第27話「研究」
「ごめんくださいナノですー。」
その日洋子は千歳の家を訪ねていた。というのも洋子は魔導王からあるお使いを命じられたのである。それは清志たちが協力してリクらパーティを打ち破った日…
「覚えてろよ!」
いち早く目を覚ましたリクはそう吐き捨てて仲間も置いて逃げ出した。後々面倒になる可能性もあったが、ほかメンバーの無力化を最優先するため取逃がすこととなってしまった。
「彼らが持っているエピックウェポンはこれで全部かな。」
「そうですね。ほかはなさそうです。」
「…当然のように服の中をまさぐるなよ。」
気絶しているサユキの体を容赦なく調べる洋子恥じらいもへったくれもなさそうだ。彼らのエピックウェポンとほかのプレイヤーから奪っただろう武器がいくつか見つかった。これをどうするかと思っていた矢先魔導王から連絡が入る。
『どうやら武器を手に入れたようだな。』
「やっぱ監視されてるんだな。」
『当然だ。』
「それでどうする?確か司会のチャラ男は…。」
『一つだけ持ち帰れ。ほかは破壊していい。あと、マナとかいう結晶もだ。』
その言葉に皆夫は質問する。
「でも能力調べて活用したほうがよさそうな気がするけどなー。戦略の幅も広がるし。」
『ふん。所詮敵の作ったゴミだ。持ち帰るのはあくまで敵情視察のため、それ以上の価値なぞない。』
「いやゴミって…。」
『明日の放課後誰か俺の元迄もってこい。なにお使いの褒美くらいやろう。』
ということで洋子は魔導王のいる千歳の家まで訪れることとなったのだ。ちなみに倒して気絶していた三人は現世に適当に捨てておいた。まあ死んだわけではないので大丈夫だろう。
「ごめんくださいナノですー。」
そう言ってインターフォンを鳴らすと、すぐにリズが出迎えてくれた。
「お、来たか。入れ入れ。」
「なんか言い方がおっさん臭いのです。」
「誰がおっさんだ!」
「貴女ですよ。」
リズと千歳が基本的に二人ですんでいるということは聞いていたが、この千歳の家というのが二人には大きすぎるなかなかの豪邸だった。ここは田舎なので大きい家はあるにはあるが、その1.5倍ほどの大きさがある気がする。千歳の親はたいそう金持ちなのだろう。しかしそれ以上に驚いたのは、魔導王だ。以前のように指輪の姿でリズの指にはまっているかと思えば、まったく違う姿だった。黒いヘルメット型の仮面とプロテクターを身につけた男が、我が物顔でソファーに腰掛け読書に耽っていたのである。
『来たか。ご苦労。』
「一体どこの仮面ライダーですか…。」
『俺はバイクは乗らん。』
話によるとこの姿は魔導王の幻術で作られたもので、触ると普通に服や肌の感触があるという。試しに触ろうとした洋子だったがさっとよけられた。その後目的の品物を渡すと彼はそれを手に取り物色した。渡したのはイルという男が持っていた温度やかすかな空気の流れなどの情報を統合し敵を探知し仲間にそれを共有する眼鏡だ。大きさ的にも手ごろで有用性が高いと清志が選んだ品だが、そちらはあまり興味がないようでそれ以上にマナに感嘆の声を上げた。
『素晴らしいなこれは。なるほど…いや…こうか。』
考え出すと独り言が多くなるようでぶつぶつと言葉を発し始める。待っているのも嫌になってきたので洋子は何がすごいのか聞いてみることにした。
「何がすごいんですか?確かそれ、エネルギーの結晶らしいですけど。」
『そうだ。しかしエネルギーの結晶化というのは基本面倒で利点が少ない。利点といえば持ち運びや保存の容易さだが、デメリットの仕事率の低下はそれに見合わない。元の形に戻すというのはやはり効率が悪いのだ。』
「なら何もいいところないじゃないですか。」
『いや、これは物質的なエネルギー燃料と違い仕事率はなかなかに高い。利用法によっては魔具を介さずに魔法を実現可能かもしれん。さらに魔具の補助としても有用性が高い、火力補助だけでなく持続的運用の補助…まあ簡単に言えばお手軽に運べる便利アイテムということだ。』
「最後一気にわかりやすくなりましたね。」
『どうやら奴らの武器には魔力をこれに変換する機構があるようだ。だとすれば敵の技術力は相当だな…いやしかし、ならばこの粗末な武器の造りは何だ?大量生産するためか…だが長期的に見れば…うむ…。』
話している途中だがまた考え込み始めてしまった。洋子は困惑するばかりであったが、リズはその様子をうれしそうに眺めていたのだった。
一時間ほどたって満足したのか飽きたのか魔導王は調べていたそれらをしまい込む。暇つぶしにリズが持ち込んだ漫画を読んでいた洋子だったが、しばらく魔導王の行動に注意を向けた。彼はキッチンに上がると冷蔵庫から材料を持ち出し包丁を使って…
「あの、リズ。」
「なんだ?」
「魔導王は何やってるんでしょうか?研究の一環の錬金術でしょうか?」
「夕食の準備だろ?あ、皿の用意しなきゃ。」
何言ってんだこいつという顔をするリズに洋子は困惑した。しばらくしてその理由が脳内で追いつく。
「いやいやいや、イメージに合わなすぎるのです!」
「なんだいきなりうるさいぞ。」
「逆になんで突っ込まないんですか!?魔法で作ったからだとか、未知の結晶の研究とかそういうのは許せますよ納得できますよ!でも料理て、魔導王が料理はなんか変なのです!」
「それは偏見だろー?別にいいじゃん魔導王が料理したって。」
「そうですけど!なんか、なんかファンタジー感があああ!」
その間、魔導王は二人の話など興味なさげにフライパンで魚を焼きあげていた。
「ただいま。」
魔導王によって作られた夕食が並び切ろうとするときに千歳は帰宅した。洋子を目にして顔をしかめるがすぐに彼女は魔導王に問いかける。
「今日のは何?」
『太刀魚の塩焼き、鮭のムニエル、ハマグリの吸い物、茶わん蒸しだな。』
「そ。…わかった。」
若干うれしそうな千歳に洋子は目を丸くした。千歳が瞳以外にあのような表情をしたのは初めて見るような気がする。
「何?」
「いえ何でもないのです。」
千歳が睨んできたが、洋子はすぐに目をそらした。
魔導王の言う褒美とはこの夕食であるようだった。持って帰るなり食べていくなり好きにしろという魔導王だったが洋子はここで食べていくことにした。
「今日は父も残業で夕食はいらないといわれてるのです。母は他界していませんので。」
「そう考えるとここ三人全員母親居ないんだな。」
「…そうね。」
リズの母親も数年前に他界している。千歳の母親の詳細は洋子も知らないが少なくとも一緒に住んではいないようだ。そんな三人にとって温かい家庭料理がこうしてふるまわれることが新鮮で非日常的なことであった。魔導王の腕もあってか、その料理たちはどれも絶品に感じる。
「太刀魚って初めて食べました。たんぱくかと思ったら全然違いますね。おいしいのです。」
「太刀魚ってあれだよな、たしか刀みたいな銀色の奴。いいよなー。」
雑談に花を咲かせる二人。そんな中千歳は魔導王に言う。
「ねえ。」
『なんだ?』
「…ありがとう。茶わん蒸し…。」
『ああ。』
「リズ、まったくわからないのですがあれどういうことです?」
「えーと、茶わん蒸し食べたいって千歳が朝…。」
「うっさい黙って!」
『食事中に騒ぐな。』
「「「ごめんなさい。」」」
怒られてしまったがその光景を見て洋子は確信した。魔導王がここにきてから自分たちは良い方向に向かっていると。千歳たちだけでなく清志もおそらく自分も。最初はあまりいい印象ではなかったのだが、それは彼のぶっきらぼうな性格のせいだと理解する。
「魔導王。」
『なんだ?』
「ごちそうさまでした。」
人を簡単に信じるなと清志に昨日言われたばかりではあるのだが、魔導王のことはもうしばらく信じてみようと思う洋子だった。
しかし、光が強まれば闇も深くなるように良いことがあればより悪いことが起きるものだ。その言葉にできない不安感が帰り道脳裏をよぎり洋子は青ざめる。予感は相当くないうちに現実になるのだが、それは月末のイベントでの出来事である。
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