第11話「紅い記憶」
「朝か…。」
月曜日、休みの終わった次の日という普通なら憂鬱そのものであるその日だが、 今日の清志の心は踊っていた。
「行ってきます!」
朝食を済ませ元気よく家を出た。返事はない。
なぜこんなにも清志のテンションが高いのかというと、昨日のことが原因である。昨日、清志は千歳とリズが家に来てデビファンについて教えることとなった。そしてレベル上げの末、二人はデビファンを続けることを約束した。これによって清志のデビファン仲間は五人になったのだ。そのおかげで清志たちはあることが可能になったのだ。それは、ギルドの設立だ。デビファンではギルドに入ることで様々なことが可能となる。詳細は省くが、清志たちにとってこれはめでたいことなのである。
今日はギルドについてみんなと話すことになっている。ギルド名は?シンボルマークは?目標は?やりたいこと決めたいことが多すぎて清志は興奮を抑えられなかった。だからいつもより早く家を出て小走りで登校しているのである。その道中…
「そういやここら辺工事中か。オフィスビルが建つんだっけ?」
何か音がするので見てみると、未だ鉄骨のみの建築物が立っていた。何の気なしに見ていたのだが、その時不意に紅い記憶がよみがえった。
「え…?」
次の瞬間音を失った気がした。目の前の建築物から鉄骨が落ちたのだ。その真下にランドセルを背負った子供がいた。子供があの紅い記憶と重なる。彼女と…。
「聖…!」
清志は全力で走りだし、その子供を突き飛ばした。そして落下した鉄骨は清志の体をあっけなくつぶした。背骨が折れ、内臓がつぶれる音がし、鼻や口から血が噴き出した。幸いだったのはその時痛みすら忘れていたことだろう。死を実感した。だが清志はおびえた顔でこちらを見る子供を見て口元を吊り上げ狂気的に笑った。
「おぇ…は、だずけ…!」
首が上がらなくなり飛び散った地面の紅を眺めながら、清志は意識を失った。
「清志!清志!!」
目が覚めると泣いている洋子がいた。洋子だけじゃなく、皆夫と瞳と…担任の白夜もいた。洋子は清志の様子に気が付くとさらに涙をあふれさせながら言う。
「清志!」
「洋子…。」
「清志!大丈夫ですか?痛いところはないですか!?」
清志の手を握り締める洋子に清志は問いかける。
「聖は?」
「え?」
その言葉に洋子は目を見開く。
「聖だよ。聖は無事か!?」
まくしたてる清志に反応できず、洋子は涙も出ないほどに硬直していた。そんな洋子は気にも留めず、清志は言う。
「身代わりになったんだ。おれは!あいつの代わりに!」
洋子は何も言えなかった。代わりに言葉を発送とする瞳たちを制止し、白夜は言った。
「おまえら、少し部屋出てろ。」
「おとうさ…。」
「大丈夫だ。いけ。」
いわれるままに洋子たちは病室から出た。
扉の前横の壁にもたれて唇をかむ洋子に、瞳は一呼吸おいていった。
「本当によかったよ。鉄骨につぶされそうになったけど、奇跡的に引っかかってほとんど無傷でさ。」
「はい…。」
「近くにいた女の子も軽傷で本当によかった。」
「はい…。」
「なあ洋子。…清志君の言っていた聖って一体…?」
「ちょ、瞳ちゃんそれは…。」
慌てて止めようとする皆夫、しかし瞳は真剣な表情で洋子を見つめた。洋子は数秒沈黙していたが、うつむくまま声を発した。
「今は…いいたくないのです。」
「そっか。わかった。」
瞳は洋子と同じように壁にもたれる。
「お願いです。清志には…絶対にその話をしないでください。絶対に…。」
「約束する。」
それから数分は白夜が出てくるまで沈黙が続いた。
「よーし、てめーら学校へ行け。職員室で遅刻届だしてから授業に行けよー。」
白夜がそういうと洋子はいまだ心配そうに彼を見上げる。
「あの…お父さん。」
「なんだ?」
「清志は?」
「大丈夫だ。まあ、今日は一応検査入院だな。明日からは普通に登校できるだろう。」
「そう…ですか。」
「瞳と皆夫―、洋子をしっかり学校まで連れて行け。こいつは目を離すとあいつに一日中くっつきかねんからな。」
「先生は?」
「俺はまだやることがある。車は出せんからな。あと、遅刻はあとで取り消してやるから心配しなくていい。話は終わりだ。行けー。」
白夜は淡々と用件を伝えると部屋に戻っていった。人目清志に会いたいと思うもできず三人は学校へ向かった。無言の登校、何を話していいのかわからなかったのだ。聖、身代わり、その言葉が三人の脳裏に焼き付いて離れなかったのだった。
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