第12話「常識は瞬間崩壊する」
清志の事件から一日後、授業が終わり放課後になると清志を含めた六人は中庭のベンチに集まった。
「これより第一回ギルド会議を始める!議題はギルド名と役割分担についてだ!」
昨日の今日だというのにハイテンションな清志に数名は呆れ、残りは心配そうに見つめていた。
「清ちゃん元気だね。…大丈夫?………頭、打ってない?」
皆夫が本当に心配そうに尋ねるが、清志は困ったように肩をすくめいう。
「大丈夫だって言っただろ?っていうかなんで頭なんだよ。あれか、頭がおかしいってかこの野郎。」
「そうは言っても昨日の今日で心配するのは当たり前だろ!」
瞳は怒気を発しながら清志の肩をパンとたたいた。
「いたっ!」
「あんまり危ない事はしないでくれよ。君がいなくなったら泣いてしまうよ。私も、みんなも。」
清志は彼女の怒った目からこぼれる光を見て、すぐに目をそむけた。そして少しの間ののちばつの悪そうに頭部を掻いた。
「…悪い。」
「ま、私は泣かないけど。」
「ちょっと千歳、空気読んでくださいよ!」
「べー。」
その暗い雰囲気を察してかはわからないが、千歳は彼にあっかんべーとしてすぐに瞳の後ろに隠れた。
「でも、先輩を泣かせたら許さないから。」
「ああ。」
そんな様子を見て洋子は清志をつつく。
「よかったですね。いい仲間がたくさんでいて。」
「そうだな。」
どこか緊張した雰囲気のあったその場はもうなかった。和やかに変わった空気を吸い清志は微笑する。そんな時リズはあることに気づいた。
「なあ清志、その指輪なんだ?」
「え、指輪?あ、本当だ。」
リズが指した清志の左手の人差し指には、赤い宝石が埋め込まれた金色の指輪があった。清志は手を広げそれを見ていう。
「これは気が付いたら指にはまってたんだよ。まったく外れねえから困っててさ…。」
「ちょっと見せて。」
皆夫は清志の手を取り指輪を眺める。太陽の光にあてるようにいろいろな角度で見つめると感嘆したように法と息を吐いた。
「これはルビーだよ。表面が黒ずんでるけど、たぶん滅茶苦茶いいやつ。」
「そんなの見ればわかるだろ。」
「いいや清ちゃん、別に紅い宝石だからってルビーってわけじゃないんだよ。」
「そうなのか?」
「そうなの?」
「そうなんですね。」
「へーそうなんだ。知らなかった。」
千歳以外の感心して声に皆夫は頬を掻いた。そして一つ咳払いすると説明を始める。
「ルビーっていうのは特殊な結晶で光の当て方によっては二つ異なる色の光が出るんだよ。まあ細かい説明は省くけどさ。」
「ちなみに日本でよく取れる紅い宝石はガーネット。あれは単射性。」
補足説明を入れる千歳。そんな彼女の頭を瞳は撫でる。
「よく知ってるなー千歳は。」
「あ、ありがとうございます。…えへへ。」
千歳さんが幸せ層でよかったですと思った清志と洋子だった。それに続けて千歳は興味深いことを話した。
「…ルビーは「王の石」でもありますよ。」
「王の石?」
「昔ルビーには神秘の力があって勝利と平和をもたらすといわれていました。だから権力者はルビーを求めたそうです。魔よけの力もあるとか。」
清志は再度指輪を眺めた。「王の石」そんな話を聞いてしまうと自分が身に着けるにはとんでもないものに感じた。またそんな清志をいぶかしげに洋子は見た。
「で、清志はそれをどこから盗んできたんです?」
「盗んでねえよ。さっきも言ったけど、目が覚めたら指についてたんだ。それもとれない。」
「どれどれ。」
洋子は清志の手を取ると両手で指輪を抜き取ろうと全力で力を込めた。
「いたたたたた!もげる!もげるー---!!」
「ほんとに取れませんね。」
「清志君、呪われてたりしない?あれかな、お祓い…行く?」
「何も呪われるようなことしてねえよ!」
「あはは。まあしばらくはそのままでいいんじゃない?」
「取れたら私がもらっていいか?赤ってかっこいい!」
「お前ら他人ごとと思って…あれ?なんか本当に呪われてる気がしてきたんだけど?背中が寒くなってきたんだけど!?」
すると瞳は清志の手を取り甲を撫でた。指輪をやさしく見つめ穏やかに言った。
「大丈夫さ。…もしかしたらあの事故で君が無事だったのはこの指輪のおかげかもしれない。そんな気がするんだ。」
「んなことあるわけ…。」
「そうかもしれませんね。」
「洋子まで…。」
洋子は清志に微笑みかける。
「大事にしましょう。」
「わあったよ。」
その後、本題であるギルド名や役割分担の話をしたが、結局大してまとまらず後日迄保留となった。下校時刻も近いので帰宅することになる。
「あんなことがあった後ですからね。今日はできる限りまとまって帰りましょう。」
「は?」
「いいんじゃないか?な、先輩!」
「そうだな。一緒に帰ろう!」
「瞳先輩が言うなら。」
洋子の提案から分かれ道迄一緒に帰ることになった。自分のためであったので清志は何も言わずに従った。大人数で雑談しながら帰るというのはなかなか久しぶりのことだった。少し楽しい。こんな日常が続いてほしいと思った。しかし…
「…え?」
公園の隣にある坂道を下ろうとした瞬間世界が一転した。夕日のあったはずの空は暗い森影に隠れ、地面は苔むすけもの道に変わっていた。
「なんだよこれ…。」
危なくないように一緒に帰る。幸か不幸かその決断によって清志たち全員が巻き込まれたのだ。常識は突然崩壊し、ここから始まるのだ。桑田清志のあまりに長い闘いの歴史が、その第一章がその時始まった。
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