第40話「清志の作戦」
清志はその日、洋子、皆夫、環、そして武を呼び出し街の図書館近くにある公園に集まった。平日の朝に呼び出されるということもあって武は不満そうではあるが洋子たちは今日行く必要がないので平然としている。早速今日の予定を話そうとしたのだが、清志は武の横にいる人物を見て顔をしかめた。同じように武たちも清志の横にいる人物を見て渋い顔をした。
「「なんでいるんだ?」」
清志と武は全く同じセリフを言った。武の横にいるのは昨日泣き女に襲われていた女子高校生の三家真由美だ。とりあえず武が先に事情を話し始める。
「実は今日の朝つかまってな。泣き女について教えろといろいろ…うまく巻こうとしたのだが逃げきれず…。」
どうやら環が昨日色々話してしまったらしい。それによって真由美は興味を持ち関係者である武に押し掛けたようだ。女性からの押しに弱いらしい武は断れなかったということだろう。
「マジかよ…さすがにやべえだろ。」
エピックウェポンを持たない一般人がかかわるには危険すぎることだ。面倒ごとを抱えたと清志は内心舌打ちをする。しかし最早仕方がないのであとで対策を考えようと話を次に進めることにした。
「それで、なんでククリがこっちにいるのです?」
洋子が言う通り清志に横にはエルフのように長い耳を持つ長身の美男、しかしブス専なククリがいた。本来こちらの世界の住人ではない彼がこの場にいるのはおかしいのだ。
「今朝連れてきたんだよ。こいつの力を借りたくてさ。」
「よろしくだよ。」
「いいのか?あっちの住人をこっちに連れてきて?」
「ああそういえば昨日まど…むぐっ!」
「窓?」
余計なことを話しそうになる洋子の口を清志は急いでふさいだ。そして取り繕うように視線を斜めにそらしながら言う。
「すぐに帰れれば問題ないって窓見てたら思いついたんだよ。ほら俺たちだって短時間ならあっちに行ってても問題ねえし!」
「そういえばククリさんのエピックウェポンってあれだったもんね。」
「いやまてなんで森人族がエピックウェポンを持ってるんだ?たしか彼らはプレイヤーの補助をする…。」
「細かいことはいいんだよ。いいだろ一人くらい持ってたって!ってことで作戦を伝えるぞ!」
作戦を共有したのち、真由美の警護を洋子に任せ残りの五人はマンホールの下、下水道に向かった。
一方真由美は洋子に監視され公園のベンチに座るしかなかった。中学生と高校生、同じ女子同士でその差は歴然であるはずなのに、真由美は洋子の自らの腕を引く力にあらがうことができなかった。もはや追いかけられないと思った真由美はおとなしく座り話をすることにした。
「あの化け物がみのりって話…本当なの?」
「可能性が高いという話ですよ。私たちはそのみのりさんという方は知らないのです。」
「みのりは…わけのわからない娘だった。泣き虫でいつも小さいことで泣きじゃくって…。」
「まさに泣き女ですね。」
「でも…まさかそんな…あの子が…。」
「どんな人だったんですか?」
きっと聞いてほしかったのだろう。真由美は洋子がそう問いかけると一呼吸おいて彼女について話し始めた。
そのころ清志たちはバイザーを付けたククリを先頭に下水道内を歩いていた。
「それにしても最近音沙汰もなかったから心配してただよ。みんな元気みたいでよかっただ。」
「悪かったよ。しばらくこの件で忙しくてさ。」
「先輩たちって森人族ともパイプがあるんすね!さすがっす。」
「パイプ言うななんか政治関連の悪いつながりに聞こえる。」
ククリのエピックウェポンであるバイザーの能力は分析と情報共有。昨日の出来事からマンホールの下に泣き女が身を隠していると推測した清志は彼の力を使って泣き女を見つけることにしたのだ。ククリは魔力の反応を検知するとその方向に向かってみんなを案内した。
「実を言うと結構うれしいだ。こうしてみんなに頼ってもらえること。これからも尾らにできることがあったら頼ってほしいだ。」
「ククリ…。」
今日のククリはひどく落ち着いていた。バイザーで目元は見えないが今、とても優しい笑顔を浮かべている。いつものビビりな彼とは別人に思えるほど頼りがいがある。
「ククリさんも成長してるんだね。」
「だな。」
そんな彼を感慨深く思っているとチュウと下水道の脇を小さな鼠が走り抜けた。
「ひい!」
その瞬間情けない声が聞こえる。先ほどまでの信頼感はどこへやら、清志たちはジト目で彼を見つめた。
「ででできることなら頼ってほしいだよおおおお。」
足が笑っている。清志と皆夫は少し笑いそうになるがこらえた。そうそう性は帰られるものではない。しかし一生懸命それを替えようとする彼の心の強さに二人は内心敬意を抱いた。
「頼りにしてるよククリ。」
「そうそう!」
そんな会話を聞いて環と武もすこし緊張がほぐれたようだった。そして五人はようやくそこにたどり着く。
「見つけたぞ。泣き女!」
薄暗い無機質でとても清潔とは言えないこの下水道の通路の一角にそれは身を潜めていた。全身が緑色の液体に包まれた人型の怪物。最早そう形容するしかなかった。
泣き清志たちを視認すると最早泣き声にも聞こえない奇声を発した。
「があああたてゃはああ!」
「よし!計画通り頼むぜ武!」
「せめて先輩をつけろ中坊め!」
清志の指示で武はエピックウェポンを起動する。するとあたりの景色が一変した。以前武が清志たちに行った強制異界転移。こちらの世界で戦いにくいならば特異なフィールドに引きずり込めばいい。それが今回の清志の作戦だった。気が付くとクレイジー・ノイジー・シティの高いビル群に挟まれた広い道路へ移動していた。
「じゃあ行こうかセイちゃん」
「おう!」
「セイって…ああ先輩のデビファンのアカウント名っすか。」
「なんで知ってんだよ怖いわ!」
「ただの推測っす。」
「無駄話はよせ。来るぞ!」
「おらは後ろから色々調べるだよ!」
そして泣き女と清志たちの戦いが始まった。特異なフィールドで四対一、相手が強かろうが勝てるとふんでいた。あとは泣き女を討伐すればすべて終わり。しかしそこには大きな誤算があったのだ。
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