第29話「マンイーター」

 そんなこんなでイベント当日となった。清志たち一行もイベントに登録を済ませ今は開始時間を待っている。四ブロックに分かれそれぞれ六チームが出場する。その中で巨大アンノウンを討伐し討伐したチームの中でそのスピードを競うのだ。ちなみに今日ククリはお休みである。


「いちにーさんしー。」


「ごーろくしちはーち。」


「にーにーさんっしー。」


「ごーろくしちはーち!」


 清志ら四人はまるでスポーツ大会にでも出る前のように動的ストレッチに励んでいた。同じブロックのほかプレイヤーたちは怪訝そうな目でそれをチラチラ見ている。


「さて準備運動も終わったことだし、これで万全だね。」


「だな!絶対一万マナを手に入れるぞ!そして…くくく…。」


「そういえば結局どんな取引したのか聞いてなかったのです。なんて誘惑されたんですか?」


 洋子の言葉に清志は大きく動揺する。口笛を吹くようにごまかそうとするも三人の白い目に耐えられず縮こまりながら答えた。


「ま、…マナを使ったかっこいい必殺技をつけるって…。」


 その言葉にやっぱりかと三人は薄ら笑いを浮かべた。そして瞳が清志の肩をポンとたたいた。


「なあセイ君。やっぱり人間派手さじゃないと思うぞ。細く長くの人生が一番だとは思わないかい?」


「なんでそんなに哀れな奴を見るような目をするんだよ!?」


「そうだよセイちゃん。いくら僕たちが派手でかっこいいからって清ちゃん迄そうならなきゃいけないわけじゃないんだからさ。ぷくく…。」


「お前完全に馬鹿にしてんだろ!」


「…。」


 洋子は清志の背中をさすり首を振った。


「…。」


「なんか言えよ!」


 それから開始時刻までいじける清志であった。


『レディースエンドジェントルメン!ついにこの日がやってきたぜえええひゃっほー!第一回バトルロワイヤルだああああ!』


 DJトルティーヤは今日もやかましい。清志たちはもはやうんざりという気分なのだが、セントラルに居ついて永井ほかのプレイヤー離れたのかどうでもよさそうだ。


『ルールを再度説明するぜ!チームごと配置された扉から巨大アンノウンに向かってもらう!その道中も敵がわんさかだが頑張って倒してくれ!そして仲間と協力して巨大アンノウンを討伐だあああ!とどめを刺したチームの中で最速な奴らが優勝だ!賞金は一万マナ!これは勝つしかねえ!準備はできたか野郎ども!?』


 それぞれのチームの前に巨大な扉が出現する。その前に立ち号令を待った。


『それじゃあ行くぜ!レッツバトルロアイヤああああル!』


 扉が開くと同時にいっせいにプレイヤーたちは走り出した。


「完全な一本道、分かれ道はなくただ無数のアンノウンが待機しているって感じだ。マナがうまいな。」


「だめだ。セイちゃんにはもはやアンノウンがマナを落とすだけの宝箱にしか見えてない。」


「思考が完全にゲームになってますね。」


「とりあえず張り切りすぎてボスまでに燃え尽きないようにな。」


 迎え撃つは多種多様な植物系モンスターだった。木質の堅い外皮に包まれつつも素早い攻撃を繰り出すウッドマン、魔法を操り倒した敵も復活させるドライアド、超音波を発生させ翻弄するマンドレイクなどどれもなかなかに手ごわい。しかし相手が悪い。


「雷鳴印テンペスタス!」


 皆夫の叫びに呼応し刀の刀身に青く輝く刻印が現れる。それは雷の力を発しそれで敵を攻撃する。ウッドマンの外皮に阻まれるも雷の力がそれを焼き尽くし切り飛ばした。


「レグルス!」


 清志も負けじと足場で一直線に突進する。眼前でしめたとアンノウンは清志に攻撃しようと魔法を放つも次の瞬間には視界に清志の姿はない。


「ぴぎゃ!?」


 動揺するも時はすでに遅く背後に立った彼の一撃で首が飛ばされるのだった。そのドライアドの目に移った後はすでに清志の餌食となった残骸のみであった。


「ふー。」


 近くの敵をあら片付け一息ついた。


「皆夫なんだよその技…またかっこいいの使いやがって。」


「魔導王に相談したんだよ。燃費のいい技の使い方をさ。威力だけなら結構いい感じだよね。」


「畜生格差だ…。」


 現実に存在する不平等に心の中で血涙を流す清志だった。そんな中洋子も不満気な顔で二人に話しかける。


「結局セイとフォランだけで倒してしまってつまらないのです。」


「しょうがないだろ。お前のは燃費悪いんだから。」


「あんまり防御もいらない感じだったもんね。」


 洋子のエピックウェポン名を「エクエス(騎士)」というのだが、これの能力は「吸収と放出」相手の攻撃を防御しそのエネルギーをためることができ、それを放出することで強力な攻撃ができる。攻守ともに優れているのだが、その分体力の消費も激しいのだ。


「それでもちょっとは活躍したいのです。」


「そういうなよ。お前はいざっていう時の切り札なんだから。雑魚は俺たちに任せろよ。」


 清志はそういって洋子の頭を撫でた。今だ洋子は不満気だが少し頬を紅潮させてわかりましたよとそっぽを向いた。それを見て瞳は真顔になる。


「もしかしてセイ君ってたらし?」


「たらし?」


「あーその気あるかも。」


「なあたらしってなんだ?何を?」


「…はあ。」


「えなんでため息ついてんの!?」


 それから急いでボスのところまで向かった。ほかのチームの通った道と合流する部屋であるそこは巨大なドーム型だ。そしてその中央で先についていたプレイヤーたちがそのドームの半分を占めているであろう巨大なアンノウンと対峙している。一番乗りでなかったことにがっかりするもそれ以上に巨大アンノウンを見て清志たちは驚愕した。


「マン…イーター!」


 十の触手それぞれに巨大な口を持つその怪物は植物質であるのにエピックウェポンを持つプレイヤーたちをあっとするパワーとスピードを持っていた。それはまるで植物で作られた巨大な竜だった。マンイーター、デビファンの植物系モンスターの中でもほぼ最上位に属するボスモンスターだ。


「こんなのどうやって倒せばいいんだよ畜生おおお!」


 先についていた二つのパーティ計十一人であろうか。魔法や武器自身による多様な攻撃を浴びせているが、マンイーターにはほとんど聞いていないようだった。それも仕方がない、マンイーターは最大三十人で挑む超大型ダンジョンのボスであり、たとえ高レベルプレイヤーが最大数集まれども全滅することもあるモンスターなのだ。


「うわああああ!」


 プレイヤーの一人がツタに絡まれマンイーターに食われそうになる。清志は足場を使いレグルスでその口を攻撃した。深く切り込みはしなかったが、マンイータの口から捕まったプレイヤーを救出することに成功する。


「あ、ありがとう!」


「お前らのリーダーは誰だ?このままじゃらちが明かねえ。」


「リーダーはあっち…。」


「よし!」


 清志は二つのチームのリーダーを見つけ出し一度マンイーターの攻撃範囲から離れた。彼らの仲間にも防御に専念するように指示を出す。


 ネネという女性とハジメという男性がそれぞれのチームのリーダーだった。どちらも高校生のようで清志たちよりも大人びている。瞳が回復に向かい全員が防御に徹しているためしばらくはマンイーターにメンバーがやられることはないだろう。そのことを伝えたうえで清志は二人に協力要請を申し出る。


「マンイーターを仕留めるには火力が足りない。それを補うには協力が必要なんだ。」


「協力?これはバトルロワイヤルだぞ。そんなことできるわけねえだろ。」


「でもあんたのチームだけじゃ仕留められていないじゃない。一番最初についてたくせに。」


「…ちっ。」


 ハジメが苦言を呈するもネネに論破される。現状を打破するには少なくとも単独行動はできないのだ。それはハジメも分かっていたようでそれ以上は何も言わなかった。


「んで勝算はあんのか?」


「うちもこいつのチームも火属性はいないよ。いたらもう少し善戦してる。」


 マンイーターは植物であるため火属性に弱い。奴の堅い防御も炎で焼けばだいぶ楽に破壊できるのだ。ゲームであれば有利属性の付与された武器に切り替えるなどできるのだが、ここでは基本一人一つのエピックウェポンしか所持しておらずそれも難しい。


「うちには一人超高火力なメンバーがいる。だけどそれを使うには相手の攻撃を受けて力をためる必要があるんだ。それまでの補助と力がたまった後の一斉攻撃を頼みたい。もちろん安全を考えて遠距離限定になるけどな。」


「その一斉攻撃でとどめをさせたやつが勝者ってわけか。いいぜ乗ってやる。」


 ハジメはすぐに理解してくれたようで快く了承した。


「でもそれで本当にマンイーターを倒せるわけ?失敗したら次はないでしょ?」


「それはそうだ。倒せなかったら俺たち全員負けだろ。」


「…。」


「ビビんなよ。だめなら今回は逃げりゃいいじゃねえか。それがゲームだろ。」


 ハジメは考え込むネネの肩をポンとたたいた。ネネは不満気な顔をするがその後決心したようだ。


「…わかった。よろしくね。」


 こぶしを突き出すねね。それを見た二人も同じようにこぶしを突き出しそれが結束のあかしになったのだった。

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