第9話「お前もロウ人形にしてやろうか」
今回まずやるべきは千歳とリズのレベル上げだ。ある程度レベルを上げておかなければ、早めにやっておきたいおいしいクエストも受けられない。時間対経験値、最も効率的な方法も思案する。
「清ちゃん、ビギナーがいきなり六人パーティーはつらいだろうから別れた方がいいと思うんだけど。」
「そうだな。三対三で別れてレベリングするか。レベル六十台が二人つけば、高い難易度でもいくらかは大丈夫じゃね?」
「そうだなー。ま、私はほとんどレベル八十台だけどな!」
「ノーコンは黙ってろ。もともと戦力に入れてないんだよ。」
アイが大げさに自らの高レベルアピールをするので、清志はバッサリと事実を言った。
「なんだと!?私だって役に立つぞ!回復とか支援とか…。」
「そうだな。…ならアイは体力面の心配があるリズのほうに…」
「は…!?」
そう口に出した瞬間、冷ややかで圧のある千歳の声がした。清志はその一語から次のような情報を聞き取ったのだ。「私と瞳先輩を別のパーティーにしようなんてどういうつもり?そんなことしたらどうなるかわかっているの?ねえ…ねえ!」
「……いやそれはポーションがあれば大丈夫ですね。アイは千歳に遠距離支援してくれると助かる。」
すぐ前に言ったことと意見が百八十度違うなんてこの現代社会にはよくあることだ。清志は死にたくないのでそう自分を納得させたのだった。
「?…うん、わかったよ。」
瞳はどうしたのかわからないという様子だったが特に言及するつもりはないようだった。清志は思った。何あの子?画面越しにさっきみたいなものが伝わってきたんだけど!?即座の判断がなければ死んでいた気がすると。
「じゃあ僕は千歳ちゃんたちといくよ。清ちゃんはリズちゃんをお願いね。」
「お、おう任せろ!」
ナイス皆夫!千歳の扱いは慎重に見極めてからだ。別にビビってなんかないんだからね!心の中で清志はそう言い訳した。
そして清志たちは皆夫らと別れ、クエストに向かった。
「リズのアカウント名は「エリー」でしたか。」
「おう!母ちゃんの名前からとったんだ。洋子の「暁」ってのはどうしてつけたんだ?」
クエストポイントに向かう途中、ゲームアバターの名前について話していた。というのも、これからはできるだけゲーム内ではゲーム名で呼ぼうという話になりまずは情報を整理しようしているのだ。
「暁は好きな漫画のキャラクターからとったのです。」
「漫画かー。なんて奴だ?」
「それはですね…。」
なかなか会話が弾んでいる。昨日はあんなに口げんかしていたのにあっさりしたものだ。まあ仲がいいことはいいことだろう。
「清志は何でセイってつけたんだ?」
「清志って、俺は瞳と同い年、お前の先輩なんですけど。」
「んー、先輩は先輩しかいないからな。清志は年上って感じしないし。」
「この野郎。小3みたいな外見しているくせに。」
「誰が小3だ!」
「二人とも喧嘩はだめですよ。かわいい我が子たちが言い争っていたら、お母さん悲しいのです。」
「「誰がお母さんだ!」」
そんな会話をしながら歩いていると、今回のクエストポイントについた。リズはその場所について次のような感想を述べた。
「なんかジメッとしたところだな。」
清志たちは薄暗い森の中似た。巨大な木々が生い茂りその無数の葉は日の光を遮りまるで夜のようだ。苔の生した地面、霧の靄からはリズの言うようにじめじめとした湿気が感じられるようだ。
「ここはロウ人の樹海ってエリアだな。デビファン世界にある三大樹海の一つだ。」
「ろうにんってなんだ?」
「蝋燭のろういえ、死蝋のロウですね。つまり…。」
森を進むと人影が現れる。その動きは生き物にしては愚鈍で、機械というにもあまりにうつろだ。薄闇から顔を出したそれを視認したリズ、いやエリーは巨大な図体に似合わず小さな悲鳴を上げた。そう、その姿があまりにも不気味だったからだ。土気色の肌はただれ、やせこけた頬からは骨がのぞく、黒く腐敗した目を魚のようにぎょろつかせこちらを見、迫ってくるその姿はまさしく
「ゾンビです。」
「うわっキモ!」
エリーはそう感想を述べるが確かにそのとおりである。ナメクジ人間といわれることもあるゾンビはファンデビの中でもキモモンに分類されるモンスターである。アンデットモンスターは上位になるほどかっこよくなる傾向があるが、このゾンビはアンデットの中でも最下級、つまり一番きもい。そんなゾンビであるが、その強さのわりに経験値が多く、イベントでさらに現在獲得経験値が増加しているのでレベルアップには適している。
「之を倒せば一気にレベルアップだ。やろうぜ。」
「えーこれを?」
「効率を追い求めれば誰しも多る道です。やるだけやりましょう。」
「うへー。」
エリーはそう言いながらこぶしを構えた。セイ、暁も剣を構え、
「行くぞー!」
「「おうー」」
ゾンビの群れへ攻撃を仕掛けたのだった。
エリーのレベルが上がった。
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