EX1「天使との邂逅」

 千歳とリズは中学校の課題である「地域の植物の調査」をするために自宅から少し離れた草木の多い場所へ向かっていた。


「へー、前まで林だったのにいくつか家立ってるな。」


「なんでわざわざこんなに歩かなきゃいけないの?はあ、死にたい。」


「偶にはいいじゃん。あ、これフキノトウかな?天ぷらにしたらうまいって本に書いてあった。」


「それは大きすぎ。つぼみが開いてるのはえぐみが多くておいしくないの。」


「へーそうなのか。まずいならいいや。」


「リズは格闘か食べるかしか頭にないの?」


「そんなことないぞ!」


「どうだか。」


 雑談を交わしながら草木の観察をして回っていると、リズが千歳の肩をたたいていった。


「なあなあ千歳。」


「何?」


「あそこ、子供が倒れてるぞ。」


「え?」


 リズが指さす低めの石塀の上に確かに子供が横たわっていた。顔はよく見えないが青ざめているように見える。呼吸もどこかおかしい。危機感を持った千歳はそこに駆け寄った。


「ねえ、どうしたの?大丈夫!?」


 小学生低学年ほどの男の子だった。ぐったりとしているが意識はあるようで、千歳の言葉に反応した。


「酔った。」


「はい?」


「車に酔いました。」



 その後、リズが買ってきた水を渡し飲ませ様子を見た。十分ほどして容体は改善ししっかりと会話ができるようになった。


「お水ありがとうございました。」


「大丈夫。君名前は?」


白矢千明はくやちあきです。」


「家はどこだ?近いのか?」


「そこです。」


「あ、向かい側か。」


「…親御さんは?」


「母ちゃんは家にいます。僕は酔ったから外でぐでってました。」


「ぐでるって…ぷっ。」


「リズうるさい。もう立てそう?」


「うん。」


「そっか。お母さん心配しているだろうから、おうち帰った方がいいよ。」


「はい。あそうだ、あのえーと名前は…なんていうんですか?」


「私?私は千歳。」


「私はリズだ。私たちのことはお姉ちゃんって呼んでいいぞ。にひひ。」


「ちょっとリズ。」


「えっと千歳お姉ちゃんとリズお姉ちゃん、お水のお礼持ってくるから待ってて。」


「「え、?」」


 冗談で言ったつもりだったが、あまりに素直に聞き入れる千明に驚く二人。千明はてくてくとある家の玄関まで歩き中に入った。しばらくしてドアが開くと千明と共に大人の女性が出てきた。


「あらこんにちは。うちの子がお世話になったみたいでありがとうね。外じゃなんだから中へどうぞ。」


 女性はそう言って千歳たちを誘った。二人は素直にその家に入った。


 リビングルームに通されると千明が両手にコップを持って二人に渡した。


「これね、母ちゃんが作ったゼリー。どうぞ。」


「いいの?…ありがとう。」


「サンキュー。」


 寒天でできたゼリーのようだった。サイダーのような味がして、ちょうどいい歯ごたえと香りが調和していた。


「おいしい。」


「うん。すっごくうまいな。」


 その言葉に千明は笑顔を返した。それを見た千歳は一瞬硬直すると、目を背ける。


「二人は近くに住んでるのかしら?」


「ええ。団地を下りたところです。」


「あらそうなの。今日はどうしてこっちに?」


「えっと、中学の課題で…。」


 ゼリーを食べる間簡単な雑談をした。その中で、タンスの側面に貼ってある絵が目に入った。角の生えた恐竜のようなものが何か光線のようなものを発射している絵だ。


「その絵は…。」


「ああ。それは千明が描いたのよ。」


「これ知ってるぞ!ゴモラ―だろ?」


「うん!」


 リズの問いかけに千明は元気よく答える。しかし千歳はその名前に全く心当たりがなかった。そんな名前の恐竜はいただろうか?


「ゴモラ―って何?」


「千歳知らないのか?ウルトラメンに出てくる怪獣だよ。」


「ウルトラメン…聞いたことはあるけど。」


 すると千明がヒゥーっと二階に上がってしまった。それを見て罪悪感に襲われる。ゴモラ―を知らなかったことで気分を害してしまったのかと。しかし千明はすぐに下りてきた。


「これ。ゴモラ―。」


彼が持ってきたのはゴモラ―という恐竜のフィギュアだった。それを千歳に手渡し笑う。


「これがゴモラ―…。」


「かっこいいよなー。」


「あいなー!」


 おもちゃ屋などにはいかない千歳であったので確かによくできたフィギュアだと感心した。そして男の子はこういうおもちゃが喜ぶのだと少しかわいらしく思った。


 その後話をしたりトランプで遊んだ後に千歳たちは家に帰ることになった。帰り際千明は手を振って彼女たちを見送る。


「楽しかったな!また遊んでやるか~。」


「ん。…天使だった。」


「…?まあいいか。」


 夕焼けに照らされ、今日の思い出をかみしめ帰路を歩く千歳たちだった。

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