川と橋
男は川辺にいた
川辺でじっと向こうを見つめていた。
向こうからは手招きをする影がある。懐かしい人たちの姿がいくつもあり、彼らが男に手招きをしてきる。
しかし、
男は首を横に振る。
もう少し
もう少しでいいから待っていてほしいのだと合図を送る。
すると、彼らは理解したようすで頷くと、そのままじっとたたずんで男の方をみていた。
やがて、男は川とは反対方向を振り向く。
すると、向こう側からひとりの女が手を振りながらかけてくる姿があった。
最初は九十すぎの老婆で足取りはたどたどしかった。
しかし、近づくにつれてその姿は若返っていき、いつのまにか男とそう変わらぬ二十歳ほどの女へと変わる。
その姿はまさに男も女が結ばれたときの年齢だった。
「待たせてしまってすまなかったね。あなた」
「そんなにまってないよ。ほんの百日だったよ」
男は女の手をとる。
「さあ。いこうか。みんながまっているよ」
「そうだね」
男と女が川のほうをみるといつのまにかそこには向こうへと渡る橋が現れていた。
「さあ、いこうか。これでしばらく此岸との別れだ」
「そうだね。あなたといっしょに彼岸へいけてうれしいよ」
「そうだね。でも、また此岸へいくときも一緒だといいな」
「それは別々さ。でも、きっと私たちはまた結ばれるさ。そうでありたいものだね」
そんな会話をしながら橋をわたり終えた二人は、出迎えてくれた自分達よりも先に逝ってしまったものたちとともに彼岸へと旅立った。
────────────
そんな夢を見たのは、ただの偶然でした。
その翌日、ちょうど百日前に旦那さんを亡くされたおばあさんが亡くなりました。
私の担当していた方だったので悲しくて仕方がありませんでした。
もう動かなくなった体を触れながらわたしは語りかけます。
「お父さんがお迎えにおられたのですね?ね。あの世でも仲のよい夫婦でいてくださいね」と語りながら仲睦まじい老夫婦の姿を思い浮かべるのでした。
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