第22話「トランプ兵のやかた」

 ダンジョンの中は西洋的な館の中のような場所だった。しかし外観からは想像もできない高い天井と巨大な回廊はやはり非現実的で不気味なものだった。その中にはびこるアンノウンたちはトランプカードに手足の生えたようなトランプ兵の姿をしている。カードの種類によって剣やなぎなたなど異なる武器を所持して清志たちに襲い掛かる。


「はあ!」


「やあ!」


 清志と皆夫が撃退しながら奥へと進んだ。その間、魔導王は索敵をしながらダンジョン内の地図を作成していた。


『前方十メートル右の扉に敵3武器剣だ。ひきつけてから撃退しろ。』


「わかった!」


 瞳は二人の後方からダメージを受けるたびに回復を使っている。彼女の杖の能力は防壁と回復。回復を使うことで清志たちの体力が戻るのだ。しかし瞳自身の精神力や体力は消費されるので使いどころが問題である。今のところ余裕のある彼女は惑う王に尋ねる。


「魔導王はどのくらいの距離なら索敵できるんだ?」


『半径二十メートルほどだ。しかし過信するな。例外はいつでもある。』


 それからしばらくして


『二十メートル前方に敵40武器剣10弓20縦10だ。』


「はあ!?いきなりきすぎだろ!?」


『防壁展開攻撃に備えろ。』


「はいよ!ホーリーウォール!」


 清志たちが下がったと同時に瞳が障壁を展開した。トランプ弓兵たちの一斉射撃を受ける。


「あれこれすっごい疲れる!?」


『でかすぎだ。無駄に体力をすり減らすだけだぞ?』


「初めてだから大目に見てくれよー。」


「ナイスだよ瞳ちゃん!ちょっと大きいの出すね!」


 そして皆夫は防壁が消えた瞬間に刀を振った。


「サイクロンスラッシュ!」


 斬撃は小型の竜巻になりトランプ兵たちを巻き込むように立ち上った。そして内部で切り裂かれたトランプ兵たちはあっという間に消滅した。


「おお!」


「やったね!」


 トランプ兵たちがいた奥は大きな扉で隔てられていた。デビファンのダンジョンではおなじみのボスのいる部屋である。一度休憩をはさみそこに向かうことにした。ククリが持ってきてくれた弁当を四人でつつく。


「森人族の伝統料理のキノコおむすびだ。たくさん作ったからあわてず食べてくんロ。」


『ほう、やはりこの世界は近いだけあって食材も元の世界と似通っているな。』


「もぐもぐ…うまっ!」


「おいしいよククリさん!お肉を使ってないのにすごく満足感がある!」


『マイタケのみそ和え…ごま油で炒ってあるか?それ以外にも何か香ばしさを出す要因が…。』


 みんながククリのおにぎりで舌鼓を打つ中ぶつぶつ何か言っている魔導王に清志は尋ねる。


「なあ魔導王。本当に俺の刀ってなん能力もないのか?皆夫たちとの格差をすでに滅茶苦茶感じてるんだが。」


「ん?あああるぞ。ないわけがあるまい。」


「そっかやっぱな…マジで?」


「ああ。」


「なんだよあるんじゃねえかよ!」


 興奮する清志を横目に皆夫と瞳はひそひそ話始める。


「なあなんで清志君あんなに怒ってるんだ?」


「どちらかっていうと喜んでるんじゃないかな?ほら僕たちは好きな能力つけてもらえたけど清ちゃん違うから。」


「あーそういえばさっきの皆夫の技を見たときもうらやましそうに見てたもんな。もはや嫉妬の域だった気がするぞ。」


「清ちゃんも男の子だから強くてかっこいい能力位ほしいんだよ大目に見てあげよう。」


 どこからか生暖かい視線を感じつつも清志は魔導王にその能力について尋ねた。


『はあ、まあいいなら一度試してみろ。ほれ立て。』


 清志はわくわくした気持ちで立ち上がる。期待に満ちたその表情を見て瞳たちは何とも言えないほほえましい気持ちになった。


『いいかまずジャンプしろ。ジャンプしたら空中をけるのだ。まずはやさしめにやってみろ。』


「空中をジャンプしてけるんだな!?よし!」


 清志は魔導王の言うとおりにジャンプして空中をけった。


「あれ?」


 するとまるで何かにぶつかったようにけった足がはじかれる。


「なんだこれ?」


 両足でジャンプして空中をけってみる。すると清志の体が宙に浮いた。いや清志の感覚からするとそこには見えない地面があった。しばらく乗っているとそれは消滅して元の地面に着地した。


「何これ?」


 知能が下がったかのように尋ねる清志。それに魔導王は少々自慢げに話し始める。


『見ての通りだ。どんな場所にも足場を創るそれがお前にやった刀の能力だ。』


「これ能力?」


『そうだいうなればアンリミテッド足場…。』


「ってバカじゃねえのばっかじゃねえの!?」


 ついに清志の怒りが爆発する。


『何が不満だというのだこれほど便利な能力そうそうあるまいに。』


「地味すぎるだろ!皆夫は雷撃飛ばしたり竜巻出すし、瞳は光の壁とかオーラとか出すのに俺だけ見えない足場って!どう考えてもファンタジーじゃない!納得いかねえ!」


『本来目的を達成するためにそんな特殊効果必要ないだろうが。文句を言う前に与えられた能力を生かし切ってみればどうだ?俺の武器の性能の一割も出せてない分際で文句を言うな愚か者。』


「ぐぬぬぬ…。」


 言い返せないでいる清志の肩を皆夫はポンとたたいた。


「たとえ清ちゃんが初期キャラでも、僕たちちゃんと友達だよ。」


「この野郎…ここぞとばかりに!畜生うらやましい!うらやましいんだよおおお!」


「あっはっは今日は素直だなあ清ちゃん。」


 からかう皆夫と半泣きの清志を見て瞳は魔導王に耳打ちする。


「なんか可哀想だし特殊効果位つけてあげれば?」


『ふん、地味だろうが何だろうがあれは俺が作った中でも良い出来なのだ。なぜ文句を言われる筋合いがある?取り上げてやろうか痴れ者め。』


「なんだ拗ねてるのか?」


『馬鹿を言うな。』


「…ったく男の子ってやつは困ったものだな。」


 瞳とククリは清志が落ち着くまでお茶でのんびり過ごすことにしたのだった。

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