ある人は名言だという
夜勤というのは職員の数が少ない。
まあ、
当たり前と言えば当たり前のことだ。
おれの施設では、ふたりで四十人もみないといけないのだ。しかも認知症ばかりだから、夜とはいえども寝てくれない人もいる。
「おーい!おーい」と叫んだり、そこら中徘徊したりする。
床でおしっこする人もいる。これっていわゆる立ちションというやつだな。
うーん、おれにも経験ないわけじゃない。若気のいたりというやつで、ダチと立ちションして怒られた記憶がある。
あー、これは内緒な。
とにかく、トイレ以外の場所でだすんだよ。
床だろうとゴミ箱だろうと関係ねえ。
認知症のじいちゃん、ばあちゃんにとってはどこでもトイレだ。
いや、ただトイレがわからずに間に合わなかったため出してしまったというのが正解なのかもしれねえ。
そんな想像をしてみるが、正確なところなんてわからないもんさ。
俺はあいにくまだ認知症のじいちゃんではないのでね。
話は戻すが、とにかく床なんかでおしっこするわけだ。おかげで俺はなんどかそれですべりそうになったことがある。滑って転んだらおしっこまみれになるというわけだ。
まあ、そこまでなったことはないのだが、見つけたら拭き取って消毒しなけれならない。
そんな作業を真夜中にひとりでしていると、次は別のばあちゃんが出てきて大声で「おーい、おーい」叫びだしたりするし、なんかばあちゃんが手にうんこもってうきうき気分で出てきたりもする。
一人ずつ時間をずらして行動してくれればいいのだが、それがいっぺんに行われたならば、こっちとしてはてんてこまいだ。
何度発狂しそうになったことか。
ついでにコールを異常なほどにならすじいちゃんもいたりする。部屋にいくとたいしたようではない。
時間は何時かって聞いてきたり、お茶をとってくれといったり、きがえるから服を出してなんていってくるものだから、思わずいまは忙しいといってしまったこともあった。
そしたら、じいちゃんは怒るわけさ、
何度なぐられたことか。
何度もつねられたことか。
繰り返すうちに避け方は覚えてしまったのだが、
なぐられたからといって手を出すわけにはいかないわけよ。
そんなことしたら、高齢者虐待といわれるわけよ。職員がなぐられたからっていって騒動にならないが、職員がなぐると騒動になるんだよね。
本当に世の中は介護職員にたいしてつめたいんじゃねえ。
おしっこは拭かないといけないし、ばあちゃんの手から便をとって、手を洗ってやらなければならない。そうこうしている間に家に帰りたいと言い出しばあちゃんが現れたりするし、部屋の窓からベランダに出ようとするじいちゃんが現れたりもする。
いっぺんにくるな。
一つずつきてくれ。
いやいや、
そもそも平和な夜勤でありたい。
俺は夜勤にはいるたびに思う。
どうか、今日はみなさん寝てください。
騒動しないでくださいってさ。
だから、みなさんが寝てくれたときの夜勤があるとほっとするのだ。
今日は平和だったああと万歳したくなる。
まあ、その日の夜勤が楽に感じられるのは、大変な夜勤があることを知っているからなのだろうけどね。
要するに
苦労を知っているからこそ、
楽を知ることができるのだ。
あれ?
俺いいこといったかな。
どうだ。
名言だろう?
自画自賛してみた。
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