第19話「レッサーガーゴイル」

 ククリの説得に成功し、ここまま村へ帰す予定の清志たちだったがその時浮遊するモンスターの襲撃を受けた。ククリの持っていた理想の嫁(仮)のイラストはそのモンスターの一撃によって消し飛んだ。ククリが悲痛な叫びをあげる中、清志と皆夫は戦闘態勢に入る。


「なんだあのモンスター!?初めて見るぞ!?」


「あれはデビファンのレアモンスターのレッサーガーゴイルだ!」


「なんかちびデビに似てるけどもしかして進化系か?だとしたらショック!」


 メタリックなUFOのような形状の胴体に蝙蝠の羽と巨大な手がついている一つ目の怪物、それがレッサーガーゴイルだ。特定の場所にたまに現れるレアモンスターである。


「ちびデビに現在進化系はないっての!いいから建物の陰に隠れてろ!」


 レッサーガーゴイルは魔力で作った弾丸を飛ばし攻撃してくる。よけられないスピードではないが威力が高い。その攻撃を目にした瞳たちはあわててククリを引きずり建物の陰に隠れた。


「なんか分が悪そうだぞ!逃げるが勝ちじゃないかい?」


「そうもいかないんだよねー。進化されるときついんだよこのモンスターはさ!」


 瞳の提案を皆夫は却下した。その理由は洋子が説明する。


「レッサーガーゴイルは放っておくと普通のガーゴイルに進化するんですが、これがなかなか厄介なのです。魔弾だけでなく、広範囲のトルネードを撃ってきたり魔眼で思いデバフをしてきたりします。ゲームならまだ対処しようがありますが、この世界では会いたくない相手なのですよ。」


 今の清志たちは強化も回復も使えないハードモードである。そうであるからこそ危険分子を放置するわけにはいかないのだ。しかし討伐するにも問題があった。


「はっ!とりゃ!」


 清志は壁を蹴り上げ飛び上がりガーゴイルを切りつける。しかし羽ばたきガーゴイルは簡単によけてしまった。何度も繰り返し攻撃するがガーゴイルには一撃も入らなかった。


「当たらねえ―!」


 空中にいる敵にどんなに剣を振り回しても当たることなどない。ゲームではアイテムで空中を移動したり、敵の目くらましをして地上に降ろすなどいくつか対処法はあったのだが現在そのようなアイテムは持っていない。しかしガーゴイルは飛び道具を持っているため一方的に攻撃をすることができるのだ。


「仕方ないね。使ってみますか切り札その一!」


 平行線をたどっている中そう皆夫は叫んだ。刀を鞘に戻し構えをとる。


「清ちゃん!ちょっと溜がいるからデコイ(囮をすること)よろしくね!」


「デコイ!?…よし分かった!」


 清志は皆夫の考えを察しガーゴイルに向かう。皆夫が視界に入らないように攻撃をよけながら待った。策を変えたのか無数の雨粒のように魔弾を撃つガーゴイル。その量にさすがの清志も対応が難しくなってきた。数発が肩や足に命中し破裂した。しかし顔をゆがめつつも清志に外傷はいまだない。目に見えない防壁が清志を守っていた。だが清志は感覚としてそれが自分の体力に依存していることを察知する。


「結構きついな。やべえかな…。」


「清ちゃんお疲れ!」


 冷汗が出始めたところで皆夫から準備完了の合図があった。清志は瞬時に後退する。遠目に見た皆夫の収めた刀は青い光が稲妻のように発している。


「アズール・ライヨ。」


 皆夫が抜刀した瞬間、青き稲妻が斬撃の形となってガーゴイルのもとへ飛んでいき、切り落とした。雷が全身を駆け巡りガーゴイルは悲鳴を上げる。


「Graaaaaaaaaaaaaaaa!」


 ガーゴイルは真っ黒に焦げ光になって消滅した。


「わー疲れた。あ、どうだったかな?かっこいい感じにやってみたんだけど。」


 疲れたといいつつなんでもなさそうな顔で皆夫は言った。


「かっこよかったですよ皆夫!打合せ通りなのです!」


「そう?よかったー。」


 物陰から出てきた洋子に称賛される皆夫。のちに分かったことだが、洋子たちと皆夫はかっこいい決め台詞や技名をあらかじめ打合せしていたのだ。しかし清志から見ても先ほどの皆夫の技はかっこよかった。空飛ぶガーゴイルを一撃で仕留める攻撃力攻撃範囲は必殺技といっても過言ではないだろう。うらやましいことと同時にとても心強く思った。


 その後、清志たちはククリを彼の村まで送り届け自分たちも帰還した。今回モニターの男は見つけることができなかったが道中遭遇したモンスターたちを射て確信に近いものを得た。この世界はデビファンだ。どこまで通用するかは定かではないが、今までのゲームの知識が生かされることもあるだろうと。まさか現実世界でデビファンを味わえる日が来るとは思わなかった清志はやはり内心興奮していた。そしてその夜清志は魔導王に電話をかける。


『なんだ?』


「魔導王。俺専用の必殺技って何があるんだ?皆夫の空飛ぶ斬撃みたいなさ。」


『ないな。』


「は?」


『考えてもみなかった。』


「うそだろ?」


『いや全然。』


「オーマイゴッド…。」


 しかし清志にライトノベルのような無双は難しそうである。

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