第44話「28人」

 泣き女との決着の次の日、清志はいつものように日課の素振りを終えてから教室に入った。するとなぜか怒った様子の瞳が詰め寄ってくる。


「やあ今日も重役出勤お疲れ様だね。」


「いやまだチャイムもなってねえけど。」


「昨日に至っては無断欠勤とは大したものじゃないか。」


「?」


「首をかしげるんじゃない。なんかかわいいけどさ!」


 席の方を見てみると皆夫が少々困ったように座っていた。両手を膝に置いて座っているところから見て、おそらく瞳にこってり何か言われたのだろうと推測した。その横で疲れたように知らない女子生徒が座っている。


「皆夫通訳頼む。」


「昨日の球技大会サボったことで瞳ちゃんがめちゃ怒ってことだよ。」


「二人がいなかったせいで大変だったんだからな!私とそこの里美がサッカーの試合にまで出ることになったし!それもチアガール衣装で!」


 そういえば瞳はいままでチアガールの踊りの練習をしていたのだったと清志は思い出した。しかしと清志は思考を巡らせる。このクラスは30人、バスケットボールが5人とドッジボールが6人、バレーが4人とサッカーが13人そのうちの補欠が清志と皆夫であった。そしてこの学校でいつの間にか伝統となったクラスからの応援係が2人でちょうど30人。


「俺たち以外にも休んだ奴いたのか?それは大変だったな。」


「…何言ってるのさ。二人だけだぞこんな不良。っていうかそこじゃないんだよ!私が言いたいのは!」


「…いやそんなわけあるか。俺と皆夫は補欠扱いだったんだぞ。補欠がいないからって応援係駆り出すのかよ。」


「何わけわかんないこと言ってんの?このクラスのサッカーやることになってたのは11人ちょうどだったんだから補欠なんているわけないじゃん。」


 里美と呼ばれた女生徒があきれたように言った。瞳も何を言っているのだといぶかしげな表情を浮かべている。


「話がかみ合わねえな。考えてみろよ、このクラスは30人バレー4人とバスケ5人ドッジボール6人とサッカー11人あと応援係が2人。合計28人二人余るだろ?」


「何言ってるんだ?このクラスは28人だぞ?」


 瞳が何を言ってるのかわからなかった。正体不明の不快感を覚え清志は皆夫に問う。


「なあ皆夫。俺たちは補欠だからサボっていいと考えたそうだろう?」


「そうだね。…あれ?でもどうしてそう考えたんだろう?たしかに計算合わないや。このクラスは28人しかいないのに。」


「ねえ瞳、やっぱこいつおかしいんじゃないの?」


「確かにたまに清志君はおかしくなるんだけど…。大丈夫か?また頭打ったとか?」


「瞳…このクラスの机数えてくれないか?」


「まだ疑ってるのか?…冗談で言ってるわけじゃない?」


「皆夫たちも頼む。…俺が間違っていないならここには30の机が並んでいるんだ。」


 清志は再度教室にある机を数える。2,6,8…何度数えても30丁度。瞳たちも同じように机を数えた。すると三人はなぜか背筋が凍る気がした。


「何?怖い話でもしたいってわけ?こんな手の込んだいたずらさすがに寒いんだけど。」


「瞳、お前の方がクラスをよく見ているからわかるはずだ。机は増えたのか?それとも変わっていないのか?俺は変わってねえと思う。」


「変わっていない。全く昨日と違わないはずだよ。ここしばらく机の配置は変わっていない。昨日はこの教室自体使っていない。」


「重ね重ね悪ぃけど、もう一つ聞かせてくれ。ここしばらく授業を受けて生きたこの教室に人のいない学習机はあったか?」


「ない…はずだ。全く覚えがない。空いた机なんて目立つはずなのに。」


「おいガキども席に就けー。ホームルーム始めんぞー。」


 担任の白夜が前扉からけだるそうに入ってくる。その号令とともにいったんよにんは自らの席に着いた。ほかの生徒たちも自らの席に着く。


「おいそこー。勝手に席変わってんじゃねえぞー。」


「あれ?あ、すんませーん。」


「ったくあとで持ってきた机は戻しとけよー。」


「おい和人何やってんだよお前。」


「なんでだろ?なんか座っちゃたんだよな。ってか誰だよあの机持ってきたやつ。」


「知らねえよ。お前じゃねえの。」


「ちげえよ!」


「やかましー。じゃ、出席確認するぞ。」


 そうしてホームルームが続いていく。今日は誰も休んでいない。28人全員出席だった。24人はそれが当然のように緩んだ顔だ。しかし残りの四人は血の気が引く心地だった。


「2人消えた?」


 すでに日常は壊れている。どこか気づかないふりをしていた現実が目の前に突き付けられた気がしたのだ。

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