第 2話 緑
「ねえ、窓口さん、今日の
その日もクロエは管理棟の主室へ入るや、
舌の上には銀が二粒。
いたずらっぽく笑う顔はほつれた巻き毛に縁取られ、
「昨日も今日も明日も同じ。ラウレイオンの優遇比率で不満なら換える機会はないね。大体、田舎で簡単に
「田舎だって野菜も魚も値は変わるわよ」
クロエはおどけた不満顔を作り、起き上がる。
「銀が簡単に動いたら、その値だってつけられないじゃないか。それに、野菜や魚の値が変わっても、ここじゃ、食事は配給だ。筋は通ってるだろ」
不愛想に徹するイリソスに苦笑しながらクロエは銀一粒を指先でつまみ、もう一粒を再び口に
「今日は冷やかしじゃないのか……だったら、一度に換えれば良いだろ」
彼女が顔を出し始めて数か月。実際に換金するのは初めてだった。釣り合った天秤と銀の音色を確認し、イリソスは青銅貨を数えて渡す。
「銀は腐らないから価値が上がるのを待つわ」
「……取引1回ごとに手数料取るぞ」
「それって『田舎』らしくない制度じゃない?」
奥へと進み始めていた彼女が
甘やかに彼をにらんだ緑の輝きはすぐ様、隠れ、代わりに商人達へと向けられる。配給より高級品を売る出入りの者達が笑いを浮かべ、迎えるのがイリソスには見えた。
「干し肉と干しイチジク
「青銅四枚でいいよ、お嬢さん」
ここであってはならない商談めいた響きを彼は無視した。
クロエが前室の方へ手招くと、出入りを
「
イリソスは思わず、ため息と共に
彼女は衣服を染める
するとクロエが再び視線を彼に注ぐ。それが意外な程、静かでイリソスは決まり悪げに言葉を継いだ。
「美人の花売り娘は歓迎される」
「私は腕が良いから、こっちの方が稼げるの」
「港町に行けば割の良い仕事があるだろう」
「私がいなくなって良いの? 寂しいでしょ?」
一際、
――君の願いも、祈りにも似た戦いも、僕は知らなかった。
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