第5話「洋子の友達?」

ピンポーン


 家のチャイムが鳴るのでドアを開ける。予想していた通りやってきたのは洋子だった。


「さあ、ついてくるのです清志!」


 パーカーに半ズボンにサングラスをかけた彼女は両手を広げて言う。見た目は小学生ラッパーといった感じでどこかチャラい。


「ああ、うちそういうのいいんで。」


 ドアを閉めた。この家は基本訪問販売、宗教勧誘はお断りなのだ。どうやらあれはその表示を見逃してきてしまったラッパーらしい。


ピンポーン


 チャイムが鳴るのでドアを開ける。そこには段ボールでできた天使のような羽を背中に着けたラッパーがいた。


「さあ!私とともに姫を救いに行くのです。」


「……俺が神なんで、天使とかお呼びじゃないので。」


 どうやら新手の宗教勧誘だったらしい。信仰は人の自由だが、俺はどうもこのような勧誘をする宗教は胡散臭く感じてしまう。そしてこういうものには「俺が神だ」といえば大体何とかなるのだ。

 

 ドアを閉め


がちゃん!


ようとするとラッパーがドアを押さえつける。


「二度も締め出そうなんてどういう了見ですか?」


 なぜか怒りのマークを頭につけているが、別に普通ではないだろうか?


「二度もって行為ののは三回やるもんじゃん?」


「三回もこんなくだりやってられるか!」


 我慢のなさが彼女の欠点だろう。洋子は無理やりうちに上がり込むと、勝手に人の(清志の)荷物をまとめ、俺は胸ぐらをつかまれて外出することとなった。


「で、どこに行くつもりなんだよ?」


 観念してついていくことにしたわけだが、肝心の目的地がわからない。高性能のパソコンのあるネットカフェなら喜んでいくけど。


「もうすぐ着きますよ。今日はあってもらいたい人がいるのです。」


「ふーん。」


 わざわざ退陣能力の低いと自称する自分に会わせたい人とは…彼氏か?「お父さん許しませんよ!」とかいえばいいのか?くだらない妄想にふけっていると、着いたのはこの町の最寄り駅「不死身駅」だった。なんかよくわからないがすごい名前だと思う。洋子が駅の方向へ手を振った。


「オッスオッス。ここで会ったが百年目なのです。」


 彼女の視線の先には二人の少女がいた。一人はまだ肌寒い季節だというのに真夏の真っ盛りのようなノースリーブと短パンを履いたチビだ。目測皆夫より小さい。小学三年生と言われても通りそうだ。もう一人はそのチビとは対照的に真冬、とはいかないもの不釣り合いな大人用のハイネックセーターを着た目にクマを付けたけだるそうな少女だった。こちらから見て右側に髪をくくっているのが少し変わっていて印象的だ。二人はどちらもようこの変な挨拶には応じず、ちびの方が洋子に絡んできた。


「おい洋子!私たちをこんなところに呼び出して何のつもりだ!」


「用があるつもりですよ。」


 洋子の奴、あちらさんにもその用を伝えていなかったのか。帰っていいかな?


「洋子、約束は果たしたでしょ?帰っていい?」


 目つきの悪い少女は俺と同じことを思っているらしい。そうだよな!家最高だよな!てことで帰ろうぜ!そんな俺の心の中の思いを洋子は容赦なく砕く。


「約束はこれからですよ。さて清志、こちらの二人は私のクラスメイト。ちびっこいのが鳴弦めいげんリズ。目つきの悪いのが天照院てんしょういん千歳ちとせです。」


「誰がチビだ!」


「貴女です。」


「なんだとー!」


 リズと呼ばれたチビが洋子に殴りかかる。一瞬ぎょっとしたが、即座に洋子に取り押さえられた。見た目通りの弱さだ。それにしても鳴弦と天照院、かっこいいじゃないか。和風ファンタジーに出てきそうだ。


「で、こちらは清志という私の下僕です。名前は…仕方がないので鈴堂清志と覚えてください。」


「桑田清志だ。」


「「(* ̄- ̄)ふ~ん」」


 なぜかいきなり格下認定された気がする。洋子の奴、あとでシバいたろか?


「で、用件は何?」


「我ら三人合わせて「ゴルゴーンシスターズ」の親睦を深めるため、皆でゲーセンに行くのです!」


「「「は?」」」」



 そんなこんなで電車に乗り、大分歩いてゲームセンターに向かった。それにしてもこの三人がコンビだったとは…。「ゴルゴーンシスターズ」ってひどい名称だな。などと思っていたが、どうやらこれは洋子が勝手に結成命名したらしい。友達ってわけではないのか…?


「ゲーセンかー。あれだろ楽し奴。行くの久しぶりだな。」


「あんな喧しい場所のどこが楽しいの?はあ…死にたい。」


「約束ですからね。とことん付き合ってもらいますよ。」


「はいはい。」


 会話を聞く限りやはりあんまり仲良さそうじゃない。洋子が強引なのは知っているが、度が過ぎて嫌われないか少し心配だ。幼馴染としては本当の意味でよい友達がいてくれればと思うわけだが、自分の現状から分かる通りアドバイスなどできるわけもない。彼女たちがそうなってくれればいいなと話すことのない清志は考えを巡らしていたわけだが、


「ちなみにこの清志はゲーム以外に生きがいも何もない代わりにゲームの腕は一流です。ゲームのことならいつでも頼ってください。」


「「へー。」」


 なんだろう全然褒められてねえ。どんどん彼女たちの視線が冷たいものになってきている気がする。やっぱりさっきの考えは無しだ。こんなひどい娘は友達なんていなくても何の問題もないわい!愚考だったと後悔した。そしてパーキングステーションというショッピングセンターの中にあるゲームセンターに着いた。ここら辺の地域では一番大きいところだろう。


「では清志、私はリズに教えるので千歳の方をお願いするのです。」


「お願いするって何をだよ。」


「もちろんデビファンですよ。最近アーケード版が登場してPC版では手に入らないレアアイテムが…」


「よっしすぐ行くぞ千歳!」


「あ、何!?引っ張らないでちょっと!」


 目の色が変わった清志に引きずられていく千歳。リズはあまりの豹変ぶりに言葉をなくしていた。


「じゃ、私たちも行きましょうか。」


「あ、ああ分かった。」


 洋子はいつものことなので平然と二人の後をついていくのだった。リズはその姿にまた困惑を隠せなかったのは言うまでもない。

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