第18話「逃亡者の嘆き」
変貌した世界「クレイジー・ノイジー・シティー」で男は息を切らしながら走っていた。淡い栗色の髪と黄緑色の瞳を携え、簡素な
「もう嫌だあああ!こんな世界やってられるかあああああ!」
男の背後には丸くふよふよ浮きながら火を吐き男を追う数体のモンスターがいた。その姿はちびデビによく似ている。男はもうかれこれ数十分逃げ回っておりひ弱な足腰はすでに限界だった。ふらつき足がつまずき倒れる。
「キュー!」
「キュキュー!」
「ぎゃああああああああ!」
「…えい。」
男が死を感じ情けなく叫んだ時、横からちびデビが一刀両断された。そこにはなんとも複雑そうな表情をした金色の戦士がいた。清志である。
「…えい。」
清志とともにやってきた瞳がちびデビにカバンでチョンと触れた。
「キュ!キュー…。」
驚いたちびデビは死んでしまった。
「「よ、弱い…。」」
まさかデビファンのモンスターが存在するとは思わなかった清志。それ以上にここまで設定どおりとも思っていなかった。触るだけで死んでしまう最弱の魔物。手ごたえがなさ過ぎてむしろ悲しくなってしまった。なんとも言えない後味の悪さを感じている中男は目を輝かせて言った。
「あ、あんたたち助けてくれたありがとうだよ!あんたたちがいなかったら今頃おら、おらああああ!」
「え、あそう?まあ落ち着けって待ってるからさ。」
清志はハンカチを男に渡した。涙を吹かせるためだったのだが案の定鼻をかまれたので捨てることにした。男が落ち着くまでの間清志たちは話し合う。
「なんだこいつ?ちびデビに襲われて逃げてたって何?ゲームシナリオなら納得だけどふつうありえねえだろ。」
「魔導王の言う盗人の仕掛人かもしれませんよ?あまりかかわらない方がいいのでは?」
「でも何かしら情報はあるかもしれないし、話だけでも聞いてみようよ。」
「なんだろう、虚無感があるよ。ちびデビってこんなに倒すと虚無感が…。」
ブルーになっている瞳は置いておきとりあえず男に事情を聴くことにした。彼はどうやらアンノウンではないらしい。魔導王によるとアンノウンとは人工的に作られた半物質半エネルギー体であり、エネルギーがある限り形を変え再生するモンスターである。アンノウンかどうかはエピックウェポンで判別ができる。しかしこの男はこの世界のもともとの住人でありエピックウェポンも反応しなかった。名前は「ククリ」というらしい。
「おら家出してきただよ。」
「家出?」
ククリは清志たちのいる場所近くの村に住んでいたが、そこでの生活が嫌になり家出したという。しかし村の外はクレイジー・ノイジー・シティーへ変貌しておりちびデビに襲われ今まで逃げていた。
「なんで村での生活が嫌になったの?親がつらく当たってくるとか?」
「当たらずも遠からずだよ。親もうるさいけんど、それ以上におらには夢があるだ。」
「夢ですか?」
「んだ!」
急に元気になったククリはこぶしを振り上げ言った。
「おら村でて外でかわいい嫁さん見つけるだ!」
なんだこいつと思った清志と皆夫だった。
「確かにククリさんみたいな美形でしたら理想が高そうですよね。」
「だなー。」
心なしかうっとりとした表情をしている様子の瞳と洋子。目の保養ということだろうか。確かに清志たちから見てもククリは美形だ。見た目の雰囲気がエルフに似ているからかあまり違和感のないものであるが、さわやかイケメンといわれても納得の容姿だろう。しかしククリはその誉め言葉には喜ぶ様子も見せなかった。
「いやおらなんて全然。だけんど村のおなごはブスばっかりだ!姉ちゃんはさっさと結婚しろだの言うけどあんなブスと結婚なんてできないべ!」
それが家出の理由らしかった。あほらしいと清志は呆れるが、皆夫はまじめにも質問を続ける。
「そうはいうけど、君の村には本当に不細工しかいないの?どのくらいの大きさの村かはわからないけどそんなに美人がいないなんて思えないなー。」
「たしかにおらもぜんいんはわからんけんど…。」
「一度戻って探してみたらどうだ?ほら、外に行ったからって美人に合えるって保証もねえんだしよ。」
このあほに付き合ってられないからさっさと家に帰したいと思う清志であったが、さすがに家出迄したククリはそう簡単に引き下がらなかった。
「そんなの言ってみないとわからないべ!…そうだ、そっちの下面の子たちは女の子だべ?」
「そうですけど、どうかしましたか?」
「ちょっとだけ顔見せてくれねえべか?もしそれでおらの好みじゃないならいったん村に帰るべ!でももし好みの顔だったら…。」
「だったら?」
「全力で求婚するべ!」
「おいおいおいそれは犯罪だ。」
中学生に大人が求婚などどう考えてもアウトな絵面だ。瞳たちは困ったように清志たちに視線を向けてくる。しかし、ここで断っても話がこじれるだけだろう。よって清志はあたりを確認したのち言った。
「少しだけならいいんじゃねえの?だけどククリ、求婚はだめだ。」
「わ、わかったべ。」
「いいのかな清志君?ククリさんもう村に帰れなくなるかもしれないぜい?」
挑戦的にこちらに不敵の笑みを飛ばす瞳。よっぽど自分の見た目に自信があるらしい。確かにクラス一の残念美少女といつも言われているのだから仕方ないことである。洋子も緊張しつつもなかなか自信があるらしい。しかし清志には何となく先の展開が読めていた。
「仕方ないですねー。ちょっとだけですよ?」
「ありがとうだあ!」
「じゃあせーので外すか。せーの!」
二人は仮面を外した。不敵な笑みを浮かべククリを見る。しかしククリはとてつもなく残念そうな表情を浮かべ悲しそうに言った。
「…悪かっただよ…。」
「ちょっと悪かったって何ですか!?」
「そうか…だから仮面なんてつけて…無理言って本当に申し訳ないべ。」
「清志!なんなんですかこの人なんなんですか!?」
「つまりお前は好みじゃなかったってことだろ。」
「あーもしかして…ククリさん、もしよければ理想の美人について絵とか何かで教えてほしいな。」
「ああそれならこれがあるだよ。」
ククリは懐から紙を取り出す。どうやら村の外の世界から流れてきたものでこれが外の世界に行こうと思ったきっかけだったという。みてみるとそれは漫画のイラストのようだった。
「これは…。」
「なるほどなこういうわけか。」
「マジですか…。」
「どうだべ別嬪だろ?こんな人嫁さんにできたらおら幸せだあよ。」
「そっかいつか会えるといいね。」
そこに映っていたのは紛れもなくどうしようもない不細工な女だった。おそらくギャグマンガの一シーンで清志たちの感覚ではまず近づきたくないと感じるレベルである。つまり言い方は悪いがこのククリという美青年は超が付くほどのブス専なのだ。
「先ほどまでの怒りが急に全部吹っ飛んだのです。」
「うん。なるほどだから村のみんなはブスばかりだといってたんだな。」
「でも約束は約束だ。おらは一度村に帰るだよ。すぐには見つからなくてもこの別嬪さんが懐にあれば頑張れr…。」
ドシュン!
その時突然ククリのもっていた漫画の紙がはじけとんだ。気が抜けていたせいで気づかなかった。空飛ぶ一つ目の怪物が清志たちを狙って発砲したのだ。
「おらの嫁えええええ!」
「なんだろうちょっとすっきりした。」
清志は武器を構えながらそう呟いたのだった。
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