第34話「現地調査」

 それは夢の中に現れた。二枚の純白の羽を背中に携え、頭上に光輪をのせるまるで天使のようなその男は自分にささやいた。


「貴女は資格を得た。黄金の果実へ至る権利を得た。罪人の罪を清め力をお溜めなさい。そして貴女と同じ蛇の指輪を持つものからそれを奪うのです。3つそろえ力をため切ったその暁には、貴女は黄金の果実を得るでしょう。」


 その言葉はなぜか自分を安らわせた。そして心の奥底から欲望が湧き出るのを感じる。黄金の果実を手に入れたいという欲望。


「黄金の果実はあなたの願いをかなえることができます。誰よりも強い力も莫大な財も失った旧友を取り戻すことも。どうか貴女に主の祝福を。」


 天使はそれを言い残すと光に消えていった。歓喜に震えた。黄金の果実を必ず手に入れなければならない。過去を清算するためにすべてを取り戻すために。そう決意して


「あれ?」


目が覚めた。


 洋子は目覚まし時計の表示を見る。午前5時10分。起きるにはまだ早い時間だ。夢であったことは確かであるが、いつもと違い鮮明に内容を覚えている。そして確信があるこれからどうすればいいのか。


「まずは罪人の罪を清める…。」


『いやだめだからな。』


「うやっふ!?」


 頭に突然低い男の声が響いた。魔導王の声である。腕輪から発せられているのだとわかった。


「な、なんですかいきなり!」


『何、変な干渉があったから監視していただけだ。なるほどこれからまた面倒になるのは確定といったところだな。』


「乙女の部屋を監視ってデリカシーが…って魔導王に求めても仕方ないですね。…それでどうしてダメなんです?」


『どう考えてもお前を誘導するための方便だろう?言っておくがどんな願いもかなう黄金の果実など存在せん。この俺ですら死者を蘇生させるすべなど見つけられなんだし、最強には程遠い。莫大な財産ならある程度可能だがな。』


「…まあそうかもですけど。」


『しかしこれに乗るものは多いだろうな。近頃妙な事件が起きているようだが、犯人ははてさて。』


「死者はよみがえりませんか?」


『ああ。まあ術があっても蘇らそうなどとは思わんがね。』


 通話が切れた。洋子は窓を見つめる。朝日が差し込むしかし洋子の心は外ほど晴れ晴れしてはいなかった。


「聖…。」


 希望が奪われた気がしてしばらくの間何もすることができなかった。


 清志と皆夫は環に引きずられ、寿高原高校までやってきた。環はその校門近くにある公共のベンチの前に立つと、右手に持っていた虫眼鏡を掲げて清志たちを整列させる。


「それではこれから現地調査を始めるっす!」


「おー!」


「…お、おー。」


「情報は勝手にこっちに来てはくれません。足で取りに行かねばならないのです!なのでまずは聞き込みっすよ。手あたり次第当たっていきましょう!」


「マジか。」


「ガンバロー!」


 ということで校門から下校する高校生を中心に聞き込み調査を開始した。中学生の部活動の一環ということで何となく理解してもらったが、清志は恥ずかしくてどうしようもなかった。特に話すことを渋る男子高校生に対し、環が懇願しながら靴をなめようとしたときにはさすがに止めた。たいていの人はほとんど何も知らなかったが、何人かからは有力そうな情報を手に入れることができた。


「情報をまとめると、今までの被害者は全員女子高生でそれもバレーボール部である。事件があったのはおよそ部活動帰りの午後7時前後。クラス内でも評判がよく、特に恨みを持っている人はいないであろうと。」


「事件現場は様々っすね。警察が現場検証してるっすけど、通学路であることぐらいしか共通点は見えないっす。」


「このくらいの情報じゃ犯人の行動を特定するのは難しいだろ。次もバレーボール部員が狙われると仮定しても、全員を家まで監視なんてできねえし。」


「これ以上はまた日を改めるしかないっすね。」


 そう結論付けられ、三人は今日の調査は終わりにすることにした。環がまた明日と清志たちとは反対方向の帰り道へと去った後、二人も帰ろうとしたのだがそこで声をかけられた。


「なあ君たち。」


「なあ!?」


 急に肩に手を置かれ声をかけられるものだから、人とのコミュニケーションとは疎遠になっていた清志は素っ頓狂な声を上げた。


「驚かして済まない。ただ少し聞きたいことがあって。」


 声の主は制服に身を包んだ塩顔の男子高生だった。スラリと背が高く、坊主頭の彼はほとんど無表情で頭を下げ謝罪した。


「それで聞きたいことって?」


「先ほど泣き女の事件について聞いて回っていただろう?その理由が聞きたい。」


「オカルト部って部活の活動ですよ。俺とそっちの彼は今日から入部したんです。」


「そうだったのか。ありがとう。しかし危険だからあまりかかわらない方がいいぞ。」


「どうも。でも…。」


「それとも別の理由があるのか?例えばこの指輪とか…。」


 そうして男が見せた右手の人差し指には蛇の巻き付いたような黄金の指輪があった。それを見て二人は驚愕し後ずさる。


「やはりそうか。」


 瞬間あたりの景色が変貌する。清志たちがクレイジー・ノイジー・シティに入るときのように世界が侵食されるように変化した。男の手には柄の長い人の頭ほどのハンマーがあった。そして男はそれを二人に向けて叫ぶ。


「お前たちのエピックウェポン、ここで破壊させてもらう!」


「マジかよ。」


「今日何回言ってるのさそのセリフ。」


「うっせ。でも今日一番わくわくする展開じゃねえか。」


「わからなくもないよ!」


 急展開に驚きつつも二人は笑ってエピックウェポンを起動した。


「レグルス!」

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