第10話「加速するデビファン生活」
清志たち、デビファンではセイたちは順調にゾンビの大軍を撃退していた。ゾンビは動きがのろく大量に出現するので操作慣れ用のサンドバックにも適する敵である。いまだ動きのつたないエリーが練習するにもうってつけの場所である。そしてゾンビ掃討作戦決行から一時間後、
「よし、今日はこれくらいでいいだろ。」
切りのいい時間になったので、今日のレベリングはここまでとした。
「うへー。」
エリーはげんなりと疲れた様子だ。初めてのネットゲームで一時間通して遊べば仕方ないだろう。本当はゾンビが気持ち悪いのでげんなりしていたのだが、セイは彼女に激励した。
「やったなエリー!一気にレベル一から二十にアップだ。」
その言葉にエリーはわかりやすく鼻を高くし、笑った。
「ま、まーな!あたしにかかればこんなもんよ!この調子ならあと三日もあればセイたちを追い抜くな!」
胸を張るエリーは一見歴戦の猛者のようだ。まあ実際は生まれた手だけど。そんな彼女に水を差すように暁がぼそりとつぶやいた。
「ま、レベル上げれば効率下がるので三日じゃ無理ですけどね。」
「おいおい、そうやる気出してるやつに水差すんじゃねえよ。」
「馬鹿には早めに現実を教えた方がいいのです。」
「誰が馬鹿だ!」
「あなたです。」
と暁のせいでまた喧嘩が始まってしまった。清志はめんどくさいので無視して集合場所い向かうと、既にほか三人は戻ってきていた。アイがうずくまって呪文のように何かをつぶやいていた。清志はその言葉に耳を傾けてみる。
「みょんみょん怖い怖い妙みょん怖い怖い怖い怖いこわ…。」
何かトラウマをかみしめているようだった。それに対してほんわかとしたまるでペットの小動物へ向けるような声も聞こえる。
「かわいー…先輩、かわいー。」
センがアイを見ながらそう呟いていた。どちらも同じ言葉をつぶやき続けているので少々怖い。二人を見て笑っている皆夫、デビファンではフォランに話しかけてみる。
「お疲れさん。…モグラ行ってきたんだな。」
「もちろん!三人いて、その上アイちゃんがいるなら当然だよね。」
「イー笑顔するぜ。」
フォランにはサディストの才能があるかもしれない。トラウマから怖いを連呼するアイを見てうっとりしているセンも…いや彼女は確実だろうなとセイは頭を抱えた。
「千歳ーじゃなくてせんー!どうだった?あたしなー、レベル二十も上がったぞー。」
「そう。私も上がった。ほら。」
「オー!それどうやんの!?」
ステータス画面の開示など、センはすでにシステムの多くを使いこなしているようだった。知能の高さに感心する。なんだか楽しそうでよかったとセイは安心した。
「それでどうでしたか二人とも?デビファン、楽しかったですか?」
暁の問いかけにエリーは元気よくうなづいていった。
「おう!でも次はかっこいい敵がいいな!」
「そうしましょう。センはどうでした?」
「…まあ悪くは、なかった。」
センが小さくつぶやくと暁は嬉しそうに微笑んだ。
「よかったのです。」
そのやり取りを画面越しに聞いていた清志も思わず頬が緩んだ。それを見たリズは怪訝そうに言う。
「なあ清志、何にやけてるんだ?気持ち悪いぞ。」
「なっ!?にやけてねえし!」
すぐに反論する清志だが、周りから冷たい反応を受けた。
「うわあ、パソコン目の前にしてにやけているとか想像したらさすがに気持ち悪いのです。リズに同情しますね。」
「きもっ。」
「清志君…それはちょっと…。」
「だからにやけてないって!っていうか呼び方本名に戻ってるっつうの!」
先ほどまでの和やかな雰囲気から一転、女性陣に心無い言葉でディスられる状況になっていた。いたたまれなくなったセイは最後の希望、皆夫じゃなくてフォランに助けを求め目配せした。
「大丈夫、ただ清ちゃんは二次元の女の子が仲良くしているところを見るのが好きなだけだよね。」
「皆夫てめえええ!!」
「「「「うーわー…。」」」」
最後の希望にすら裏切られ、セイのメンタルは三十万ダメージを負った。セイの心は死んでしまった。
「なんでこんな目に…。」
声を殺してなくセイ、そこにフォランは言った。
「それにしても清ちゃん。五人超えたってことはあれ、できるね。」
「あれ?…あ、ああ!」
「あ、もしかして。」
フォランの回復の呪文によりセイはメンタル全回復した。一部始終を聞いていた洋子も気づいたらしく、声を重ねていった。
「「ギルド!!」」
千歳とリズ、デビファンではセンとエリーの参戦により、清志らのデビファンライフは加速を始めたのだった。
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