第2話

ディープブルー 弐 


「あ!?」

「おはよう」

ニヤニヤしながらミツオを見ている。

「なんで?」

女はミツオの問い掛けを無視して外を眺めている。

「執り憑いたのか?」

女は無視…。

「勘弁してくれよ…」

ミツオは女の足元の自分のたばこをくわえて頭を掻きながら女に火をつけてもらって考えた。

「お祓いしてもらう金なんて無いよ…どうしよう…」

ミツオは無視する女の横に座った。

「お金無いの?」

女が話しかけてきた。

「無いよ…」

女は立ち上がった。

ミツオは女を見た。

「なに?」

「お金ほしい?」

「そりゃ欲しいけど…」

「ついてきて」

女はたばこを灰皿で消して、ミツオに手招きして玄関を出ていった。


 野方駅に程近いアパートの一番奥の部屋へ女は入っていった。女は一応、玄関を開ける素振りはするのだが実際には玄関をすり抜けて入っていった。

「俺、入れないんだけど…」

ミツオは玄関の前で立ち尽くした。

女は、玄関から頭を出して

「カギ開いてるよ」

と言った。


 ワンルームの部屋は空気が死んでいて、時が止まっている感じがした。女はクローゼットの前に立っていて、中を指さしている。

 ミツオは女の死体があるのではないかとドキドキしながらクローゼットを開けた。

「この中のバッグとか時計とか全部本物だから、質屋に入れたらけっこうお金になるよ」

「へ?」

間の抜けた声を出すミツオに女はニヤニヤしている。

「でも、条件があるよ」

「条件?」

「お兄さんの側に居させてもらえないかな?」

「へ?執り憑いくって事?」

「よくわかんないけど、多分そうなるかな…」

ミツオは頭を抱えた…。


 ミツオは女のバッグや時計を質屋に持っていった。質屋の受付の女は怪しい顔一つしないで鑑定していた。女のバッグと時計には全部保証書と箱、状態も良くて全部で70万円にもなった。

 ミツオはとりあえず大家に滞納している家賃を払いに行った。


「すいません…これ二ヶ月分です」

「あら、まだいいのに…」

「いえいえ、いつも遅れてすいません…」

「あら、可愛い彼女ねぇ」

「え?」

「彼女じゃないの?」

「見えるんですか?」

「あら、いやだ…」

「大家さんも見えるんですか?」

「立ち話もなんだから、上がって話しましょうか…ささ、彼女も上がってね」

ミツオは女と顔を見合わせながら大家の家に上がった。

 ミツオは最近の事と女の事を大家に説明した。

「そうだったの…」

大家は落ち着いた表情でお茶を飲んでいる。

「これからみっちゃんはどうするの?このお嬢さん可愛そうじゃない、ずっとこのままいるわけにもいかないでしょ?」

女はじっとお茶を見つめている。ミツオもうつ向いている。

「仕事見つけなくちゃと思ってます…」

「そうじゃないわよ…お嬢さんの事よ…」

「リカです…私の名前…」

「リカちゃんって言うの?いいお名前ね」

「源氏名です…本当の名前は忘れちゃいました…」

「…」

ミツオは黙ったままである。

「リカちゃんは成仏したいでしょ?天国に行きたいんじゃないの?」

「よくわかんないです…ずっと一人でフラフラしてたか…」

「でも、ずっとフラフラしてても寂しいでしょ?」

「…はい、寂しいです」

「ちゃんと成仏させてくれる人の所に連れていってあげるべきじゃないからしら…みっちゃん?」

「…確かに、お金くれたしね」

「そうよ、助けてもらったんだから、今度はみっちゃんがリカちゃんを助けてあげないといけないわよ」

「実は、俺の母親と姉は霊能力者なんですよ。でも、母親は五年前に詐欺で捕まってるんですよ…多分、母親も姉も霊能力なんて無いんじゃ無いかと思ってるんですが…来週相談してみます」

「あら、そうだったの…お母様はなにしたの?」

「なんか、信者に水晶を売り付けたらしいです…」

「…」

大家は無言でお茶を飲んだ。


 ミツオとリカは自分の部屋へ戻った。

「あの大家さんが見える人だったなんて…」

「凄くいいお婆ちゃんだったね」

「いつも世話になってるんだよね」

ミツオはパソコンで成仏について調べ始めた。調べてもさっぱり意味が解らないのだが、何か策は無いかと夢中になった。

 リカは隣でパソコンに夢中になっているミツオを見つめている。

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