第35話「不動の男」

 泣き女の噂について調査を行っていた清志たちであったが、そこで一人の男子高生に声をかけられる。その男は洋子が持っていたものとよく似た蛇の指輪を所持しており、二人を強制的にクレイジー・ノイジー・シティに引きずり込んだ。そして決闘を申し込まれたわけであるが、そのことについて二人はすぐに受け入れた。そしてエピックウェポンを起動したのであった。


「レグルス!」


「テンペスタス!」


 二人が変身を終えるころには相手の男も姿が変わっていた。上裸に袴というワイルドな姿で、目は獣のように鋭い。服を着ていた時は着やせするタイプなのだろう、今の彼はしっかりと鍛えられた肉体を持っており、その手に持つ巨大なハンマーに見合う男に見えた。


「お前たちのエピックウェポンは破壊させてもらう。二人がかりで構わない。正々堂々かかってこい!」


 その立ち振る舞いは戦国時代の武士のようだ。高校生らしからぬ強者の雰囲気に圧倒されつつも、清志は笑顔をたたえた。


「なら遠慮なく!」


「後悔しないでくださいね!」


 清志と皆夫は二人ではさみ打つように攻撃を開始する。前後二方向からの同時攻撃はあの大きなハンマーでは防ぎようがない。はずだった。


「あれ?うそ動かな…。」


 突然皆夫の刀が制止する。まるで強力な粘土に挟まれたように一瞬で空中に静止したのだ。男は清志の刀を受け止め、押し返す。そのパワーは清志以上で彼は数メートル拭き飛ばされた。


「ぐあっ!」


「終わりだ。」


 吹き飛ばされた空中で清志の手から刀が離れる。刀が空中で静止したためだ。男はそれを狙いハンマーを振り上げる。


「やめっ!」


 皆夫の武器は静止が解け、攻撃を妨害しようと走るが、間に合わない。男の無慈悲なハンマーの連打が刀を襲った。


「むっ!」


 しかし、刀には傷一つつかない。驚いた男は皆夫を警戒し、一度撤退する。


『馬鹿め。あの程度の攻撃なぞ想定内だ。』


「まどっむぐ!」


 清志がしゃべろうとすると何かの力で押さえつけられた。頭に流れる声は腕輪から発せられていた声と同じ、魔導王のものだ。


『頭で念じれば会話可能だ。奴に俺の存在は感づかれたくない。故にしゃべるな。』


『わあったよ。つーかいきなり念話で話しかけてきたくせにこれは乱暴すぎねえ?』


 口を押さえつけていた力が消え、はあと大きくため息をついた。敵を見据えながら、落ちた刀を拾い魔導王に文句を言う。


『そんなもの俺の勝手だ。それにしてもあの男、魔力量は少ないが厄介な能力だな。どうやら物体の静止が能力らしい。現在一度にひとつのものしか静止していないが、複数できる可能性もある。注意しろ。』


『注意って言ったってどうすりゃいいんだよ?』


『武器が止められたら素手を使えばよかろう。武器が手から離れても一定距離内なら能力は使用可能だ。手数もこちらが有利、問題あるまい?』


『素手なんてやったことねえよ!』


『ガキなぞ普通素手で喧嘩する方が多いものではないのか?』


『インテリなんだよ!』


 情報は皆夫にも共有されているらしい。男は絶妙に嫌なタイミングで二人の武器を静止させるが、それも初見殺しだ。慣れてくれば、二人でサポートをしあいながら対応できる。数発の剣戟ののち、双方は距離をとった。やられはしないが攻めきれない。そんな状況が続くと思われた。


「なるほど、お前たちは強い。その太刀筋、悪しきものではないと判断した。ならば何故泣き女を調べるのか!?お前たちも黄金の果実を欲しているのか?」


『なんだあいつの口調は?いつの時代だ?』


 なんだか話を聞いてくれそうな雰囲気に水を差すのでちょっと静かにしろと清志は念じた。


「俺たちはエピックウェポンで悪さをしているかもしれないからそれを止めようと思っているだけだ。黄金の果実なんて知らねえし、ほかに理由なんてねえよ。」


「…嘘は言ってないか。すまなかった。俺は寿高原高校農学部、泉武いずみたけるだ。どうやら俺と君たちの目的は一致しているらしい。不躾ですまないが協力してはくれないだろうか?」


 武はそういって深々と頭を下げた。皆夫がどうするのかと清志に尋ねる。清志はなんだか展開が速すぎると困惑を強めるも一度頭を掻いてから言った。


「とりあえず、話だけでも聞いとくか。」


 こうして今日のゲリラ戦は幕を閉じたのだった。

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