第21話「ダンジョン」
清志、皆夫、瞳の三人は今日も異界の入り口である公園に集まった。洋子は部活である。今日は魔導王から瞳のエピックウェポンが渡される日だ。
「これが私の武器か。」
『ああ。要望通り作ったが…どうなっても知らんぞ?』
「大丈夫さだって。ありがとうな!」
瞳のエピックウェポンは杖だ。古木を削って作られたような重厚感あふれる見た目だがとても軽く、太く丸い杖の先に虹色に輝く宝石がはめ込まれている。シンプルに見えながらもとても豪華な造りだ。瞳は杖を高く掲げ振った。
「変身!」
エピックウェポンを起動させる。楕円型の奇妙な帽子までゲームアバターそのままの姿に変身した。
「どうだい二人とも!?かわいいだろ?」
「うん!本当にゲームの世界から出てきたみたいだよ!」
「そうだろうそうだろう!?なあなあ清志君はどう思う?」
「んああかわいいんじゃねえの?似合ってるしさ。」
その時瞳は凍り付くように固まった。
「なんだよ?」
「…清志君なんかおかしいぞ?変なもの食べたか?」
「食べてねえよ!?」
「確かに清ちゃんらしくないかもね。いつもならもっと…。」
「もっとってなんだよもっとって!?」
「まったく、これからまた探索だっていうのに心配だなー!」
そう言って瞳は清志に背を向けた。
「だから食べてねえっつの!ったくせっかく真面目に答えたってのに…。」
清志は文句をたれそれを皆夫が笑って言うるが、魔導王だけが瞳が顔を赤くしてにやけた口をマッサージしていることに気づいていたのだった。
そして三人は今日もクレイジ―・ノイジ―・シティへ入った。三人が向かうのはククリの住んでいる村だ。そこが清志たちの拠点となっている。近未来的な建築物の並ぶ街の中、ある建物のエレベーターに入り決まった順番に数字を押す。するとエレベーターのドアが開きククリたちの村がある。
「お、来ただね。こっち!こっちだよ!」
街の雰囲気とは全く別の原始的な森と村がそこにはあった。美しく細身なエルフたちが狩猟し耕作しここで暮らしている。出迎えてくれたポニーテールと引き締まった体が印象的な女性はクルル。ククリの姉である。
「こんにちわ。ククリはいるか?」
「すぐ呼んでくるだよ。いつもここまで来てもらって悪いね。」
「いつもって言ったってまだ三日目ですよ。」
そして姉に呼ばれたククリがやってきた。以前と違い木製の鎧を着こんだ彼は少し緊張した様子だ。
「今日もよろしくお願いしますだ!」
「よろしくな!」
「あれそっちの子はあいちゃんだか?素顔もかわいいだね。」
「ありがとう。そっちのククリには好みじゃないって言われたけどな。」
「この愚弟は本当に美的感覚がおかしいだよ。ごめんねエ。」
『ほう。ここがエルフの村か。』
魔導王はここを始めてみたので感嘆の声を上げた。彼もあまりこちらに来ることはなかったらしくこうした村や住人がいることも知らなかったという。そんな魔導王に清志たちはククリたちを紹介した。
「こっちの男がククリ。そしてこっちがその姉のクルル。この世界を探索するにあたって少し助力してもらってるんだ。」
以前ククリを村に送り返した際からの付き合いである。村の住人もこの世界の現状は理解しているらしく、ククリを助けたお礼にと援助をしてくれることになったのだ。
「助力って言っても大したことはできないだけんどね。」
『そうか。まあすきにすればいい。』
「この声の人が魔導王さんだべか?これからよろしくお願いするべ。」
『…それでなぜその貧弱そうな男は武装しているのだ?』
「ああそれ?ククリがダンジョン探索に同行したいっていうからさ。」
「んだ。おら強くなってかわいい女の子にもてたいだ。」
ククリは自分の弱さを認識したらしく強くなるために清志たちに冒険の動向を願い出たのだ。動機は不純であるがその心意気に感銘を受けた一行はそれを快諾した。
『下らん。』
しかし魔導王はそんなククリの決意を唾を吐くようにそう断じた。
「おい魔導王。たしかに動機はおかしいかもしれないけどさ…。』
『そんな装備でアンノウンが倒せるわけがなかろう。足手まといなぞ連れていく余裕がお前たちにあるのか?』
「そこはお前が作ればいいだろ?」
『魔力の無駄だ。』
冷たいその言葉にククリは言いよどむ。清志もその態度に怒りは沸いたが、同じくらい魔導王の能力頼みであった自分を恥じ何も言えなかった。しかしクルルは違った。
「魔導王さん。お願いだ同行させてくんろ。もし役に立たなくて死んだらそれで構わないだ。」
『なんだと?』
「だけんどもしちゃんとククリが役に立つって思ったなら、その言葉謝罪してほしいだ。」
「姉ちゃん…。」
クルルは真剣なまなざしで魔導王にそう告げた。
『しかしその男のせいでわが手ごまに支障があればどう責任を取るというのだ?お前にそれを担保できると?』
「そんときはおらがなんだってやるだ。」
その言葉に魔導王はほうと少し気味悪く笑った。
『よかろう。その男が使えると判断すれば、謝罪ののちその男の武器を創ろうではないか。しかしもし足手まといならば、お前のすべてをもらうぞ?』
「望むところだよ。おらはククリを信じるべ。」
『期限は二週間だ。せいぜい頑張るんだな。』
それから清志たちは村を出た。瞳は再度クルルに魔導王との契約をしてしまって本当にいいのか再三聞いたが彼女の意志は固いようだった。清志は内心複雑だった。自分の安易な選択がこのような事態を招いてしまった気がしたのだ。
「今ならまだ見逃してくれるかもしれねえぞ?本当に行くのか?」
「いんや姉ちゃんが信じてくれただ。おらも逃げるわけにはいかねえべ。」
清志の心を覆っていた不安はその言葉で幾分晴れた気買いした。そう清志が彼を連れていきたいと思ったのはその純真さ故なのだ。臆病で弱いこの男が夢のために進もうとするまっすぐな心に報いたいと思ったからだ。
「そっか。なら気合い入れなきゃな。」
「だね。」
「えいえいおう!」
「だべ!」
そうして一行がたどり着いたのは巨大なサーカステントだ。クルルの話によるとここはいわゆるダンジョンのようになっているらしくアンノウンがはびこっているらしい。そしてその最奥に宝が眠っているという話だ。清志たちは気合を入れてその扉を開いた。リアルなダンジョンということもあり好奇心に興奮していた。
「あわわわわあわ…。」
「ククリなにびびってんだよ。」
「びびびびびびってないべべべえ!」
「…慎重に行こうか。」
「そだな。」
冷静さを取り戻した一行は初のリアルダンジョンへ足を踏み入れたのだった。
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