第7話「ゴルゴンシスターズ再び」

 今でも思い出す。あっけない音から始まったその時の光景を。ただ家に帰るだけのはずだった。その前に授業で育てていたサツマイモの苗を見に行く途中だった。いつもの風景が、ただの一瞬であれほど凄惨に変わることがあるなんて思ってもみなかった。いや、本当は知らなかっただけでにいるまでに長い時間があったのだろう。気づきもしなかった。それが俺の罪。俺の犯してしまった最低最悪の重罪だった。脳裏に焼き付いたのはその光景だ。目を焼くほどの衝撃ゆえににおいも忘れるほどだった。あの血、散らばった肉、つぶれた頭、痙攣を続ける手足を今も鮮明に覚えている。忘れようとしても思い出す。何度も何度も何度も何度も。だというのに、なぜ俺はまた同じ罪を犯してしまったのだろう?


 ジジジ!ガチン!


 目覚まし時計を壊れないぎりぎりのラインでたたきとめると、清志は起床した。そうだ、今日は日曜日。デビファン祭りの祭日だ。朝食や準備を済ませさあログインしようと思ったのだが…。


 プルルルル


 突然ガラケーに着信が入る。知らない番号だがとりあえず出てみた。


「もしもし?」


『私。』


「いや誰だよ?」


『千歳。昨日会ったでしょ?もう忘れたの?』


 千歳は聞くからに不機嫌そうなため息を漏らした。だが待ってほしい。清志は彼女とは機能が初対面、連絡先すら交換していないのだ。


「千歳か。いやなんで俺の番号知ってんだよ?」


『洋子から聞いた。』


「ああそう。」


 確かに洋子なら聞けばすぐに連絡先ぐらい教えそうだ。清志はもはやあきらめに近い納得をしつつ、本題を切り出す。


「それで?俺になんか用か?」


『…てよ。』


「あ?」


『私にデビファンを教えてよ!』


一時間後


「陰気な部屋。」


「オーでっかいパソコンだ。」


 まさか友人でもない年下の女子を二人も自らの部屋に挙げることになるとは…。千歳はお供のリズを連れて清志の部屋へ上がり込んだ。二人とも必要な道具は要してあるというので見てみると、最新なうえに超高スペックな高級ノートパソコンだった。


「すげえな。一体いくらしたんだよ…。」


「四十万くらい?そんなに高くなかったから買った。」


「もらった。」


「…。」


 金銭感覚が違いすぎますねえはい。八十万円ポンと出せる中学生ってなんだよ怖い。内心そう思いつつも突っ込まず、WI-FIに接続するなどの準備を行った。


「三台分だから接続若干悪いかもしれないけど、それはあきらめろよ。」


「はいはい。で、ユーザー登録ってどうするの?」


 ユーザー登録、音声チャット接続など、いくつかのプロセスはすべて清志が行った。つまり丸投げされたわけだ。だが清志は内心喜んでいた。デビファン仲間が増えるということは、デビファンの運営期間が増えることでもあり、より大きなパーティーを作れることでもあるからだ。より難易度の高いダンジョンにも行きやするくなる。そのそぶりを見せないのが大人?のたしなみなのだ。


「これで大丈夫だろ。昨日作ったIDを入力してログインしてみてくれ。」


「うん。」


「はいはーい。」


 ゲームを始める準備が終わり、あとは二人がチュートリアルを終えるだけになった。ここまでで二時間。トラブルはそんなになかったが大変だった。やっと自分もログインできると思ったのだが…


「死んだ!千歳之どうすんの?」


「今手が離せないからそっちに聞いて。」


 押し付けられたのでリズの画面を見てみる。本当に死んでいた。チュートリアルで死亡という奇跡ともいえる偉業を成したリズにはまずは操作説明を丁寧にしたほうがいいかもしれない。


「まずはリズのキャラクターの特性を説明するぞ。そのほうが操作説明がわかりやすいだろうからな。」


「おう。」


「リズの選んだモンクってジョブは近接戦闘に特化した職業だ。威力は高いけど、攻撃のできる範囲は狭い。だから戦う時はこんな感じに…。」


「おーかっこいい!」


 リズの作ったアバターを動かして見せると、彼女は歓喜の声を上げた。清志は吊り上がりそうになる両頬を抑止に勤めながら説明を続けた。


「モンクは目一杯近づいて攻撃を当てて攻撃が来たらこんな感じに回避する。防御力は低めだから注意したほうがいい。扱いは難しいけど、うまくなれば強いから頑張れよ。」


「おう!なあ、あたしもやっていいか?」


「もちろん。まずはチュートリアル突破してみろ。」


「サンキュー清志!」


 あらやだ素直。昨日千歳に教えた時よりも達成感があるな…と清志が涙を拭いていると、後ろから声をかけられる。


「チュートリアル終わった。この後どうすればいい?」


「ああそれなら…。」


 千歳もふてぶてしくはあるが、真剣に話を聞いてくれる。自分の好きなことに対して真摯に向き合ってくれる、二人にこうして教えることが清志は嬉しかった。


「後輩…か。」


「何?」


「いや、別に…。」


 悪くない時間だ。不思議と充実したこの空間、居心地の良さを感じる安らかな空気は


「清志!?何かあったのですか!?」


 突然部屋に乱入してきた洋子によってぶち壊された。清志とリズはその事態に目を丸く呆然とし、


「うわっ…。」


 千歳は心底面倒くさそうにそう呟いた。

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