第31話「ククリのエピックウェポン」

 その日清志たちの担任である鈴堂白夜は職員室で同僚の教師から相談を受けていた。


「寿高原高校の生徒が重傷で病院に搬送?事故じゃねえのかあー?」


「私もそう思ったんですけど、その生徒さんがおかしなことを口走っていたらしいんです。」


 同僚の教師はこの地域にある高校とも縁があるらしく、すぐに情報が入ってきたという。それが少々気味が悪いということで白夜に今後の対応を相談しに来たのだ。


「それが全身がぐじょぐじょの女の人みたいな化け物に襲われたっていうんです。襲われていた当時の生徒さんの服にもこう青っぽい粘液みたいなのがついてたらしくて…なんだか不気味ですよね。」


「…話が完全にオカルトじゃねえかー。冗談なら仕事の後にしやがれ。」


「ちちちがうんです!本当の話なんですよ!警察の人も一応捜査してるみたいですけどま、まさか本当に怪物だったら…!」


 切羽詰まった様子の同僚に対し、白夜は心底呆れたような顔をしため息をついた。


「俺も後で確認するが、事実ならしばらく不審者がいるって警戒呼びかけるしかねえな。順調に進めば数日で警察が捕まえんだろー。」


「さっすが元警察!冷静ですね!」


「…じゃあ俺は確認に行くから、これ全部片づけとけよー。」


「え?この書類全部ですか?それはちょっと…ってマジで行くんですか白夜先生?せんせえええい!」


 白夜は同僚に自分の仕事を押し付け、職員室を後にするのだった。



 ゴールデンウィークも明け五月に入った。清志はこれ幸いにと休み中はマナ収集に努めていたのだが、その依頼主である魔導王はのんきに千歳たちと旅行していたのだった。お土産をもらったはいいのだが、なんだか少し納得がいかないのだった。


『お前たちの武器はしっかり作ってあるのだからあとはお前たちの役目だ。何も問題あるまい。』


 腕輪の通話機能で話をしながら今日は戦闘を行っていた。この数週間でここでの生活も慣れたものだ。しかし新しく不安の種になりそうなものがあったので、こうして魔導王とコンタクトをとることとなったのだ。それが洋子の指に気づいたらあったという蛇の指輪だ。これについて調べるために魔導王とつないだ状況下で戦闘を行っていたのだ。アンノウンの退治も済み彼からの見解を聞くことにした。


『これ自体は大したエネルギーはなさそうだ。これを持っていれば武器の能力が向上するというものでもない。逆に害もとくにはないようだ。』


「ちっ。」


「洋子、そのちはどういう意味なんだよ…。」


「選ばれた者だけが手に入れられる重要アイテムを期待してたのです。」


『それはあながち間違いでもないだろう。これはどうやら指輪を所有しているもの通しでその存在を感知できる機能があるようだ。武器を使っている間はその信号が出ているな。』


「そんなの今まであったか?」


「そういえばたまに光ったりしてたのです色と明るさはまちまちでしたけど…それですかね?」


『パターンは調べるしかないな。また、もう一つプログラムがあるようだがこれはよくわからん。奴らの武器に関連するものだろうが…まあいずれ分かるだろう。』


「わからないのか。」


『ああ。それくらいだろう。ほかに聞くことあるか?』


 魔導王は淡々と返答しもう通話を切る気でいるようだ。用がないなら当然なのだが今日はどこかすわりが悪いので、清志は何かないかと頭を悩ませる。数秒思考しはっと思いつくことに成功した。これはいけるとにんまりといたずらな笑顔を浮かべていった。


「そういやもう二週間以上たったよな?ククリの評価はどうなったんだよ?」


『ククリ?誰だそいつは?』


 やっぱりと清志は内心ガッツポーズをしたのは言うまでもない。その返答を聞きククリは驚愕の顔で硬直し、代わりに皆夫がそれに答えた。


「ここにいるひょろ長い人だよ。前にしっかり役に立てそうならエピックウェポン作ってくれるって約束だったよね?」


『…あーその貧弱男か。なるほど忘れていた。』


「わ、忘れてただか!?」


「そういえばマナの研究なり、旅行なりで魔導王全くこっちに興味なさそうだったよなー。どうなんだそれは?」


 瞳もジト目で責めるように魔導王(魔導王と通話している腕輪)を見つめた。確かに影は薄いがククリはとても役に立つ男だ。そんな彼を忘れるとは言語道断だと清志も便乗して魔導王に糾弾した。それを聞き降参したようで魔導王はわかったと面倒くさそうに言う。


『よかろう、今回は俺の失態だ。試作品だがこれをくれてやる。』


 するとククリの腕に清志たちと同じ腕輪が現れ、そこからバイザーのようなものが出てきた。


「これなんだべ?」


『頭にそれを装着しろ。』


「こうだか?」


 ククリは魔導王の言うとおりにバイザーを装着する。するとバイザーが起動し、ククリの視界は通常以上に鮮明になった。その光景に驚きククリはおーおおーと感嘆の声をあげる。


『以前洋子が持ってきた眼鏡型の魔具を参考に、分析と情報共有に特化させたものだ。これを使えばある程度相手の弱点行動傾向を予測できる。また情報は念話で全員に共有可能だ。』


「それってすごすぎませんか?相手の情報が見るだけで丸わかりってことですよね?」


『その通りだがあくまで今までの俺が戦ってきた相手の情報、傾向を入力して予測させているだけだから必ず当たるというものでもない。あくまで参考程度だと思っておけ。』


「ありがとうだよ魔導王様!」


 洋子と違いあまりすごさがわかっていない様子のククリであったが、自分用のエピックウェポンをもらえてうれしそうだ。何度も感謝の言葉とともにお辞儀をする。


『だが俺はまだお前を認めてはいない。無能と判断すればすぐに殺す。よく覚えておくことだな。』


「逆に認めればクルルとの約束通りに謝るんだよな?」


『ああ。その時は正規品を渡してやろう。』


 その言葉にククリは緊張を取り戻したようだ。しかしそんな様子の彼の方にぽんと清志が手を置き言う。


「心配すんなよ。今までだってククリはたくさんサポートしてくれたじゃねえか。今まで通りすればきっと大丈夫だよ。」


「そうそう今までしっかりごはん係と荷物運びとマナ集め係をしてくれたもんね!戦闘は何もできてない気がするけど。」


「はい!それ以外はなんか泣き叫ぶ係とかですね!」


「み、みんな…。」


 うるうると励ましてくれた仲間に感動するククリ。そんな様子を瞳は一人冷めた目で見ていた。


「…なんか後半おかしくないか?」


『…あいつら本当にあの貧弱男を好いているのか?むしろ馬鹿に…。』


「そ、そんなことないぞ!…たぶん。」


 そんなこんなでククリも武器を手に入れさらにパーティは強化されることとなった。このまま順調にいけば魔導王の要求する魔力もいずれ集まることだろうと思った瞳だったが、その時魔導王にぽつりと言われる。


『とりあえず、これからしばらくは元の世界の動向も注視しておけ。場合によってはこちら以上に危険があるかもしれんからな。』


「それってどういう…?」


『何ただの予想だ。当たらないに越したことはないが…。俺もまだ表舞台には立ちたくないからな。対処は任せる。』


 そう言い残して、魔導王は通話を切ってしまった。瞳は彼の悪い癖は詳しい説明もなしに言い逃げするところだと思った。しかしその悪い予想というのはどんなのものか瞳も何となく感づいていたのだった。


「経澤了司君…。」


 もし彼がエピックウェポンを手に入れていたら…。

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