第30話 歩み寄る
「自分以外の皆が上手くいっている気がするよね」
結花はさらに一歩踏み出す。ザッ、という足音に真衣が顔を上げる。驚いたのか、涙が止まっている。
「自分の嫌な部分が出て、本当はこんなこと言いたくない、苦しい、助けてって思うよね」
「え」という口の形で、数秒固まって。
「どうして……どうしてわかるの」
真衣の震える声が聞こえた。
不安がお互いの瞳の中にあった。
――私のことを、話そう。でも今度は真衣の顔を見よう。私はこの友達を手放したくないから、心から手をつなぎたいから、話すんだ。
結花は少しの間、胸に手をあてた。思い浮かんだ家族や友達の顔。勇気をもらえるように祈りながら口を開く。
「わかるよ。私もきつい時期あったから。
私、普通の子になりたかったの。CMや、ドラマで見るような家庭。お父さんとお母さんがいて、近い歳の兄弟がいて、皆で仲良くして。
だけど実際は父親は早くに亡くなったし、これから二人で頑張ろうって思ってたら若い父親ができるし、弟はできるし。
もう、次から次に変化が起こって、振り回されるしかなくてさ」
結花は自分に呆れるように笑い、それから深呼吸した。
「中学の時、友達に親ができちゃった婚で、って話そうとしたの。でも言おうとした日に担任の先生が同じ立場になって、友達が『みっともない』って言ったの。クラスも同じ雰囲気だった。その時は苦しかった。世界中から否定された気がした。
今にして思えば、再婚を決めた母に置いて行かれた、って気持ちもあったのかも」
「……」
「ただでさえ私達の年頃って、周りの環境も容赦ないよね。なんていうか自分が固まっていなくて、人の言葉や態度にもすぐ影響受けるし、反発も怖いから意見を通せない。そんな時に進路も決めなきゃだし。
でも真衣は表に出せるだけすごいよ。私は友達に嫌なこと言われたとき、嫌だとすら言えなかった。だから沙紀と話すまで引きずっていたんだと思う。自分で自分のこと、認める勇気が持てなかった。
今だって……私自分のことを話すのにすごく勇気がいった。
本当に、真衣はすごいよ」
「結花……」
真衣の目が潤んでいる。
「私は真衣と本音で話せて嬉しい。どんどんぶつかってきてほしい……これからも。だってこんなに真衣がんばってるんだもん。苦しんでる時に私と話そうって、強い心がある人だもの。真衣は優しいよ。少しでも支えになりたいし、そばにいたい。
別に流行りのお店とか、一緒に行かなくてもいい。良い時ばかり一緒にいなくてもいいの。
愚痴でもいいから、これからも話したいの」
真衣の目から、ついに大粒の涙がぽろっと出た。
結花は友達の横に座る。リュックから、タオルハンカチを差し出した。「よかったら」と差し出す。ためらいの後、真衣は受け取った。
そうして「うわああ」と本格的に、彼女は泣き出した。
結花は震える背中に手を伸ばす。前に光を寝かしつけしたときみたいに、ポンポンと優しく叩く。
「ねえね、大好き」と笑う笑顔が浮かぶ。
弟が結花に授けてくれた優しさだ。
――今度は、間違えなかっただろうか。真衣を傷つけなかっただろうか。
どきどきしながら、真衣の背中をさする。
どのくらいの時間が経っただろう。
しゃくり上げる声の中、「ありがとう、結花」と聞こえた。
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