸を張る。
「瞳ちゃんの催眠を解けばいいんだよ。瞳ちゃんなら僕たちと違ってクラスメイトの記憶も確かだろうし、催眠によって記憶が完全に消えるのか元に戻るのか確かめられる。」
「ってことは魔導王が催眠を解くまで何もできないってことか?」
「…そういえばいつまでにやるとか全く言ってなかったですね。」
「あ…。」
自信満々だった皆夫の表情がかげる。とりあえず催眠の効果についてはすぐには解決しそうにない。
「よし、今日できることはもうねえな。」
「あきらめ早くないか!?」
「今日はアンノウン数匹倒して帰るか。」
この時すでに清志の頭の中では今回の事件に迫る作戦ができ始めていた。しかし実行するにも今日できることはなさそうだったのだ。明日のことは明日考えた方がいいと清志は次に切り替えることにした。そんな時久しぶりに聞く気がするやかましいアナウンスが流れた。
『ヘイ!エブリバディ元気にしてるか!?みんなのDJトルティーヤ様だぜヒャッホー!』
自己紹介の通りクレイジー・ノイジー・シティができてからずっとやかましい放送を続けている謎の男、トルティーヤがビルの巨大モニターに表示される。
『セカンドステージだ!みんなモンスターを狩りまくってどんどん強くなってるぞ!ここらで一つ実力試ししないかい!?そんなわけで7月14日の金曜日17時から第二回バトルロワイヤルを開催するぜ!今回の相手はアンノウンではなくプレイヤー同士のバチバチバトル!優勝したら豪華賞品が手に入るぞ!詳細は配布されるチラシで確認してくれじゃあなあああ!』
そうして放送は終了した。いきなり過ぎることとともにあまりのやかましさに全員が呆然とするほかなかった。
「バトルロワイヤルか。前回は負けちゃったけど、今回も参加する方がいいのかな?」
「プレイヤー同士ってさすがに危険じゃないですか?まだルールがわかりませんけど最悪…。」
「ちょっと待ってくれ私は二つ以上のことを同時に考えるのは苦手なんだ…えーと誘拐犯を捕まえて、バトルロワイヤルで?」
三人が混乱している。瞳に至っては頭の許容量オーバーのようで目がぐるぐる回っているように見える。清志は前回の雪辱を晴らしたいと思うも今抱えている問題の解決を優先すべきではないかと少し考え込んだ。そんな中、声をかけられる。
「え?出ないの?こういう時無鉄砲に行動できるのが若さってもんじゃないかって僕は思うなあ。」
「…お前は!」
声をかけてきたのは短い髪に無精ひげを生やした長身で気だるげな男、以前ハートの女王のダンジョンで清志たちを襲撃した拳銃の男だった。
「ちょっと話がしたいんだけどさ、少しいいかい?」
男は不気味なほど不用心に清志たちに笑いかけた。
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