第32話「泣き女の噂」
春も中盤となり暖かな気候へ変化してきた今日この頃であったが、清志たちはごく平凡な学校生活を送っていた。授業を聞き昼食を食べまた授業を聞く。絶望的に退屈な日常である。そんな中今日の放課後はどのクエストを受けようかと悶々と考える清志であったが、そこに皆夫から奇妙なうわさ話を聞くこととなる。
「泣き女ねエ。あれだろ?葬式とかに出てくる悲しくなくてもなく仕事の人。」
「割と世界各地でその仕事あるらしいけど、そういう感じじゃないみたいだよ。泣きながら襲ってくる女の妖怪なんだってさ。」
最近この地域にある唯一の高校、寿高原高校の生徒が不審者に襲われ重傷を負ったという事件がありこの中学校でも警戒を呼び掛けている。どうやらそれに起因した噂のようだ。薄暗くなった夜道を歩いていると、体中が濡れ泣きながら鋭い爪を携えて襲ってくるという。皆夫の話では実際に見たというこの学校の生徒もいるらしいが、清志はもちろん初耳であった。
「ってことで調べてみようよ。」
「なぜそうなる?」
「んー正義のヒーローごっこかな。」
「おいおい。」
にこやかに子供じみたことを言う皆夫に清志は呆れる。しかしよく考えてみると、一つ今まで考えても来なかったことがある。クレイジー・ノイジー・シティのプレイヤーたちはこちらの世界でエピックウェポンはどうしているのだろうか。清志たちは他人に秘匿するためにこちらで起動するなど考えてもみなかったが、数百人中一人も使わないなど不自然ではないだろうか。使えば目立つものであるし、噂の一つもたたない方がおかしい。つまりこちらの世界では起動できないかそれ以外に制約などがあると考えるのが自然だろう。
「もしかして、誰かがエピックウェポン使って事件を起こしてるって考えてんじゃねえだろうな?」
「もちろん考えてるよ。洋子ちゃんの変な指輪といいタイミング良すぎると思うんだよね。」
「…なるほどそういうことな。」
そんなわけで清志と皆夫はしばらくの間泣き女について調査をすることに決めたのだった。
「いいの瞳ちゃん誘わないでさ?」
「いいんだよ。あいつ球技大会に向けて練習があるんだろう?邪魔するもんじゃねえよ。」
「ノーコンだけどね。」
「何に出るんだろうな…出れんのかな?」
後者の一階廊下を歩く二人は部室棟に向かっていた。ここに皆夫が最近知ったという情報通がいるのだという。ハードボイルド系ドラマとかには情報屋が渋く登場することがあるわけだが、こんな田舎のにも似たようなものがいるのだろうかとあまり清志は期待せずについてきたのだった。皆夫が足を止めたのは部室棟の中でも奥のこじんまりとした扉の前だ。そこには「オカルト部っす!」と書かれた張り紙がしてある。清志は嫌な予感がしたが、皆夫は気にした様子もなく扉をノックした。するとバタバタと騒がしい音が聞こえてきた。
「入部っすか!?入部っすよね!?入部って言ってほしいっす!」
扉が勢いよく開き、髪の長い少女が興奮しながら出てきた。その様子に戸惑いもせず皆夫はにこにこと笑う。
「入部入部―。」
「あなんだ皆夫先輩っすか。どうもです。」
「今日は一人じゃないけどねー。そこでのびてるけど。」
少女が下を見ると、そこには額を抑えてうずくまる清志の姿があった。勢いよく開いた扉に頭をぶつけたのだ。
「わわわごめんなさいっす!」
とりあえず清志が回復するまで部室にお邪魔することになったのだった。
「で、だれこいつ。」
未だ痛む頭を押さえて清志はジト目で聞く。それに対し少女は驚愕の表情をした。
「え私のこと忘れたんすか!?ひどすぎっす!」
「…あったことあったのか?」
「ひどすぎるっすよ清志先輩!あるに決まってるじゃないっすか!?…まあ今はいいっす。改めて自己紹介します。」
すると少女はいきなり立ち上がり両手にお祓い道具のようなものを持ってそれを振り回す。
「世界の神秘を探求し!深淵を除き魔を祓う!そんなコンセプトで始めております我が部活!新生オカルト部部長、
決めポーズを決めどや顔で自己紹介をやり切った。それに対し皆夫は笑顔で拍手する。そんな中清志は思った。
「帰っていい?」
「なんですっか!?」
なんだかものすごく面倒そうな子な気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます