第8話「いざ初めてのデビファンへ!」

「なるほどそういうことですか。」


 清志の説明を聞き終えると洋子はうんうんとうなづいた。


「清志がこんな休日にログインしないなんて何かあったのかと心配しましたが、それならよかったのですよ。」


「おかんかお前は。」


「それに清志がリズたちと仲良くなったのはむしろ僥倖ですね。」


 洋子がそう言って千歳のほうへ笑いかけると、彼女は心底嫌そうな顔をして悪態づいた。


「うざっ。」


「でもほかの二人も心配していますし、一緒に行きましょう。」


「あいよ。」


 リズもチュートリアルを終えたので、これでみんなログインできると清志はヘッドフォンマイクをつけログインした。


 ログインすると皆夫と瞳はすでにログインしていた。そして音声チャットがつながると案の定の質問をされる。


「何やってたんだ清志君?全然おないから心配したぞ。」


「二度も長い説明したくねえから省く。あとアイ、そろそろゲーム内で本名いうのやめないか?」


 ネットゲームということであまり個人情報が漏洩するリスクは避けるべきだろう。


「でも清ちゃんだって結構僕たちを本名で呼んでるよね。」


 注意したとたん皆夫に水を差された。清志もあれ?と振り返ってみると結構言ってた気がする。


「…確かに…じゃあ、これからはってことにするか。ちょうど二人増えたし。」


「二人?あ、もしかして。」


「「ああ、じつは今日はな…千歳とリズも来ているのですよ。」」


「あれ?」


「「「来たぞー瞳先輩。こんにちは…会えてうれしいです。なななこれからどうするんだ?ちょっと落ち着きましょうか?」」」


「んー。すっごく声が重なってるね。もしかして四人とも清ちゃんの家にいるのかな?」


 前にもあったが近くにマイクがあるせいで近くで話す三人の声も入って今うようだ。一度マイクをミュートにし、清志は他三人に言った。


「これだとうるさくて集中できねえぞ。」


「そうですね。清志、近すぎなのであと九十メートルほど離れてください。」


「前も言ったけどここ俺の家!なんで追い出されなきゃいけねえんだよ!」


 洋子のとんでもない提案に清志が文句を言うと、それに続くように千歳が手を振った。


「しっしっ。あっち行って。」


「千歳ちゃん?こっちを腫れものみたいに見ないでくんない?」


「ちゃんって…キモっ。」


 清志はメンタルに三万ダメージを受けた。清志は死んでしまった。…気を取り直して対策を考える。すると千歳がぽつりと言った。


「隣の部屋にでも行けばいいでしょ?空いてたし。」


 その言葉に洋子は数瞬硬直した。


「……………そうですね。では千歳。一緒に行きましょう。」


 そうして立ち上がる洋子に千歳は嫌そうに言った。


「めんどい。」


 その言葉を無視して洋子は千歳を強引に引っ張った。


「ほらっ!行きますよ!」


「引っ張んないで!…わかった行くから。…はあ死にたい…。」


 洋子が千歳とともに部屋から出る。今まで静観していたリズは清志に話しかけた。


「なあ清志。私はここにいてダイジョブか?」


「…。」


「清志?おーい清志ー?」


「…え、ああ。多分大丈夫だ。瞳たちに聞いてみよう。」


「おう。」


 先ほどまでの暗い表情から一転、取り繕うように笑う清志にリズは違和感を覚えつつも、興味もないので忘れることにした。



「どうだ?」


「大丈夫そうだよ。」


 マイクで皆夫たちに聞いてみるとどうやら音の被りは解消されたらしい。安心しつつ清志は仲間たちの会話に耳を傾けた。


「先輩、すっげぇきれいだなここ!」


「だろ?なんせ私のお気に入りだからな!」


「なぜおまえが威張る?」


 ゲームのグラフィックに感嘆するリズ。その反応に瞳は胸を張って自慢した。だが清志にも自慢したくなる気持ちはわかるのだ。なんせこれほど美しい風景を持つゲームは他にない。自分の知るいいものが誰かに伝わるのはとても気分の良いことだからだ。


「どうもどうも、ここで会ったが百年目ですー。」


「「百年目ー。」」


 洋子たちもしっかり再ログインできたようだ。洋子の独特な挨拶に当然のように皆夫たちは返した。この挨拶はやっているのだろうか?清志は若干常識がわからなくなってきたのだった。


「改めまして、こんにちは瞳先輩。」


「おう!こんにちは!ほうー、千歳のアバターはまさにエルフって感じでいいな。かわいいぞ。」


「そう…ですか?ありがとうございます。」


 千歳の態度は瞳に対してだけあまりにも違っていた。清志、皆夫、洋子の三人は困惑しつつも声には出さなかった。まるで恋する乙女…。


「せんぱーい!私のはどうだ!?」


 リズは瞳に魅せるようにまわってみせる。声は幼いが、画面に映るのは巨大な筋骨隆々の女性が風邪を巻き上げるがごとく回る姿、正直怖い。しかし瞳は


「かっこいいな!すっごく強そう!」


「だろ!!」


 意気投合していた。そうかこれはかっこいいのか俺のセンスがおかしいんだよなもういいよもう。清志は自分の常識がさらに疑わしくなったのだった。


「さて、じゃあ今日は二人のレベル上げが第一目標だね!どうしようか清ちゃん?」


「そうだな…じゃあ、こうするか!」


 いざ、千歳たちの初めてのデビファンへ!

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