枯れダンジョンの巡礼花
小余綾香
第 1話 かえり
むき出しの赤茶をさらす台地は巨大な火竜が二頭、うずくまる
夏至の閃光に焼かれ、立ち昇る
イリソスは、六十年の独占使用権を得た、このラウレイオンの地にそんな畏怖さえ覚えていた。
恐れと汗にまみれた体は小さな手押し車を支え、焼ける大地を踏みしめる。竜と竜の狭間に入り込む錯覚を覚えながら、彼は渓谷へと進んで行った。
イリソスは小柄な男だった。農夫程の屈強さはなく、後頭部へずれ落ちた
それが人力のみを頼み、車と共に乾き切った斜面を行けば何度となく滑り落ちそうになる。岩々に車輪を留め置き、彼は必死の
やがて
それでも彼は車を抱えたままだった。
「もう大丈夫だよ、クロエ」
枯れた声に応じ、布が盛り上がって崩れる。栗色の髪がボロをまとわり付かせながら垂れ、
「無理をさせて、ごめんなさい」
彼女は水袋を両手で差し出した。
イリソスは疲れ切った顔に笑みを浮かべた後、袋口に取りついて中身を
山をえぐり作られた
それはかつて
「新年の女神の祭は村で祝おう。ここで暮らすのは無理だよ」
イリソスはそっと声をかける。
「魔法を使ってはいけないよ。体に
数瞬の沈黙の後、クロエはゆっくり彼へと向き直った。
「ここはどうなるの?」
「もうここはただの鉱山跡だ。魔も枯れたし、銀も枯れた。ずっとこのままだよ」
「そのただの鉱山に魔が
「その時はその時。若さと力を持て余した奴らが腕を試す場所は必要だ」
イリソスは後ろめたさを覚え、遠い目をしながらも言い
「そういう場所だから君とも出会った」
「そうね。私達の青春」
するとクロエの声は思いの外、明るく返った。それはかすかに歌うような響きを帯びる。
しかし、
「だから、私、ここをまた魔窟にしたくはないの」
再び声音は切に迫り、それから、
「ね、『窓口さん』」
彼女があらん限りの力で十八の頃の、茶目っ気たっぷりな笑みをたたえるのがイリソスには判った。
――君は嘘つきだ。
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