第24話「情報整理」

 その日清志が帰宅するとリビングに明かりがついていた。食事用のテーブルの一角に背の高い男が座っている。何本かビールの空き缶が転がっているところを見るにすでに数十分の時間そこで過ごしているのだろう。清志は男に声をかける。


「親父。帰ってたのか。」


「ああ。」


 その男は清志の父親だった。しかしリビングに飾られていた家族写真の彼とは似ても似つかず、やせこけ弱弱しい印象がある。父親は清志に問いかけた。


「夕食は?」


「食ってきた。」


「そうか。」


「…。」


「学校は?」


「いつも通りだよ。」


「そうか。」


「あんまり飲みすぎんなよ。」


「…ああ。」


 親子の会話というにはあまりにぎこちない、しかし清志も父親ももはやこれが普通のことであった。また缶ビールをあおる父親を一瞥すると清志は二階へと上がっていった。



 次の日、清志たちはいつものようにホームルーム前まで雑談をしていた。そんな時清志は一つ教室の違和感を感じた。


「なあ皆夫、うちのクラスって30人だよな?」


「そうだけどそれがどうかした?」


「いやほら後ろ。机が一つ余分にあるからさ。」


 確かに教室の一番後ろにポツンと一つ机が置いてある。数えてみてもこの教室の生徒机は31。一つ余分なのだ。


「おい誰だよ俺の机此処に置いたやつ!?ったくご丁寧に空いた机持ってきやがって。」


 するとクラスメイトの一人が自らの机の位置を戻し始める。その光景を見て回りで笑いが起きた。どうやらただのいたずらだったらしい。


「大したことじゃなかったわ。」


「平和が一番だよねー。」


 原因がはっきりしてすっきりした二人はまた雑談を始めた。


 その日の放課後、清志たちは例の公園に集まった。今日は洋子を含めた四人が集まり、ほかは帰宅した。


「今日もいくんですか?魔導王があっちに行くのは週二回でいいって言ってましたよ?。」


「なかなかホワイトだよねー。」


「まあだから今回はアンノウンを倒しにくんじゃなくて、情報整理したいんだよ。」


「情報整理ですか?」


 味方の能力の把握は戦略を立てていくためにとても重要だ。何ができて何ができないのか、どのようなことが得意で苦手は何なのか。魔導王からエピックウェポンを渡されてまだ数日、わかっていないことが多いのだ。


「実は昨日なんだが、ダンジョンを攻略した直後に襲われてさ…。」


 話は昨日のことにさかのぼる。清志たちがダンジョンのボスを撃破し安どの息を創間に、ほかのプレイヤーと思われる人間からの襲撃を受けた。その男たちは二人組で、一人は赤く光る銃らしきものを所持していた。その男の放った炎の銃弾は瞬時に気づいた清志が瞳を抱きかかえたままよけることができたが、足をかすめることとなった。


「いっつ!」


「清志君!」


 足から血は出ない。銃弾の炎で焼かれたためだろう。清志の額から冷や汗が流れる。消耗していたとはいえ、ただの一撃で清志のシールドを貫通する威力、あれで急所を打たれれば致命傷になりえることは自明だった。


「あーらら避けられちった。お宅どんな目してんの?」


 拳銃の男は軽薄そうに銃をもてあそぶ。その余裕はいつでも清志たちを始末できるという自信からかと思えた。


「アズール・ライ…あれ?」


 二人に向かって必殺技を放とうとした皆夫だが、発動させる前にふらつきひざを折る。力が入らなかったのだ。


「オー怖い怖い。」


「てめえ何者だ?」


「ア僕?僕はねー、ただの傭兵だよ。雇われてねー。お金のために頑張ってここまで来たわけよ。」


 清志は男をにらみつける。次におかしな行動をとれば、たとえ体を撃ち抜かれようとあの男の首を切ると刀に手を添える。


「団。目的は達成しました。撤退しましょう。」


「!?」


 清志が気づいたとき、銃の男じゃないもう一人の黒フードの女が何かを抱えていた。それは、先ほど清志たちが倒したボスの玉座に合った宝箱らしきものだった。いつの間にそれをとったのか彼に認識できなかったのだ。


「ア本当?じゃあもう帰っていいのね。ごめんねー。その傷、なめときゃ治るからさー。勘弁してねー。」


 そう言って二人はダンジョンの入口へ走って帰っていった。追うべきかとも考えたが、そのリスクのほうが大きいと判断しひとまずは無事を喜ぶことにしたのだった。



「そんなことが…。」


「これからああいうほかのエピックウェポン持ちが現れて戦う可能性がある。そのためにも情報整理は必要だと思ってる。」


「僕も自分の体力管理ができていれば、あそこでもうちょっといい対応ができたかもしれないもんね。」


「よし、じゃあ行くか。洋子はどうする?」


「どうせですからついていくのです。なんせメンバーの指揮はリーダーの務めですからね。」


「いつからリーダーになったんだよ?まあいいや行くぞ!」


 四人は異界に行き、情報整理という名の実験を行った。それによって分かったことは以下の通りである。


桑田清志

能力「足場」

いかなる場所にも不可視の足場を創り出すことができる。足場には弾性があり、強く踏み込むことでより威力の高い攻撃が可能になる。足場の持続時間は短い。燃費は良いようで空中を歩くだけなら三十分は可能だろう。


山南皆夫

能力「嵐」

風と雷を操ることが可能。刀にまとわせて攻撃力を上げたり、放出して遠距離迄攻撃できる。必殺技の「アズール・ライヨ」は高威力広範囲であるものの燃費が悪く、二発が限界である。次に高威力な「サイクロンスラッシュ」は5発といったところだろう。慣れていくにつれ使用回数も上がりそうだが、より燃費のいい扱い方が求められるだろう。


八神瞳

能力「聖女」

強力な光の壁を創ったり、仲間を回復させることができる。「ホーリーウォール」はより小さく密度を上げることで耐久値を上げることが可能。最高で皆夫のアズール・ライヨを三発受けられるだろうと予想される。回復は傷や清志たちのシールドを直すことができるが、体力はあまり効果がなさそうである。どこまでの傷がいやせるかは現在不明。また「魅了」の能力も希望したらしく、これにあてられると相手に恋心に近い心情が現れ交渉などが有利にできる可能性がある。清志にかけたとき、一瞬で顔を赤くしたところから効き目は高いようだ。アンノウンたちに対しては攻撃対象を変えることに利用できそうだ。


「って感じかなー。三人だとちょっとバランス悪いかもね。」


「確かに皆夫は近中距離、俺は近距離、瞳は遠距離支援となると近距離防御が足りないかもしれないな。」


 清志と皆夫は攻撃に特化している印象がある。瞳を前に出すのは危険であることからも、動ける防御役が必要だと考えたのだ。最悪瞳のデコイに任せるにしても、その後の回復がおろそかになるのは痛い。


「大丈夫ですよ。そこは私がいるのです。」


「そういえば、洋子の能力って何なんだ?」


「ふふふ、それはできてからのお楽しみですよ。」


 不敵に笑う洋子。どうやら彼女の能力は今の清志たちパーティの欠点を埋める可能性があるらしい。知りたいことは知れたので、今日は戻ることにした。


「あ、そうでした。みんなのエピックウェポンの名前を考えておいたのです。」


「名前?」


「はい!使ってもらえると嬉しいのですが…。」


「へえどんなの?」


「それはですね…。」


 そして洋子によって清志たちのエピックウェポンに名前が付けらることとなった。


「皆夫の刀は嵐がモチーフなのでラテン語で嵐を意味する「テンペスタス」です。」


「おおかっこいー。」


「瞳の力はまさに天の恵みですから、天使を意味する「アンゲルス」」


「いいなそれ。」


「そして清志は見た目がライオンっぽいのでしし座の一等星からとって「レグルス」でどうでしょうか?」


「ちょっと待て俺だけ適当じゃね?」


「いいじゃんかっこいいよレグルス。」


「私もそう思うぞ。」


「いや俺もかっこいいと思うけど、…まあいいや。じゃあ使わせてもらう。」


「はい!…まあレグルスにも意味はあるんですけどね…。」


「なんか言ったか?」


「何でもないですよ。帰りましょうナノです!」


 大きな収穫を得た清志たち、しかし進展があったのは彼らだけではなかったのだがそれはまたの話だ。

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