第 6話 粉
「窓口さん、今日の
クロエは軽い流し目を寄こしながら一度、足を止める。イリソスが
「ねえ、窓口さん。二人、入れて良い?」
不意に影を落とされ顔を上げれば、彼女は
「何を買う?」
「穀物粉と
イリソスが合図を送ると衛兵は
イリソスはため息がちに声を
「まだ山から下りないんだね」
「ここを征服するんだもの」
「遊びは程々にしなよ」
「あら、私、本気よ?」
「魔法の腕試しでもしたいの?」
ダンジョン化した初期、ここへ来た有志は奉仕する名誉のためだった、と聞く。しかし、今の挑戦者は大抵、自らの力を証明し、報酬と未来を得るのが目的だ。
特に魔法を修めた者は、そうだった。
魔法は日常、求められる域を超えれば、関心を払う人が少なく、有益さも理解されにくい。優秀な魔法の使い手にとってダンジョンは自らの実力と、力の将来性を示せる場なのだと、ラウレイオンにいれば耳に入った。
しかし、
「そんなことして、どうするの?」
クロエはきょとんとした顔でイリソスを見下ろした。その余りに無防備な表情は彼女が心底そう思っていることを語る。それが寧ろ不快でイリソスは眉間にシワを寄せた。
誰もが受けられるわけではない教育を受け、それを受け止める才の器もあった人間は無自覚に
「私がここへ来たのは、大事な人が山で殺されたから」
明るくさえ聞こえる声音で紡がれた内容を
『だから、デイアネイラに復讐しに来たの』
ささやいた瞬間、彼女の瞳は冷たい光をたたえ、イリソスの視線をとらえた。
そこに荷を抱えた男達が現れ、クロエはにこやかに身をひるがえす。彼等に続き、
「お前、本当に純情だな。カモだと思われてるんだから気をつけろ」
「粉かけられて本気になるなよ」
物売り達の
――僕がもう呪いのさだめを見つけていたことを君は知らない。
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