第14話「強制契約」

 清志の思考能力はもう限界だった。いきなり見知らぬ森にいたかと思えばゴブリンやトロールによく似た怪物に襲われ、挙句の果てに指輪がしゃべりだしたのだ。もはやこれは悪夢だと思いたかったが、清志の生存本能がそれを許してはくれなかった。


「魔導王?メシア!?意味が分からねえ!ふざけやがって!」


 清志はトロールの攻撃を間一髪でよけながら指輪に悪態づいた。自分がこんなに死にそうなときに何をおかしなことを言っているのかと思った。それに対して指輪は非常にものんびりと愉快そうに答えた。


『契約をすれば助けてやろうといっているのだ。さあ、決めるがいい。契約するのかしないのか?』


「何の契約かもわからないのにできるかそんなもん!」


『ほう?このままではお前たち全員死ぬわけだが、その死以上に避けたいことでもあるのか?恐ろしいことがあるのかね?ないだろう。死にたくないなら、死なせたくないなら契約するしかないだろう?』


「くそが…足元見やがって。」


 確かに今の清志ではこの現状を打破する未来は見えなかった。どうやって指輪なんかが自分たちを助けてくれるのか、そもそもどのような契約でどんなリスクがあるのか、聞きたいことはたくさんあった。しかしこの魔導王とかいう指輪はその疑問に答えるつもりはなさそうだ。契約か死か、まるでやくざの取り立てのようにどうしようもない二択を迫ってきたのだ。それに対して彼が心底はらわたが煮えくり返る思いであったことは言うまでもない。そして、答えはすでに用意されていたとしか言いようがなかった。


「わかったするよ。契約してやるよ!だから助けてくれ!」


 清志は渾身の力で叫んだ。自分も仲間もこんな場所で死なせるわけにはいかなかった。ゆえにどんな契約だろうが受け入れるしかないのだ。その答えにまた嘲笑にも似た笑い声が聞こえた気がした。


『いいだろう!交渉成立だ。せいぜい俺の役に立て!』


「ぐっ!」


 その時まるで閃光弾のように目の前で光がはじけた。トロールはそれに驚いて叫び声をあげる。清志が瞬間閉じた瞼を開くと、トロールの傷が治ったときのように光が集まり形を成していた。違いがあるとすればその光はあたたかな山吹色であったことだろう。そして彼の目の前に剣のようなものが出現した。


『その刀を抜け。それで契約成立としよう。』


 魔導王の声、しかし清志はその言葉がなくとも手を伸ばしていた。あまりに魅惑的で手を伸ばさずにはいられなかったのだ。それに触れた瞬間体中に巨大なエネルギーのようなものが駆け巡った。


「ぐあああっ!」


 トロールは焦ったようにこぶしを振り上げ突進してくる。しかし清志はそれをまったく気にしていないようだった。刀をゆっくりと抜く。


「はっ!」


 そのひと振りは彼が今まで振ってきた中で最速であった。トロールの胴体を骨ごと綺麗に断ち切った。その鋭さゆえかトロールは声も上げず地に落ち光になって消滅した。


「…。」


 清志は右手にある刀を見た。日本刀のように長く鋭いが装飾は西洋的な変わった刀だ。しかし美しい。そして先ほどの一撃は何にも勝る爽快感があった。溺れてしまう恐怖すら覚える高揚感があった。


「清志君!」


 その感覚に浸っていたせいか一瞬瞳が自らを呼ぶ声に気づくのが遅れた。ふっと我に返った清志はあたりを見回す。


「瞳、皆夫は大丈夫か!?」


「大丈夫だよ。ちょっと青く腫れてるけど折れてはなかった。いやそれよりも…あのさ、君…人間なんだよな?サ〇ヤ人じゃないよな?」


「何言ってんだよ。今はさすがに冗談言ってる場合じゃ…。」


 その時瞳がすっと手鏡を清志に見せた。そこの映る彼は金色の髪にネコ科のような瞳、両目じりに逆三角形のタトゥーのある別人がいた。それは清志のゲームでのアバターの姿によく似ている。色的にスーパーサ〇ヤ人といわれても仕方がない。


「な、なんじゃこりゃあああああ!!」


 本当にいろいろな出来事がありすぎて気を失いそうになる清志だった。

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