第26話「防御は最強の攻撃」
リク、ラグ、イル、サユキは手慣れた様子でフォーメーションを組む。近距離型であるそれぞれ斧と棍棒を持つリクとラグが前衛、そして遠距離型であろうイルとサユキが後方。しかしこちらも戦闘を想定しているわけで清志、皆夫、洋子が前衛ククリと瞳を後衛と陣取る。洋子たちもようやく状況が理解できたようでリクたちに鋭い視線を向けた。
「手慣れてますね。これが初めてじゃない…ってことですか。」
「怖い怖い。睨まないでほしいなあ。」
口ではそう言いながらリクは全くおびえた様子もなく、背中の巨大な斧を軽々と持ち構える。
「これでも僕たちみんなの平和のために戦ってんだぜ?なんせこの世界は怪物だらけの…っておあ!?」
言葉を述べている途中に清志が間髪入れずに攻撃を始める。これには驚いたのかリクは大きくのけぞった。
「ふん!」
ラグが棍棒を振り回し清志を払いのけるがそれを軽くよけ彼は笑った。
「詭弁はいいっての。結局楽してアイテムが欲しいってのがPKプレイヤーの本性じゃねえか。」
「え、駄目これ?やっぱ俺詐欺師向いてないかなあ?」
そう笑うリクの背後がかすんでゆく。清志は一度後方に下がろうとするがそのかすみはすぐに清志たちを取り囲んだ。これは霧だ。発生源は後方の女、サユキからだ。
「みんな口を何かでおおえ!極力霧を吸うなよ!」
「えええ?そんないきなり言われても!?」
「うちの学校ハンカチは必需品じゃないですか。それで何とかしてください。」
「あ、なるほど。ついでにホーリーウォール!」
固まった五人は瞳のホーリーウォールの中に隠れる。あたりは完全に濃い霧に包まれあたりは見えない。
「まったく外が見えないだよ。おらこんな霧初めてだ。」
「これもエピックウェポンの能力だよね?どうしよっかこれじゃあ敵も味方も相手の位置がわからない。」
「いいやさすがにこれをわざわざ使ったってことは…。」
ガキン!硬い音が光の壁に響く。棍棒の投擲だ。それ以降断続的に攻防とそれ以外に何か大量の攻撃が壁に降り注いだ。
「いたたたた!?何これ滅茶苦茶攻撃されてる!?」
「それ痛いんですか?」
「いや痛くないけど、気分的に耐久値が削れるとそんな気分なんだぜ!っていうかめちゃ怖いんだぜ!ひゃああ!」
「
これだけの攻撃の雨を受ければ瞳も取り乱すのは仕方がないだろう。このまま攻撃を受け続ければ壁を破壊され、ハチの巣にされかねない。
「清志、相手は全く霧に対して無警戒でした。おそらくこれは毒ではなく視界妨害の役割だと思います。そして私たちへ攻撃できる理由は…。」
「情報系の能力持ちがいるってことだろ?あのイルってやつだと思いたいけど、ブラフか?どっちにしろ現状のままじゃじり貧か。」
「僕のサイクロンスラッシュなら一時的に霧を払えるかもしれないけど、この攻撃の雨じゃ打つ前にやられちゃうかも…。」
「そうだな。脱出するしかない。洋子、ホーリーウォール解除後瞳たちを守れそうか?」
すると洋子は大剣を構え笑う。
「暁ですよ清志。ここではそういうって約束じゃないでしたか?」
「お前もセイって呼べよ。」
その答えに満足し、清志は四人に作戦を伝えた。
そのころ攻撃を続けていたリクであったが、かつてない不安感を覚えていた。あまりに相手が倒れるのが遅い。いやまるで全くダメージを受けていないようだった。
「こっちからはぼんやりとしか見えないけど、あのアイちゃんって子が防御系だったわけね。これは長い戦いになりそうだ。」
「あんた大丈夫なの?魔力が切れたら今度は私たちがやられるじゃない。」
「その時はサユキが逃がしてくれるだろ?信頼してるからね。」
「はっどうだか。」
今までの相手はこの戦術で五分と立たず倒すことができた。視界を奪い一歩的に攻撃を仕掛け相手を蹂躙する。特に冒険を始めた手の防御力が低いプレイヤーなら一分かからなかった。しかし今回は相手の防御力が圧倒的に高い。
「ここに来るまでにいろいろ戦ってきたってわけか。やっぱこのPK作戦も色々変えなきゃあな。」
セントラルにやってきたばかりの新人を誘い込み狩るというのは最も安全な戦い方であった。しかしセントラルにおいて新人でも外で強化済みの相手はこう苦戦する場合があるというのなら作戦の方針転換もやむ無しだろう。しかし今回はもうそろそろ何とかなりそうだ。彼らを守っていた壁がゆがみ消滅しかけている。
「もう一押しだ。頼むぜラグ。」
「おう!ジャイアントスイングうううう!」
ラグの渾身の一撃が飛ぶ。そして壁が消滅し直撃した。リクもそれに遅れて攻撃する。完全に決まったと確信したのだが、一瞬の油断はその声にかき消された。
「やばい!逃げろ!」
イルが叫ぶ。え?と声を漏らしたときそれはやってきた。
「サイクロンスラッシュ!」
天井から現れた暴風が霧を巻き込みチラシながら迫ってきた。リクはとっさにエピックウェポンを起動する。おのが地面にたたきつけられると地面が盛り上がり壁となり暴風をガードする。
「地面操作が能力か。シンプルだけど確かに強そうだな。」
「かはっ。」
気づいたときには遅かった。リクの後方にいたサユキとイルが首を攻撃され倒れこむ。完全に沈黙すると、霧が晴れた。
「使用者がやられると武器の力も止まるのかいいこと知ったわ。」
「むん!」
ラグが棍棒を投擲する。リクたちの中で最高の攻撃力を持つ彼の投擲攻撃だが、それもあっけなく防がれることになる。
「アズール・ライヨ!」
青い雷鳴が最強の攻撃を弾き飛ばしたのだ。青の少年は少し残念そうに言う。
「自信なくすなあ。サイクロンスラッシュじゃダメージなかったし。アズール・ライヨでも武器破壊できないんだもん。」
「そう簡単に出来たら戦い成立しないだろ?っていうか自信なくしそうなのはおれだよ。なんで見えないはずの俺の足場当然のようにわたってくるんだよ?あれか?天才かこの野郎。」
足場だと?リクは困惑した。気づいたら後方に瞬間移動されていたかのようだ。なんなんだあの金髪の能力は?しかしそれ以上に前方の存在感にぞっとする。攻撃を、リクとラグの攻撃の雨を当てたはずの前方で巨大な剣を構える少女がいた。その後ろには無傷の仲間たちがいる。防いだのだ。あの光の壁もなしに防ぎ切った。防御特化の仲間がもう一人いた?いやあの武器の存在感はそうは見えない。
「さてリクさん。あなたたちがPKをやろうと別に構いませんよ。ルール上それも問題ないようですし、あなたたちにとってはただのゲームなんですから。…でも相手が悪かったですね。」
やばいと感じたリクは地面の壁を創り出す。ありったけの魔力を使いラグと自分を覆い隠した。たとえ先ほどの青の雷鳴がとどろこうと受けきれる自信がある。しかしそれの前ではちり芥だった。
「お仕置きです。リフレクタルインパクト!」
衝撃が壁もリクたちも弾き飛ばす。衝撃に遅れてやってきた音を聞きながらリクたちの意識は完全に消失したのだった。
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