第25話「セントラルシティ・オブ・クレイジー・ノイジー」
その朝洋子はいつものように父親である鈴堂白夜と朝食をとっていた。デスソースの山盛りになったポテトサラダを何食わぬ顔で食べる白夜はテレビを見ながら聞いた。
「最近はどうだー?変なことしてねえだろうなー?」
「変なことって何ですか?私は昔から優等生ですよ。」
「何馬鹿なこと言ってんだー。昔っからゴタガキだったろうが。」
昔の事故で少しマヒがあるため白夜は語尾が伸びやすい。しかしそんな話し方も洋子には慣れたものだった。唐辛子たっぷりの味噌汁を飲み、洋子はそんな馬鹿なと笑う。
「清志はどうだー?あんにゃろうまた何か悪さしてるみたいだなあ。」
「清志は最近楽しそうですよ。友達もたくさんできましたしね。」
「そうか~。」
こういうことを聞いてくるときは大抵何か思い当たることがあるのだろうと洋子は知っていた。良い事か悪い事かわからないといったところか。そう清志は最近楽しそうだ。ゲームをしているときと同じくらいこの世界にワクワクしている。あの時のことを一時忘れさせてくれるくらい。それは洋子にとって喜ばしい事だった。
「最近物騒だしな―気をつけろよ。」
「わかったのです。ちゃんと監視しておきますよ。」
「おめえもだおめえーも。」
それに笑って洋子は流す。そして今日の夕飯はカレーにすることと、清志も誘ってやろうと思ったのだった。
今日は魔導王から洋子のエピックウェポンが支給された。変身した彼女の姿はアーマードレスを着た黒騎士といったような姿で幼さが残るがなかなか見栄えのするものだった。そして四人そろったということで清志たちは前々から考えていたプランに移行することにした。ククリと合流すると清志はそのプランを彼に話す。
「今日は前に言ってた中央に行こうと思うんだけどどうだ?」
「中央だか?おらは別にいいけんど…。」
中央というのはククリたちに聞いた話なのだ。クレイジー・ノイジー・シティに変化したこの世界はなかなか広いのだが、その中でも清志たちがいる場所は末端であるという。ククリたち森人族の多くはその中央で出店をすることでプレイヤーたちを支援する契約をしたらしい。その契約者の姿はよくわからなかったらしいが、割の良い契約だったため多くの森人が賛成したという。今まで清志たちがほかのプレイヤーに遭遇しなかったのはその中央とはだいぶ離れた場所に滞在していたためと考えられる。今までは戦力的に不安がありそちらに向かうのはためらわれていたが、もう大丈夫だろうと判断したのだ。
『移動する機器はないのだから時間内に戻れるように考えろ。』
と魔導王はそれを了承した。どのくらいの距離があるかはわからないが、清志たちの変身時の身体能力ならばあまり問題にならないと思いたい。ククリも賛成したので彼の案内の元中央へ向かうこととなった。
なかなか大変な道のりだったがそれは省略する。清志の足場を活用することでおよそ十五分ほどでそこにつくことができた。都会的な街並みの中でも特にぎらぎらとしたその場所はセントラルシティと書かれていた。そんな中少し古めかしい出店が立ち並びそこにククリによく似た者たちが店を開いていた。
『ヘイ!みんな元気してるかハウアーユ―!今日も元気に狩りまくろうぜ!今日のモンスター予報は―!なんと樹木系モンスターが多いでしょう!レッツデビファンだぜ!』
モニターではやはりあのチャラ男DJトルティーヤが騒がしかったが無視した。清志たちは興味深そうに街を見渡す。
「ククリはここ来たことあるんですか?」
「ひい…ひい…んだ。商品おろしにここまで何度か来ただヨ。でもこんな早く着くもんじゃないだ…ひいひい。」
ククリは皆夫が担いで走ったのだが、叫び声がとんでもなかった。彼が回復したのち五人はあたりを散策し始めたのだった。
街にはなかなか多くのプレイヤーがいるようだった。セントラルシティといえど東京のように広いわけでもないその町とはいえ道行く道で人がいる程度には人口があるのだ。比較的年齢が高いものたちが多く、その姿はまさにRPGの世界のようだった。何気ない雑談をしたり店を物色したりと殺伐とした雰囲気は感じない。
「あれ?君たち見ない顔だね。新入りかな?」
そんな中、清志たちに話しかけてくる男がいた。中背でかすかに丸く人当たりのよさそうな茶髪の男だった。その背中には巨大な斧を持っているものだから簡単に油断はできなかったが。
「はい。こっちに来たのは初めてなんですよ。」
「そうなのか。あごめん。名乗ってなかったね。僕の名前は「リク」。プレイヤーネームね。よろしく。」
「どうも。僕は「フォラン」って言います。リクさんはここにきて長いんですか?」
リクと名乗った男と皆夫は会話を始める。しっかりと偽名を使うあたり抜け目がないと清志は感心した。彼の話からここについていろいろ聞くことができた。プレイヤーの主な活動拠点であるセントラルシティでは店でアイテムを交換したり、クエストを受けることができるということ。アイテムを交換するにはマナと呼ばれるアンノウンのエネルギーから作られる宝石型の通貨が必要だという。アンノウンを倒して得たエネルギーをマナに変換したり、クエストを達成することでマナを入手できるという。よってプレイヤーたちは日々クエストをこなし装備を拡充している。またセントラルシティ内では戦闘が禁止されていて、それを破るとペナルティーが課せられるらしい。その内容は不明であるが、ゆえに抑止力足りえているのだろう。
「そんな感じだからここはいたって平和だよ。でも外は野盗みたいな人がいるから一人だと危ないかな。だから僕たちはパーティを組んでクエストに挑んでるんだ。」
「パーティですか!?本当にファンタジーみたいですね!」
「もしよかったらこれからクエストに行かないかい?僕のパーティメンバーも紹介するよ。」
「だってさ、どうする清…じゃなくてセイちゃん。」
「いいんじゃねえの?俺もクエスト行ってみたいし。」
「よーしなら私も付き合うぞ!」
そうして清志たちはリクに連れられギルドに向かった。このギルドもなかなかファンタジーのような中世的な活気のある場所で清志たちはその景色を堪能する。リクは全四人のパーティであるらしく。皆陽気に清志たちを歓迎していた。リク以外の名前はラグという大柄の男とイルという細身の男、そしてサユキという少々あだるてぃっくな女だ。リクにギルドでのクエスト受注方法を習い、セントラルからほど近い場所に出没するゴブリン退治を引き受けることとなった。
「じゃあ張り切っていこうか!」
総勢九人という大人数でこのようにクエストに向かうことなどそうないので周りからの視線も少し緊張感があるものだった。しかしリクたちの陽気さに洋子や瞳はすっかり安心しているようだった。
「いやー町で最初にあったのがリクさんでよかったな!清…。」
「セイな。確かによかったと思う。」
清志がそのように答えるのが意外だったらしく瞳は目を丸くする。
「なーんか最近君素直じゃない?変なもの食べた?」
「俺は昔から素直だっつーの。それによかったってのはあくまで教訓が得られたってことだよ。」
「教訓?」
その瞬間清志は瞳の服を引っ張り体を抱き寄せる。「へっ!?」と間抜けな声を出す瞳だったが、瞬間何が起こったかわかったらしい。
キン!
清志は流れるように刀を鞘から抜き瞳に迫った棍棒をガードした。それを放ったのはラグという大柄の男。棍棒はブーメランのようにラグの右手に戻る。そしてラグは恨めしそうに舌打ちした。
「えっ!どうしたんですか!?」
「ほら暁ちゃんこっちに戻った戻ったリクさんたちにから距離とって。」
未だ状況が呑み込めていない洋子を見守っていた皆夫が彼女にそう促し、清志たちは一点に集まった。
「マジか。最初に回復役つぶすのは鉄則だってのに差。何ばれてんだよラグ。」
リクが恨めしそうにしかし軽い調子でラグに文句を言う。
「るっせえな。次は当てりゃいいだろうがよ。」
「あんたおおざっぱすぎんのよ。リクも演技が下手だから警戒されたんじゃあないの?」
「僕のせい?マジかよ完全に騙せてたと思ったんだけどな。やっぱり急ぎすぎた?もっとじっくり信頼を勝ち取る方が効率いい?」
「まあいいわ。ひよっこ狩るのなんてここまで来れれば十分じゃなあい?」
「何…言ってるんですか?」
未だ状況を呑み込めていない洋子に清志は武器を構えるように促す。そして少し楽しそうに言った。
「つまりPK(プレイヤーキラー)ってことだろ。危ない野盗ってのはこいつらってわけだ。」
その言葉にリクも笑った。
「さあ一狩り行こうぜ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます