第36話「調査二日目」
武との戦いがあった次の日、清志と皆夫は洋子を連れて環のところに向かうことにした。その間に昨日のことをざっくりと振り返る。
「その武って高校生が私と同じ指輪を持っていたんですよね。そして昨日戦い、和解したんですか。」
「あいつも泣き女について調べているらしい。いうには黄金の果実を狙って一般人に害をなそうとしているかもしれないんだと。」
「それ昨日の夢に出てきましたよ。魔導王が言うには指輪の持ち主をたきつける方便だとかなんとか。」
「なら指輪を持っている人たちは、それに乗せられて人を襲うかもしれないってわけかな。」
武の話によると、指輪を手に入れてからこちらの世界でもエピックウェポンが使用できるようになったようだ。また洋子の話も総括して考えると指輪の所持者は黄金の果実を手に入れる権利があり、それにたどり着くには罪人と呼ばれる人々を襲い力をため指輪を三つ集める必要があるようだ。少なくとも指輪は三つあり泣き女が所持者だと考えるとすでに三人確認されているといえる。しかし指輪は三つのみかは定かではない。
「とりあえず武とは協力することにする。だけど魔導王のことは内緒だとさ。」
「警戒するに越したことはないですもんね。」
「…環はどうするか。巻き込んだら危険だしな。」
「でもいきなり来なくなったら可哀想だよ?」
「お前が巻き込んだんだからな?ちょっとは反省しろよ。」
「てへっ!」
「うぜえ!」
泣き女を調べるのはいいとしても、一般人である環をどうするかは一番の問題だ。このまま泣き女を見つけたとしたら、彼女が一番危険なのは自明なことだ。しかし昨日の押しの強さからして簡単にあきらめてはくれないだろう。清志はしばらく彼女に付き合いいい落としどころを探ろうと内心決心した。
オカルト部部室に到着すると、すでに環が待機していた。清志たちを視認すると人数が増えたことに目を輝かせる。
「おおお!入部っすか!入部っすね!これ入部届っすよ!」
「な、なんなんですか!?」
顔に入部届を押し付けられ洋子は困惑した。洋子が自分が剣道部に所属していることを伝えると、環はそうですかと寂しそうに納得してくれた。
「っていうか洋子ちゃんだったんすね。まあ先輩方が連れてくるんですから仕方ないっすか。」
「逆に今の今までわかってなかったんですか?」
「いやあ興奮しちゃって。」
そんなやり取りののち、清志は大まかに協力者の武について説明を行い彼と合流する旨を伝えた。環は簡単にそれを了承し、高校へ向かった。
「よろしくっス!武さん!」
「よろしく頼む。」
それだけの会話で打ち解けたらしい。環と武は自分たちの持つ情報を共有し、泣き女を見つけるための作戦を練り始めた。武には環が一般人であることは話してある。
「じゃあそんな感じで行きましょうか。…武さん、その指輪なんすか?」
「…これは一種のオカルトグッズというか。」
「ほええ!?ちょっとよく見せてほしいっす!」
環が興味深そうに武の蛇の指輪(これからはスネークリングといっておこう。清志的にこっちのほうがいい)を手に取り眺める。武も中学生とはいえ年の近い女の子に触れられてまんざらでもなさそうだ。武士っぽい感じが強い彼ではあるが普通に思春期の青年なのだなと清志は納得した。
そして決まった作戦は以下の通りだ。標的である可能性が最も高い女子バレー部四人(武の調べ)を帰宅時尾行し、泣き女が襲ってくるのを待つ。見つけても泣き女を刺激せず、特徴、移動経路などを調査するし速やかに警察へ連絡する。
「今いるのは、俺と皆夫、洋子、環、武の五人か。」
「なら一人余るね。」
「とりあえず、環は俺と行動するか。その方が安全だろ。」
「わかりました。」
「ああ。」
「意外っすね。先輩からそんな提案してくるなんて。あ、もしかしてこういうことっすか?」
すると環は清志の左腕と抱き着くように組んだ。中学生とはいえ胸の当たる感触に清志は顔を少し紅潮させた。
「何やってるんですか!?」
「恋人の振りっすよ。怪しまれないようにバカップルを演じる方がいいんじゃないですか?」
「ば、ばかそれで尾行したら目立ってむしろ怪しいっての!」
「いやっすか?うるうる。」
環の上目遣いに心が揺れる。しかし洋子の目線も怖いので何とか引きはがした。こういうことをさらりとする女性は子供だろうと恐ろしいとかなんとか誰かが言っていた気がする。
「清志、変な気を起こしてはいけませんよ。」
「お前は俺の母ちゃんか。」
「それじゃあレッツオカルトっす!」
「オカルトオカルト―!」
みんなと別れた後、よく考えれば環は皆夫あたりに押し付けておけばよかったと後悔したのだった。
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