第6話「デビファン(アーケード版)のチュートリアル」
「ほうほうほうほう」
デビファン用の機体から操作方法を理解した。どうやらPC版は連携が可能だが、装備とレベルは一部しか引き継げないようだ。逆にPC版へはアーケード版から装備やアイテムすべて遅れるらしい。いいじゃないか。千歳を呼び寄せアカウントを作成する。
「でここからジョブが選べるから好きな奴を選んでくれ。」
「はいはい。」
千歳のキャラクター名は「セン」千からとったのだろうか?ジョブは「
「じゃあ操作方法だけど、ガイドもあるし分らないことがあったら聞いてくれな。」
「はいはい。」
千歳はだるそうに始めたが呑み込みが早く、数分後にはすらすらとキャラクターを動かせるようになっていた。
「で、次は何するの?」
「じゃあクエスト行ってみるか。」
ということで俺もログインした。
PCプレイヤーのアカウントはこちらでは開始時点のキャラクターレベルの十分の一になるようだ。よってセイのレベルは六だである。
「スキルは全部あるのか?いやレベル相応か。まあ問題ないな。」
「で、どこ行くの?」
「メインクエストだな。気楽に行こうぜ。」
そうして二人はクエストに向かう。
『おお旅の方ようこそビギン村へ。私はこの村の村長でございます。どうぞごゆっくり…と言いたいのですがこの村は今魔物に襲われて困っていまして…。』
『魔物を討伐していただけるのですか!?それはありがたい。お礼はタップりと…。』
RPGにありがちなストーリーが流れていく。どうやらPC版とは内容が異なるらしい。流れとしてはそうおかしいものではないのだが、千歳は終始苦い顔をしていた。
「ねえ、ひとつ聞きたいんだけど…。」
「なんだ?」
「なんで登場人物が全員馬なの?」
確かに自分たち以外の話すキャラクターは全員二足歩行する馬だ。等身大の馬のようでこちらよりの全然デカい。
「バグだろ。」
「そう。登場人物の名前がウマ太とか、ウマミなんだけど?」
「そ、そういうウィルスに感染したんだよ。ほらトロイの木馬的な!」
『よう旅人さんたち!何なら俺っちが魔物のいるところの近くまで連れて行ってやるよ。どうだ?俺の愛馬「プロビデンス」だ。こいつに乗ればあっとい馬よ!Y/N』
「………逃げます。」
「うん。」
馬の上に馬が乗っている姿はさすがに怖すぎた。
指定ポイントまで付くと討伐対象が群がっていた。あとはこのエネミー(敵キャラ)を倒すだけであるのだが、
「じゃ、あとはあれを討伐してしまえばクエストクリアだ。」
「このかわ…するの?」
「このかわ?…ああこれを討伐するんだよ。デビファンで一番最初に戦うゲームの代表的なモンスター「ちびデビ」だ。」
饅頭につぶらな目とπ(パイ)のような牙の生えた口、あと蝙蝠の羽をつけたような姿をした悪魔ちびデビ。口から火を吐きタックルしたりして攻撃するモンスターだ。その説明を聞いたセンは閃いたように言う。
「あ~、ドラ〇エのスライム的な…。確か物理が効かないとか…。ならこれも?」
「ちびデビを馬鹿にしてはいけない。こいつらはスライムよりも全然弱い。」
「…。」
リアルで千歳がこちらをなぜか汚物でも見るかのようにみてくるのはどうしてだろう。ゲームに集中しろゲームに。そう、ちびデビは弱い。攻撃を当てれば死ぬ。レベル位置装備なしの攻撃でも一撃で死ぬ。っというかぶっちゃけ触れば死ぬ。ファンデビ中最弱のモンスターだ。
「これあの馬たちだけでどうにかなると思う。」
「それは否定しないけど操作慣れとレベル上げのために必要なんだよ!ほらやるぞ!」
先ほど以上に苦い顔をしながらセンは弓を構えた。
「うっ…。」
センはちびデビを視認する。ちびデビはセンに対して無垢な瞳を向け首をかしげるかのように体を横に傾けて鳴く。
『きゅー?』
「うぅ…。」
センはその手が震えるが弓を構え続ける。ちびデビは警戒するそぶりもなく好奇心に満ちたような愛くるしい目でセンを見つめた。
『キュ~~~~?』
ドシュドシュドシュッ!
『キューーーー!』
センの放った矢のうち一つがちびデビに命中した。ちびデビは悲鳴を上げて地面に落下しながら消滅する。彼女は一度当てるとコツをつかんだのか機械的に連続でちびデビたちに矢を当てていった。
『『『『キュキューーーー!!!』』』』
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…。」
そう呟きながら一発も外さずちびデビを討伐する千歳に清志は若干の恐怖を覚えた。
クエストクリア!
クエスト報酬を受け取った後、アーケードらしくカードを手に入れることができるようだ。どうやら敵モンスターの中には倒した後さらに百円入れることでカード化して仲間にできるものもいるらしい。
「ちびデビか…弱いしアーケードでしか使えないだろうし、いらないか。」
「そう。」
チャリン
千歳は迷いなく百円を入れるとカードを手に入れた。…まあ自分がいいのならいいのだろう。
「これで終わり?」
「そうだよ。まだ洋子たちはやってるけど、どうする?も一ゲームするか?」
「もう疲れた。」
「なら出るか。飲み物おごってやんよ。」
店を出て自動販売機で飲み物を買った。
「どっちがいい?」
「三サイダ。」
「ほらよ。」
「ありがと。」
清志は残ったコーラを開ける。選択肢があったほうがいいと二種類買っては見たが、こっちが残ってよかった。千歳も三サイダのふたを開ける。
「うぐうぐ……ぷはっ…はぁ死にたい。」
なにそれサイダーが一気に半分消えたんだけどどんな喉してんの!?っていうか飲んだ後に死にたいってそんなのまずかったの?ンなわけあるか三サはうまいわ!
「何?」
「い、いや別に。」
「あっそ。」
清志の視線に気づいたのか千歳はにらんできた。別に大したことはないけれど、目を背ける。
「…悪かったな。洋子のやつ強引でさ。」
「別に、約束を守っただけ。」
「そか。でも、これからもあいつと仲良くしてくれると助かる。」
「…あっそ。」
その後しばらく無言の静寂の中でコーラをすすった。そしてやっとやかましい奴らがこっちにやってきた。当然のごとく洋子たちなのだが、洋子は興奮した様子で清志に詰め寄りながら言う。
「聞いてくださいよ清志!りずったらものすごく吞み込みが遅くって教えてたらちびデビに殺されそうになったんですよ!」
「お前の教え方が下手なんだ!ちゃんと勝ったんだからいいだろ!?」
「勝ち方ってものがあるでしょうが!ちびデビに一回でも攻撃を当てさせてあげようとしていたのに変な方向に突っ込んでいくし、攻撃は空を切るし結局体力が危なくなって私がほとんど倒してたらたまたまリズにぶつかったちびデビが死んで全滅って、どんだけ下手なんですか!?」
「初めてなんだし仕方ないだろ!」
「初めての人でも普通に全部倒せる敵なんですよ!」
また口論を始めてしまったようだ。うーん…ちびデビに負けるってどうすればいいんだろ…?ちびデビは二種類の攻撃方法がある。突進と火の玉だ。火の玉はあんまり攻撃力ないし、突進は当たれば死ぬ(ちびデビのほうが)。つまり、突進をよけつつ火の玉を浴び続けると…って結構大変じゃないだろうかむしろ。さらに二人の公論はヒートアップしている。さすがにどうしようかと思ったら、
「そろそろ黙って。」
千歳が二人の首襟をつかんで持ち上げ強引に黙らせた。
「「ご、ごめんなさい。」」
「はぁ、死にたい。」
二人を降すと、とてもけだるそうにそう呟く。その時一部始終を見ていた清志の脳内で、絶対怒らしてはならない人ネームリストの中に千歳の名前が大々的に記帳されたのだった。
もう千歳がつかれたということで、電車で帰ることになった。
「なぁ洋子。なんで今日俺連れてきたんだよ。千歳は吞み込み早くて指導なんていらなかったしリズ一人なら俺必要ないじゃん。」
もともとああいう複雑なゲームにはわかりやすいチュートリアルがあるものだ。それがあれば一般人も誰かから習う必要などない。ならば一体何が目的だったのか。
「それは、根暗ボッチである清志と千歳は気が合いそうなので、仲良くなってもらいボッチを解消しようかと。」
「「余計なお世話(だ)。」」
「ほら、やっぱり気が合うじゃないですか。」
いや俺別にボッチじゃないし。皆夫とかゲームとか、いろいろあるし。千歳もリズと仲がいいようだし、ボッチとは言えないだろう。
「まぁ、みんなで楽しく遊びたかったというのが本音ですかね。またデビファンで遊びましょうよ。千歳たちもパソコン持っているのですし。」
「ん~考えとく。」
あけっらかんと答えるリズと対照的に、
「は?やるわけないでしょ?」
千歳は嫌そうに拒絶した。それに洋子は不服そうで彼女の体を揺らす。
「えーやりましょうよー。」
「やらない。やらないから。っていうか体揺らさないで。」
洋子のうざがらみがかわいそうになってきたので止めようとすると、違う場所から声がかかった。
「あれ?千歳?」
「瞳…先輩?」
そこにいたのは買い物袋を両手にぶら下げた瞳だった。なぜか学校もないのに制服である。
「こんなところで会うなんて奇遇だな!あれ?リズだけじゃなくて、洋子と清志君もいるじゃないか。」
瞳は手を振ってこちらに来た。「よう」と挨拶すると彼女はにこにこ笑う。
「瞳は千歳たちと知り合いなのですか?」
「ああ。昔馴染みさ。みんなは何か遊びにでも行ってたのか?私は見ての通り買い物だよ。」
「あ、えっと…私たちは…。」
言いよどむ千歳に洋子はにぃっと笑う。
「いま、ゲームセンターでデビファンをしてきたんですよ。アーケード版結構楽しかったのです。」
その言葉に瞳は少しうれしそうに千歳のほうを向いた。
「ってことは千歳たちもデビファンするのか!?なら今度私とも一緒にやろう!
フレンド登録してさ。」
「はい!」
?いまとても元気な返事があったような…千歳の声で。
「リズもな!」
「はいはーい。」
淡々と進んでいく話に洋子も困惑している様子だ。
「瞳先輩と一緒にゲーム…えへへ…。」
先ほどまでの陰鬱な雰囲気はどこへやら、滅茶苦茶うれしそうな千歳がそこにはいた。その顔を見た洋子が清志に耳打ちする。
「なんか、最初から瞳に頼めばよかったです。清志はいりませんでしたね。」
「おい。」
自分で言うのは構わないけれど、他人に言われるとむかつくことってあるなと思った一日だった。
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