第30話「お前の罪科を忘れるな」
マンイーター討伐のため三チームで協力することとなった清志たち、その作戦は簡単なものであり唯一の策であった。最大火力でマンイーターの装甲を吹き飛ばす。マンイーターはゲームにおいてHPの代わりにこの強力な装甲と急所が設定されている。急所を一撃でも攻撃できれば倒すことができるが、それが難しいということなのだ。目の前のマンイーターも同じ設定であれば、勝つ可能性は十分ある。
「はあああ!はい!」
洋子は率先して前方に立ちマンイーターの注意を引く。大剣から展開される盾型バリアでマンイーターの攻撃を片っ端から受けた。洋子が受けきれない攻撃は清志やほかのチームメンバーが援護した。瞳は傷ついたほかメンバーの回復を行い、ネネたちは火力の高いメンバーを集め攻撃の準備を始めた。
「マンイーターのコアは一番装甲の厚い根元から高さ一メートルほどにある。あの暁って子の準備ができたらここにいる全員で一斉に攻撃する。」
「俺とこいつは装甲が突破出来たらコアを狙ってぶっ放す。先にコアを破壊出来たやつが勝ちってわけだ。頼んだぜてめえら!」
ハジメとネネは火力メンバーたちの後方で機をうかがう。それぞれの武器をいつでも即座に使えるように気持ちを整えた。
「あっちの準備はできたみたいだな。よう…暁!、チャージはどのくらいだ?」
「あと一割ってとこです!それはいいですけどきよ…じゃなくてセイはあっちに待機してなくていいんですか?装甲を飛ばせてもコアをとられては意味ないですよ。」
「今はこっちが重要だろ。そのあとはあとで考える。」
「本ッとバカですね!」
「うっせ!」
洋子のチャージも終わり火力隊へと帰還する。その間の県政は残りのメンバーに任せ合流を果たした。清志はネネたちに再度確認する。
「合図をしたら一斉に攻撃を行う。そのあとは正々堂々早い者勝ちだ。文句ないよな?」
「わかってる。」
「こっちのセリフだ。」
ネネは自らの武器の力振動の能力によりこのドーム内であればほぼ同時に指示を伝えることができる。よって合図はネネが出すことになった。
『行くよ!5,4、3,2,1!発射!』
「リフレクタルインパクト!」
「アズール・ライヨ!」
合図とともに洋子皆夫やほかのメンバーも自らの最強技をマンイーターに向かってたたきつけた。その威力はすさまじく、合図を受け回避した誘導メンバーも衝撃波で吹き飛ばされ中には気絶するものもいた。マンイーターは巨大な叫び声をあげ爆炎の中へ消えた。あたりに煙が立ち上るが、すぐに清志たちは動いた。
「起震気相…!ってええ!?あんたアブな!?馬鹿なの!?」
ネネが攻撃を放とうとするが、清志とハジメは煙の中へ突進してしまう。このままではあたってしまうと攻撃することができなかった。その様子をハジメは笑い飛ばす。
「ビビってんじゃねえよ!だからおまえは大事なところでいつもうっかりなんだよ!」
「誰がうっかりだ誰が!」
ハジメの武器の能力はジェット。両手足にはめられた靴と手袋が武器となっていてそこから高い推進力を生み出すことができる。その出力はとても高く清志の足場の生み出すスピードでも追いつけなかった。
「一番乗りいいいい!」
高速で突撃しながらハジメはこぶしを構える。全身で加速されながらその力すべてを攻撃に転用する、単純ながら超強力な一撃だ。煙が吹き飛ばされコアを視認したハジメはこぶしを放った。
「ジェットパああああンチいいいい!」
皆夫のアズール・ライヨに匹敵するほどの衝撃を放つハジメ。しかしその攻撃はマンイーターの触手に防がれてしまった。いやもしこれが通常のマンイーターの触手であれば、そのまま初めのこぶしはそれを突き抜けコアを破壊していただろう。しかし今マンイーターは先ほどまでとは明らかに違っていた。その体から闇のような黒いオーラが噴き出し体にまとわりついている。触手はハジメにまとわりつき動きを制限し、ほかの触手についた巨大な口が彼を砕かんと向かった。
「レグルス!」
清志はハジメの元迄跳躍し彼に絡みつく触手に攻撃した。やはり切り落とせないが若干緩んだすきに彼を引き抜き投げ飛ばした。
「うおおお!…くそ。」
ジェット噴射で制止したハジメはマンイーターから離れ、悪態づいた。狂暴化しているマンイーターを見てメンバー全員が驚いている中アナウンスが流れる。
『やあやあやあ!ついに最終局面だぜ!追い詰められたマンイーターはついに秘められた力を解放した!その名もダークネスバースト!スピードも攻撃力もさっきまでの比じゃないぜ!だが弱点のコアも丸見えだ!あと一撃!あと一撃で決めちまえ!…あのほんとにこんな敵出すんすか?さすがにやばいんじゃ…あ、録音切るの忘れてた。え、これ一発どりっすか?…みんな頑張れよ!じゃあなあああああ!』
DJトルティーヤのアナウンスと激励に全員が「録音かよ!」と心の中で突っ込みを入れたのは言うまでもない。清志もコアを落とそうと接近するが複数の触手にマークされその攻撃をよけるのが精いっぱいたまらず後退した。
「なかなかやばいねえセイちゃん。どうしよっか?」
「結構きつそうだなフォラン。これ以上はさすがにきついか?」
「僕はまだ大丈夫だよ。アイちゃんが火力隊メンバーの回復で手一杯って感じ。まだ戦えるのはここにいる半分居ないかな。」
「だよなー。」
マンイーターの牽制をしながら二人は話を続けた。マンイーターもコアを守るのに必死なのか必要以上の攻撃はやってこないようだ。大技を打ったことで洋子は戦闘不能、皆夫もこれ以上の大技は発動できない。ほかチームも消耗度合いはなかなか深刻だった。
「俺はネネたちのところで使える人員の協力を頼んでくる。それまで持つか?」
「雷鳴印があるからねー。あっちも警戒してくれそうだし大丈夫だよ。」
「畜生そのデザインかっこいいな!」
清志はネネたちに合流する。そして戦闘可能メンバーの協力を要請した。
「一人当たりの触手の数を分散させてコアをいち早く破壊するってこと?」
「ああ。それが一番確実だと思う。」
「私がチャームやろうか?」
「いや、あの触手は一本でハジメのジェットパンチを相殺していた。あれが全部お前に向かったらすぐアウトだ。あんまりいい策じゃねえ。」
「そっか。」
未だ十本の触手は健在だ。あれがすべて皆夫のアズール・ライヨとほぼ同じ威力であると考えると、瞳のホーリーウォールでは防ぎきれないのは明白だ。
「わかった。私とハジメのメンバーに掛け合ってみる。ちょっと待ってて。」
ネネは清志の案を了承し、能力でほかメンバーとの連絡を取り始めた。その間に清志は洋子の様子も確認する。前回と同じく立っていられないほどに消耗している。これを毎回繰り返すのはやはり危険だろうとこの大技の使用はできるだけ控えるべきだと清志は思った。
「すみません。仕留め切れませんでした。」
「ちゃんと防御は突破したじゃねえか。及第点だよ。サンキューな。」
洋子のことを瞳に任せ、交信を終えたネネとハジメらに合流した。
「最終局面だ。頼むぜみんなあ!」
「本当に暑苦しい!さっさと行け!」
総勢八人で狂暴化したマンイーターへ最後の攻撃を始めた。ネネチーム三人、はじめチーム三人そして清志と皆夫の二人がそれぞれ分かれ、三方向からコアを目指した。それによりマンイーターは十ある触手を三つに分散しなければならなくなった。それでもなお狂暴化したマンイーターの猛攻はすさまじくハジメとナナのチームはなかなか前に進むことができない。
「おら!ぐう!」
攻撃をよけ、よけきれない攻撃は相殺するしかない。しかし相手の高い攻撃力は相殺するのも一苦労であり、ハジメでさえ顔をゆがめるものだった。
「シャウトシュート!」
空気振動を圧縮し、放つネネの得意技と仲間の援護により彼女のチームも穂を進めていた。しかしその光景を見て一瞬あっけにとられてしまった。
「なんなのよあいつら…。」
ネネの視線の先には触手の攻撃をすれすれでよけながら走る清志と皆夫の姿があった。
「なんか久しぶりの感覚だね!剣道部で試合してた時みたい。」
「その時よりスリリングだろ!遅れんなよ!」
「大丈夫だって!」
四つの触手の猛攻がまるで無意味化のようだった。触手がわざと避けているかのように彼らにその攻撃は当たることがなかった。その理由をはじめはすぐに理解する。
「足さばきが違うんだ。羽でもついてるみたいに軽いフットワーク。なんだよあいつら、本当にただのゲーマーか?並のボクサーよりうまいじゃねえか。」
剣道部時代に鍛えられた下半身とその動かし方、それが二人の圧倒的な回避能力を生み出していた。もはやネネとハジメチームは追いつけないと悟り、防御に専念を始める。清志たちはもうコアのすぐそばに来ていた。
「これで終わりだ!」
清志はコアの目の前に迫り、刀を振り上げた。
「お前の罪科を忘れるな《エクスピアション》」
そしてコアを砕く…とはならなかった。一瞬制止する清志に皆夫は彼の目の前を覗き見る。そこには黒い靄に包まれた少女が清志に刃を突き立てる姿があった。
「清ちゃん!」
皆夫はすぐにその少女に向かって刀を振った。殺さないように峰打ちを狙うが、それが少女に当たることはなかった。
「ー--!」
清志が声にならない声をあげて少女をかばったのだ。とっさに力を緩めるも清志は数メートル吹き飛び、倒れこんだ。
「なん…!?」
驚愕する皆夫。自らのすぐ横に人影があることに気づいた。近づいてきたことすらわからなかったその男は、赤い髪に神父服と口を隠すようにスカーフを身にまとった、冷たい目の男だった。
「それがお前の罪か…。」
「くっ!」
皆夫は清志の安全を第一と判断し、男に攻撃はせず彼を視認しながら清志の元迄駆け寄った。男は皆夫のにらみを気にもせずマンイーターに向き直る。自らの目の前に錫杖のようなエピックウェポンを立て言った。
「
男がそう呟くと錫杖は炎をまとい火柱のように燃え上がった。その光量に皆夫も直視できなかった。男はそれをマンイーターのコアに投擲した。
「きぃしゃああああああ!」
マンイーターは悲鳴を上げ、光の粒子へと崩壊した。
『げえええむせっとおおおおお!』
そしてトルティーヤのやかましいアナウンスが鳴り響いた。それを完全に無視し、皆夫は男に問いかける。
「君…名前は?」
「ここでは偽名が普通だろうがよ。…ならそうだな、アーマーンだ。」
アーマーンと名乗った男はそのまま皆夫たちのもとから去った。皆夫もおうことはせず、瞳を呼び清志の応急処置を頼んだ。幸い大した傷ではなくすぐに意識を取り戻した清志であったがその様子は少しおかしかった。
「きよ…じゃなくてセイ君!大丈夫か!?いったい何が…。」
「ごめん…。」
「え?」
「ごめん…ごめんな…ごめんなさい…ごめん…本当に…。」
「清志君!」
その時瞳が清志の頬を思いっきり平手打ちした。パンとなかなか痛快な音が鳴る。皆夫もあっけにとらわれあんぐりと口を開けてしまった。そして謎の謝罪の言葉を繰り返していた清志はその時やっと正気に戻った。
「瞳?」
「もう、あんまりびっくりさせないでくれよ。」
清志はあたりを見回し、再度瞳に問いかける。
「マンイーターは?」
「ごめん、乱入してきた赤い髪の人に先を越されちゃった。」
「そっか…わりぃ。」
「立てるかい?」
瞳は清志に手を差し出し、彼はその手を取って立ち上がった。落ち込んだ様子の彼に瞳は笑いかける。
「そんな落ち込むなよ!次頑張ろうぜ!」
「そうそう、まだチャンスはあるよきっと。」
「なんならよしよしして慰めてやろうか?」
いたずらな目をしてそう問いかける瞳に清志もまた笑みを返した。
「いらねえよ。そうだな。次勝てばいいんだ。いや、絶対勝つ。横取りはむかつく。」
「その意気だ!」
「だね!」
三人で次はあの男をぶっ飛ばすと約束を交わした。
ダンジョンもまたマンイーターの討伐と同時に粒子化して消滅していた。各々陽気な談笑や愚痴を話している中、休んでいた洋子は自分の右手に違和感を覚えた。見てみると、その人差し指には黄金の指輪があった。それはウロボロスのように二匹の蛇がつながっているようなデザインだ。
「なんでしょうこれ?」
「オーい!」
そう疑問に思う洋子であったが、瞳の呼ぶ声が聞こえたので考えるのはいったん保留となった。そろそろ起き上がれそうだったので三人に駆け寄ることにした洋子だった。しかしこの指輪がこれからの物語を大きく進めていくのである。
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